モノを作る、その過程に物語がある。

鍛治、料理、時々戦闘。異世界ファンタジーでありながら、物作りに重きを置き、その過程がストーリーに密接に関わる異色作。

大多数の物語において、物作りは成果物と主人公を結びつけるためのフレーバーでしかありません。例えば鍛冶屋の物語であれば、重要なのは産み出される剣であって、それを生み出す工程ではないのです。

でもこの作品では、鍛治は常に主人公の暮らしの中心であり、世界との接点であり、そして物語の鍵であり続けます。産み出される剣ではなく、それを生み出す鍛治こそが、物語を紡ぐのです。

淀みなく流れるストーリーの中心に、忌避されがちな地味な作業を据える。そんな難しい試みを支えるのは、異世界ファンタジーならではの設定。あくまで物作りを軸としつつも、細かいところを端折ることで、ストーリーのテンポを落とさないバランス感覚はお見事。

絵空事ではなく、しかしリアル過ぎない。絶妙なバランスで描かれる、物作りと冒険の世界を彩るのは、それぞれ魅力的な登場人物たち。次第に賑やかになっていく主人公の周囲もまた、読む者を楽しませてくれるでしょう。

鍛治が繋ぐ、人と人。絶えることのない槌音が紡ぐ物語を、どうぞお楽しみください。



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