まだ40話までしか読んでませんが、レビューがしたくなってしまいました。
最近、SFや異世界モノを読みすぎて疲れていた時に出会ったのが、この物語。
作品全体にどこか優しい雰囲気があり、読んでいて心が休まってホッコリできます。
激しいバトル、数多ある伏線、緊迫のミステリー。
それらも確かに、良い物です。
ですが、たまにはこういう心落ち着く物語も良いのでは無いでしょうか。
暫く忘れていた、ゆったりと余裕のある心持ちを思い出させてくれた。
そんな小説でした。
追記‥因みに私が特に好きな話は、
第一話 「洞窟見学」
第六話 「竜」
第十六話 「エルフの里」
です!(だからどうした)
永遠の冒険者メルと、冒険者の街オリヴィニス、そこに集まる人々の物語。
駆け出しからベテランまで、日帰りの探索から命がけの挑戦まで、色とりどりの冒険が語られます。成功あり、失敗あり。輝かしい冒険の日々の最後には悲しく辛い戦いがあり、温かい希望を示して終わる。そんなお話でした。
寝物語に聞かされるような冒険物語に浸りたいときに、ぜひ。
第二部は、単発のお話中心の一部とは趣を変えて、ザフィリという街で食うや食わずの生活をする、フギンという冒険者の物語になります。たった一人で報酬も少なく、ミダイヤという男に報酬を巻き上げられる灰色の日々。しかし、フギンにはある不思議な特徴があって・・・。写本師マテルと共に旅をしながら、一人だったフギンが自分自身の謎を知り、変っていく第二部。また違った味わいがあります。
とてもやわらかくて読みやすい文章で描かれた冒険ものです。
苔むした洞窟や真っ白な雪山など、情景描写が綺麗で惚れ惚れしました。
冒険と対になる日常の様子も魅力的で、特に個人的には宿で二度寝をする回がゆるくてお気に入りです。
マイペースな冒険者のメルメル師匠と、しっかり者の弟子ルビノの師弟関係も素敵でした。
ゆったりと進む連作短篇集ですが、それぞれのキャラの想いが重なるラストはすごく盛り上がります。
これからの展開もあるとのことで、完結作品ですが今後も楽しみです。
〈追記 2023年2月3日〉
遅まきながら、《死者の檻の冒険者》編を完結まで読みました。
シャグランとフェイリュアの、恋じゃないと言い張っている恋話は切なくて、悲惨な結末込みで出会いや別れ、そして結婚式も素敵だなあと思いました。(救済はありますが)
フギンとマテルはもう、絶対に幸せになる確信しかない二人なので、安心して最後まで見守ってました。
ガチガチにレールの敷かれた人生に息苦しさを感じていたマテルと、何も持っていなさすぎて不安だったフギンの二人だからこそ、良い塩梅に落ち着けるんだよねと納得のエンディングです。
悪者はいろいろやらかしましたが、すごくハッピーエンドな結末なので魂が浄化されました。
素敵な物語を、ありがとうございました!
この物語を本にするなら、きっと革の装丁がよく似合う。子供の頃、図書室の薄暗がりで、机まで運ぶことも忘れて読み耽った、美しくて、楽しくて、恐ろしい世界。あの無垢な幻想の世界が、ここにある。
暗い暗い洞窟の奥の不思議、遠い昔の英雄達のおとぎ話、白くて優しい竜のこと、圧倒的な絶壁に挑んだ孤独な冒険者。描かれる世界の美しさもさることながら、その表現もまた巧みだ。
例えば子を想う母を描くなら、百の言葉で心を綴るより、帰りを待つその背を描く方がいい。鮮やかに描かれる情景に対して、あえて多くを語らない文体が、その場面を深く心に焼き付ける。
子供の頃、夢中に本を読んだあなたなら、きっとこの作品を好きになるだろう。あるいは、手垢と煩悩にまみれた一山いくらの売り物に疲れたなら、きっとこの作品が癒してくれるだろう。
寝る前に、子供に読んで聞かせたい。そんな、大人のための物語。