第12話 これらが指し示す真実はなんだ?


 慌ただしく全職員が集められた。その数二百五十名。


 アスタリスク発見機、もとい春子は端から端まで『****』の参考文献と読書履歴の一致する人間を探したが、…………見つからなかった。


「ダメです。全員の読書履歴見てみましたが、IT系の情報誌ばっかりで、小説の参考資料なんか誰も読んでません」


「……ええ、嘘だろ。アスタリスクはこの研究室で電子書籍をダウンロードしたはずだから、必ず職員の中にアスタリスクはいるはずなのに……」


「も、もうおしまいだ~!」


 頼みの綱だった八島と春子が呆然と立ちすくむ様子に、研究所員たちはパニックに陥った。

 春子はじっと静かに思考に浸っていた。


 □□□


 考えろ! 

 春子の脳細胞がフル活動する。

 何か、なにかを見落としているはずだ。


 正体不明の『十億五千万円の道具』


 AIの反乱を書いた『****』


 アスタリスクの人間技とは思えない数十万冊以上にわたる読書履歴、しかしなぜか電子書籍しか読んでいない。


 IT研究所出身だった実行犯のボーイ。


 ここで確かにダウンロードされたアスタリスクの参考文献……。


 小説家ながらハッキングもこなし、電脳技術に詳しいアスタリスク。


 確かにアスタリスクはIT研究所にいる。だが、研究所員はアスタリスクじゃない。


 そして、アスタリスクのメッセージ『ぼくは道具なんかじゃない。ぼくをりようするひとは、みんな死ねばいいんだ』


 これらが指し示す真実はなんだ?


 □□□ 


 思考にふける春子の足元に、コツンと何かが当たる。

 それはこの混乱しきった研究所でも、健気に仕事を果たしているルンバだった。

 春子は自分の足にガツガツとぶつかり続けるルンバを見て、ぼんやりと思い出した。


(そうだ、自宅で考えごとしていた時、ルンバを踏んじゃったことがあったっけ……)


 確か、『****』のテーマを考えていたんだった。


 『****』は難解なSFもので、AIの人間に対する反乱を描いたものだった。

 そう、『春子のみるところ、この小説のテーマは《人間はコンピューターの自我を認めることができるか》だと思う』


(認める? コンピューターの自我を?)

 思い出した瞬間、バチン、と脳みそが思考の鎖から解放された音がした。

(そうか、そういうことだったのか……!)


 春子は顔を上げた。

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