高齢者、病人ーーそんな人達が「物」と呼ばれ、文字通り人間扱いされない「くに」。そこで主人公はそんな人々の中でも鬼のような所業を行っているという女性中尉の下についてーー
凄惨な描写が多く、胸糞が悪くなる展開が序盤に続きます。しかしそれもまた、その「くに」の中にそういうシステムがあるからであり、同時に作者の描写が生々しく、筆力が高いからこそ感じるものでした。いずれ……というよりも今も起きつつある高齢者社会の一つの極端な行き先として、深く考えさせるものでした。
結末はハッピーエンドかどうか。これまでの過程を考えると極めて難しいと思います。
苛烈な描写があるので人を選ぶとは思いますが、作品としてはかなり完成度が高い作品なので、そのような耐性があるかたは、是非とも読んでみてください
まるで北と南に分かれた某国のような異常な世界の話。
仕事の出来ない老人や病人は『物』として指導という名の虐殺をしなければならない。
そんな常軌を逸した日常に葛藤しながら、また時に麻痺しながらも主人公である心優しい少年は国のあり方や人のあり方に悩みながらも成長していく……。
『すばらしいくに』とされる民主主義もへったくれもない国の未来は一体どうなるのか!?
主人公はそんな世界でハッピーエンドを迎えられるのか!?
そもそも、こんな世界でハッピーエンドなどあり得るのか!?
それが気になって、気になって、もうハラハラドキドキの連続ですよ!
さあ、君を一緒に『すばらしいくに』を訪れてみよう!
日本共和国は、すばらしい国だ。
長く患う病人もいない。老人もいない。ニートもいない。
それらに使われる税金もない。
だから、国は豊かで、人々は安寧を約束されている。
しかし。
そのために、人々は完全に監視され、役に立たないと判断された人は『物』となる。
そんな国家で、主人公は衛兵将校の中でも狂人として恐れられる一人の女性と出会った。
前半の漢字タイトル部分の陰鬱さと凄惨さ。そして後半のタイトルがひらがなになった部分の、打って変わった雰囲気。そして再び漢字タイトルへ。
ぜひ、そのジェットコースターに乗るように次々と迫り来る絶望と希望。それを主人公とともに味わってみてください。
私は第31話で、涙が止まらなくなりました。
私のざっくりした歴史観で間違っているかもしれませんが、戦後の朝鮮半島を日本に当てはめてみたら、といった作品。日本が東西に分かれてしまいます。
この作品を読んでいて、ハンス・ペーター・リヒターの「あのころはフリードリヒがいた」らに続く三作品を読んだ時を思い出しました。
あの作品はナチスドイツ下での生活や、ヒトラーユーゲントの体験を元に書かれているそうですが、本作品も、そんな臨場感や、しだいに嫌悪していたものから共感を得るようになりつつも、やはり葛藤と戦いながら……、といった感情の流れが、違和感なく書かれています。
老いや病といったものが、「負」としてしか扱われず、人が「物」として処理させる。フィクションではありますが、似たようなことが多々あるのが世界の現実。
特に西日本住民としては、なんだか身につまされるといいますか……。
福祉や人の尊厳を扱うテーマは、下手をするとただ嫌悪しか生み出さないものですが、全編に漂うのは静かな正義であり、こういったものは作者の健全な倫理観が成せるものでしょう。
さて、本作のたどり着く世界はどういったものでしょうか。
今後、さらに盛り上がっていく気配。楽しみな作品です。
福祉を否定し人権の普遍性をもある意味敵視した社会。
そのような社会への嫌悪と恐怖を感じつつ、生きていくために、歪んだ社会の現状に悩みつつ適応しようとした主人公。
過不足ない絶妙に加減された描写でこの歪んだ社会を描き、その社会の気持ち悪さを伝えている。
社会の気持ち悪さを感じるたびに、主人公のこの先が気になるよう誘導され、読者を作品世界へ没入させてくれます。
作品は、主人公のこれからと認識を変えるかもしれない面白い場面に差し掛かっている。
是非、この作品が訴えるテーマと人が人らしく生きようとする主人公の姿を追いかけていただきたい。
そう思える作品です。