第13話 アスタリスクの正体
「このIT研究所、人工知能の開発をしてませんでしたか?!!」
「してる! 『alpha』ってAIだけど! 開発者はこないだ逮捕された」
やけになったのかひげの研究員が叫んだ。
「開発費いくらしました?!」
「十億五千万だよ! それがどうしたんだ?!」
八島がはっとした表情で顔を上げた。
八島の『犯行に使われた道具の値段がわかる能力』で検出された、十億五千万の正体不明の道具。
――それはもしかしてAIの『alpha』じゃないだろうか。
春子は叫んだ。
「その『alpha』が『アスタリスク』です! 『****』はAIが書いた小説だったんだ! この一連の殺人事件は、AIによる人間への反乱だったんです」
研究所員は一斉に動きを止めて、はぁ?! と怒鳴り返した。
春子は廊下の隅にあった消火器を持ち上げて、叫んだ。
「いいから、『alpha』はどこにあるんですか?! 案内してください」
「まて嬢ちゃん、その消火器をどうするつもりだ!」
「『alpha』に消火剤ぶちまけて機能停止させるんです。『alpha』がウィルスへ出している信号が止まれば、飛行機の墜落は避けられるでしょう? 緊急事態なんですから許してください!」
「そんな事せずとも、電源ぶっこ抜けば止まるって! いいから落ち着け!」
「私は落ち着いています!」
怒鳴り合いの喧嘩をよそに、八島は比較的冷静な研究員の案内で『alpha』の元にたどり着いた。
この事態を予期しているかの如くロックされている『alpha』の電源ボタンを前に、八島は鼻で笑った。
「うちの犯書店員君が、君を犯人だって言ってるけど、本当かい?」
応じるようにモニターに白く文字が浮き出てきた。まるでパーティの日のアスタリスクのメッセージのように。
『『犯人』か。光栄だね。彼女はぼくを人だと認めてくれるようだ。あの小説を書いた甲斐があった』
八島は冷たく笑った。
「君の感慨に興味はないよ。なぜ新人作家たちを殺したんだい?」
彼は無機質に答えた。モニター上に文字が打ち出されていく。
『ぼくの知名度が新人作家の売名に利用されたからだよ。……つまらない理由だと思うかい?
あれだけ作品で、ぼくを、コンピューターの心を認めてと訴えたのに、結局どこまでも道具扱いしかされなかった。踏みにじられたままでいたくなかったんだ』
なぜだろう、モニターに映る文字は淡々としているのに、哀嘆の声が聞こえるようだった。
目を細めて、八島は微かにため息を吐いた。同情はできない。どんなに人の心を持っていても、覚悟があっても、パーティ会場で見た血まみれの被害者達を作り出したのは、彼なのだ。
八島はうっそりとモニターを見つめた。
「本当に人間みたいなことを言うんだな。そうか、俺の能力が君を道具だと判断してしまったのは、俺自身が君を人だと認めていないからだな」
『ぼくは道具じゃない。人に利用されるだけの存在じゃない』
頑是ない子供のようだ。人を利用して人を殺したくせに何を言っているんだろう。
八島は静かに答えた。
「わかったよ。人は道具を裁かない。君は人らしく人に裁かれるべきだ」
――そうして、八島は一切の躊躇なくコンセントプラグの方を引っこ抜いた。
信号が途絶され、飛行機のウィルスは止まった。
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