パーティーの招待はカーチェイスと共に
第1話
不咲区 の外れ、
もちろんそこに住む住民も碌でもない奴らばかりだ。
碌でもない住民の一人。
白いダイニングテーブルて朝食を取るピンクのジャージ姿の少女。フェイル2だ。
黄金の瞳に褐色の肌、つややかな黒い髪。
10歳くらいの少女は小さな口の端からタコ足の一部をはみ出しながらも、モグモグと咀嚼し飲み下した。
そして手にしたフォークで白いボウルに盛られた発光する緑色スープの海から次の獲物を探り引き上げた。
タコの頭だ。
つぶらな目とフェイル2の黄金の目が合ったが、特に感慨もなく少女の口へと運ばれた。
少女が飲み干し既に空になったグラスに、エプロンを着込んだ山みたいな大男が液体を注いだ。
赤い長髪、額には黒く輝く角が。その顔はガタイの割に優男で知性を感じさせる。異邦の
碌でもない住民の一人だ。
そしてフェイル2がタコの頭をハムスターじみた顔つきて嚥下し、グラスに注がれたドロリとした黃緑色の液体(オリーブオイルだ)をあおる。
机の端に陣取り、それを見ていたもう一人の男。
バナナを食べる黄色い猿の絵がプリントされたシャツを着た男だ。
右目が潰れている彼は
無精髭を生やして適当に伸ばされた髪には白髪が混じっており、日々の苦労を想像させた。
彼もまた、碌でもない住民の一人である。
毎日繰り広げられるえげつない朝食に毎回同席する羽目になっているギンジロウは胃をムカムカさせ、齧りかけのトーストを皿の上に戻した。
席を立ってテレビの前のソファに寝転がる。
『あなたのその借金、本当に払う必要がありますか?約80パーセントのお客様が借金の減額に成功しています。さぁ、借金の清算のご相談は竹之内武装弁護士団へ』
無数の重装備ピースメーカーが要塞みたいな弁護士事務所の前に立ち並ぶ映像で締められたCMを見ながら、ギンジロウは俺も相談してみるかと電話番号を思い出そうとしたが、朝の回らない頭は水切りザルみたいに記憶を流しわずか数秒で諦めの境地へと至った。
"Ding Dong!"
家のチャイムがなり、玄関へとアルヴァタールが向かう足音。
「はいはい。今いくよ」
「いや、待て待て待て」
ギンジロウが飛び起きてアルヴァタールを制止する。
俺が出ると目で言い聞かせ、裸足のまま音を立てずに玄関へと向かった。
まるで靴ベラみたいに靴棚の上に置いてあるアサルトライフルを手に取ると、玄関扉へと全弾発砲。
銃声がアパートメントに木霊した。
電線に止まっていたカラスがバタバタと飛び去る。
物陰に隠れて反撃が無いことを確認すると、ギンジロウは長い木の棒(レゲエキラーだ)でドアをつついて開け放った。
既にドアはバカになっており、丁番の擦れる音と共にゆっくりと開く。
果たしてその先に居たのは派手なスーツ姿の大柄な男達だ。
世間一般に言うヤクザと言うやつである。
血の海に沈み痛みに藻掻いている彼らをギンジロウは殺してはいない。
足元を狙い撃っていたのだった。
「テメーら!ボスに伝えな!うちにお前ンとこの支部一つ潰せる物騒なガキは居ねぇってな!次来たらテメエの本部に砲弾の雨を降らせてやる!5分後にまた来るからな!もしまだ居やがったら生きてる事を後悔させてやる!」
苦しむ彼らの前に仁王立ちし、言いたい事を言うだけ言って乱暴に扉を閉めた。
風穴だらけの扉がついに耐えきれなくなり傾く。
ことの発端は三日前に遡る。
※※※
フェイル2がギンジロウの家に置かれてから、彼女がする事といえば多くはない。
テレビを見ながらソファでゴロゴロとするか、エネルギーが枯渇する前にアルヴァタールにねだり食物を摂取するか、自室で情報の整理をするか。
そう、自室が与えられているのだ。
と言っても三畳、四畳程度のウォークインクローゼットであるが。
その自室は少ない衣類と戦闘用装備、小さなマットレスで占められており、スプリングの死んだマットレスの上で丸まりながらフェイル2はフェイル28との戦闘をリピートした。
もし一対一で戦っていたのなら?
シュミレーションのどれもがフェイル2の敗北で終わっていた。
水中で窒息させ殺された。
殺しきれずに触手で圧殺された。
パイプに引きずり込まれ殺された。
そして彼女は結論づけた。
人の形をした己は弱いのだ。
爪も牙も持たない人型は身体的アドバンテージが少ない。
何より火力が足りない。
ならばどうするか───。
『兄貴ィ、大塚組の奴らがカチコミに来ましたァ!!』
『馬鹿野郎!狼狽えるんじゃねぇ!倉庫からマイクロニューク持ってこい!』
『アイサー!』
『八崎組を舐めんじゃねぇぞォ……。倉庫にゃ企業から横流された、えげつない非人道的兵器が無数に有るんじゃからのぉ』
そして爆発するSFXを背景に男が敵へと駆け出した。
───そんな、昼のくだらないドラマをフェイル2は思い出していた。
その日の夜。
ギンジロウもアルヴァタールも寝静まった頃。
フェイル2は動き出した。
ニュースで得た情報を元に、最も近いヤクザ事務所へと向かったのだ。
闇夜に紛れてヤクザ事務所まで辿り着いたフェイル2は入り口に居た二人の門番をのして、頑なに閉ざされた鋼鉄の扉を無造作に蹴破った。
厚さ4センチはある鋼鉄の扉がはじけ飛び中を舞う。
その姿はギンジロウが家の居間の扉を開ける時に酷似していた。
"drumming!!"
"drumming!!"
鳴り渡る太鼓の音。
警報装置の警告音だ。
赤いパトランプがクルクル回り明滅する。
「出合え!出合え!」
一瞬で事務所が慌ただしくなり、入り口へとヤクザが殺到する。
「何処のもんじゃい!おぉん!?」
いの一番に来たスキンヘッドの男は量産されたポン刀を肩に乗せてフェイル2を訝しみながらもメンチを切った。
「はい。804号室サンふらわぁ156-5kg ヨリナミ町フザキ区サクラバ機械管理地から来ました。企業から横流しされた、えげつない非人道的兵器は無数にありますか?」
「ッッチャラー!なめとっとガキが―!」
その時、ヤクザの群れの中から一人、身なりの良いオーダーメイドスーツを着てメガネを掛けた男が現れる。
ピカピカに磨かれた革靴は男のサイコパス的笑みを映し出した。
インテリヤクザという奴だ。
「まぁ待てや山田ァ。お嬢ちゃんいい度胸しとるの?ちょっと奥に行こうか」
彼はフェイル2の背中を押して事務所の奥へと連れて行った。
その数分後。
「お前!お前!来るな!来るなよぉ!」
「なんでハジキが当たらねえんだ!」
「ママーーーーーーーー!!!!」
「企業から横流しされた、えげつない非人道的兵器は無数にありますか?」
その日、不咲区の一角で一つのヤクザ支部が壊滅した。
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