第6話 殺人事件発生


 救急隊と警察が駆けつけ騒然となるパーティ会場。


 春子はパーティ会場の片隅で目を覚ました。一体何が起きたんだろう。

 起き上がってぼんやりと瞬きを繰り返すが、騒々しさから非常事態が起きているのだけは明らかだった。

 騒がしい一角に視線が吸い寄せられて、春子は目に入ったものにヒッと声を詰まらせた。

 慌てて見回した会場には、複数の男女が血を吐いて倒れていた。

 彼らに駆け寄る救急隊員たちの怒声が響く。


「な、なななに、これ……?!」

「あ、目が覚めましたか。名前言えますか? 職業は?」


 春子が起きたと見るや、ずいっと身を乗り出したのは、警官のようだった。

 手には警察手帳とペンを構えており、春子の事情を明らかにしようという気迫を感じる。

 普通、今まで気絶していた人の介抱にはまず救急隊が当たるのでは? と思わなくもなかった。いや、重症者から手当に入るはずだから、脳震盪程度の自分は優先度が低いのかもしれない。

 春子はどもりながらも答えた。頭が回らなかった。


「ええと、磯崎春子です。みなみ書店の書店員やっています。……今一体何が起きてるんですか?」

 警察手帳のメモにカリカリと書いていた警察官は答えた。

「殺人事件です。作家ばかり男女八人が死んでいます。重態患者も多数。死因はおそらくなんらかの毒物でしょうね」

「え、伊口先生は無事なんですか? ここなし心先生も?!」

「ええ、亡くなったのはいずれも新人小説家でしたからね。伊口先生もここなし心先生もべテラン作家でしょう。どうも殺害の対象にはならなかったようです」

「そ、そうですか。よかった」


 ホッとした半面、聞いておいてなんだが驚いた。まさか一般人にそこまではっきり教えてくれるとは思わなかったのだ。

 春子の戸惑った視線に、警察官は肩をすくめた。


「あの八島さんと似た能力を持ってると聞きました。あなたにも捜査にご協力をお願いするかもしれません。この事件に関係しているかもしれないアスタリスク? でしたっけ、彼にも事情を聴かねばならんでしょうし、彼の人着が確認できるのはおそらくあなただけだと聞いています」


 春子は混乱した。


「ま、待って下さい。八島さんって警察と関係が深いんですか?」


 警察官の言い分では、八島は普段から捜査協力をしているようである。


「深いというか、八島さんはここなし心さんに毎度巻き込まれて、捜査協力をするはめになってますね。いや、我々としても複雑なんですが」


 ここだけの話にしておいてくださいね、と警官は笑った。

 ますます意味が解らない。

 再度聞き返そうと思った矢先、叫び声が聞こえた。


「わ、私です。私がやりました!!」


 とっさに騒ぎのただなかに視線を移すと、血まみれのここなし心が涙もこぼれそうに自白していた。

 八島が彼女を抱え込んで口を塞ごうとしたが、ここなし心はその手を力づくで外して、また叫んだ。「私が犯人です!」と。


「えっ!? ス、スピード解決?!」


 驚く春子とは真逆に、警官は目元を覆って嘆息した。


「あ~、やっぱりやらかしましたか。まぁいつものことですけど」

「?!」

「彼女、狼少女なんですよ。それもとびっきり厄介な」


 警官は苦笑いした。

 立てますかと手を差し出され、春子は礼を言って手を取って立ち上がらせてもらった。

 ――本音を言えば、あまりにもカオスな現状に、もうちょっと気絶したままでいたかったが。

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