壊剣のロストメモリア

星宮白兎

序章『二度と届かないあの頃に』

 星色の夜空に思いを馳せる——

 真っ黒なキャンバスにちりばめられた七色の宝石たち。

 一つ一つがとても小さくて、儚くて、隙間の漆黒の海が不安を誘う。

 しかし、とても綺麗だ。

 何にも劣ることなく、自分だけの、自分らしい光を放って夜空を彩る。

 比べることはできない、それぞれが、それぞれの光を持っているのだから。


 ————ッィィィィィィンン…………


 僕が腕を引いた時、鈴のような音が一つ、鳴る。

 白銀の直線を描き、続くように真紅の扇を宙に描く。

 一回りも二回りも大きな、真っ赤な毛並みの獣が音もなく崩れ落ちた。

 手に握る白銀の剣をそのままに、姿勢を崩さす思いに耽る。

 ——こいつらだって。

 ——僕らの敵だとしたって、きっと。

 柄を握る手に、僕はこれでもかと力を込めた。

 白銀に煌く刀身が小さく蠢動し、羽虫の飛ぶような音を奏でる。

 次の瞬間には目の前の獣はまるでガラスのように砕け散り、三日月の光を伴ってキラキラと破片を散らして見せた。

 その様はまるで、夜空に浮かぶ星々のようで。

 己が生命を散らされてなお、人の心を揺さぶるものを持っている。

 僕は一つ息を吐き、白銀の剣を雪積もる地面に突き立てた。

 ——この剣だって。

 ——僕に使われるだけとしたって、きっと。

 思い巡らす先の言葉の続きを紡ぐことなく。

 ただひたすらに、自分ではない何かのことを考える。

『————…………マスター』

 自分の思考の真後ろで、誰か、少女が介入してくるのを感じる。

 輝く薄金の髪を揺らし、白いワンピースに身を包むその少女は、自分が良く知る人の姿だ。忘れられもしない、昔々に世話になった人。

『————…………私は、気にしていませんから』

 ああ、そうなんだろう。見なくても、きっとそんな顔をしているのだ。

 僕もそうだ、何も思っていない——いや。


 


 白銀の剣を抜き取り、鞘に入れることなく柄を握る。

 抜き身のまま歩き出す僕は、曇った心を真っ赤に染め上げたいのだろう。

 それか、または。

 自由な身を縛られて、窮屈そうな『彼女』をかわいそうに思って。

 ただ今だけは自由にと、願っているだけなのだろう。



 ああ、分からない。

 僕は何をしているのだろう?

 僕は何をすべきなのだろう?

 僕は——何がしたいのだろう?

 何もかもが分からなくなる。

 どうか、我が聖剣ヴィタールよ。どうか応えておくれ——

 

 

 

 

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