番外編 羊羹の日記念 新作羊羹選手権 完
緑珠姫の作品は、器との取り合せもよく三種の光が絡み合って煌めいている。
「これが、羊羹? きらきらしてる、ゼリーとババロアのデザートみたい」
「きらびやかですね」
「器も凝っていて、繊細な細工で、これは目を惹きますね」
緑珠姫は、ふわり、と、すずの前に舞い歩んだ。
「わらわのが一等麗しいとは思わぬか、すずろ」
緑珠姫の長い睫毛には、羊羹に散らした時に舞ったのか金箔がくっついている。
瞬く度に、きらきらと光る。
「えー、試食中はお静かに願います。アピールは作品のみです」
玉兎は緑珠姫のそばに寄ると、振袖をひっぱって、すずろのそばから引っ張って離した。
審査員たちは、神妙な面持ちで、試食にとりかかり、審査票に書き込んでいった。
「みなさま、試食タイム、そろそろ終了となります。では、審査票掲示のご準備をお願いいたします」
美美、すずろ、館長の記入が済む頃を見計らって、玉兎が審査発表の掛け声を上げた。
「まずは、一番、深川選手の得点は……」
審査員の三人が、B4サイズのボードに貼った審査票を掲げた。
「美美審査員は、意匠4、味5、菓銘5、合計14点、すずろ審査員は、意匠4、味4、菓銘5、合計13点、館長審査員は、意匠5、味5、菓銘5、合計15点、満点が出ました! 総合得点は、43点です! 」
深川は、すっと一礼した。
「二番、艾人選手の得点は……」
玉兎は、耳をぴこんと立てた。
「美美審査員は、意匠2、味2、菓銘3、合計7点、すずろ審査員は、意匠1、味1、菓銘1、合計3点、館長審査員は、意匠1、味1、菓銘5、合計7点、これは全体的に厳しい! 総合得点は、17点です! 」
艾人は、何か気にかかることがあるのか、びくっと身震いすると、肩ごしに後ろの方をしきりに気にし始めた。
「三番、緑珠姫の得点は……」
玉兎は、なるべく緑珠姫の方は見ないようにして宣言する。
「美美審査員は、意匠5、味4、菓銘3、合計12点、すずろ審査員は、意匠5、味4、菓銘3、合計12点です、館長審査員は、意匠4点、味4点、菓銘4点、合計13点、総合得点は、38点です! 」
緑珠姫は、美美とすずろの得点が同じだったのに気づいて、むくれて、再び審査員席の方へ行こうとしかけて、再び呉剛に両脇を抱えられて持ち上げられてしまった。
「なにをするのじゃ、納得がゆかぬ」
じたばたしている緑珠姫をなるべく見ないようにして、玉兎が、最終審査結果を発表します、と声をあげた。
「優勝は、深川選手の『
審査員長の美美が「おめでとう。雰囲気のあるとても素敵な羊羹でした。これからもますます精進してください」と祝意を伝えて、熨斗を掛けた竹皮包みの小豆餡を、深川に手渡した。
「審査員特別賞は、郷土資料館分館館長に発表していただきます」
館長は玉兎からマイクを受け取った。
「このたびの新作羊羹選手権にご参加くださった皆様、いずれも素晴らしい作品をありがとうございました。審査員特別賞は、当郷土資料館分館のミュージアムショップに寄せられました御来場者の皆様からのお声も参考に選ばせていただきました」
館長は前置きをすると、作品の菓銘を読み上げた。
「審査委員特別賞は、艾人選手の『
一瞬、しん、となった。
それから、美美が拍手をしながら、艾人に笑顔で「おめでとう」と言った。
すずろもそれに続いた。
「受賞の理由ですが、個包装できて日持ちするものを採用しようと考えてまして、その条件にぴったりだったのですよ」
拗ねている緑珠姫を除いて、皆、お互いに顔を見合わせて、順当なところだろうとうなずき合った。
館長は審査員特別賞と達筆で書いた賞状を艾人に手渡した。
と、突然、不穏な一陣の風が吹き抜け、艾人の手から症状を奪い去った。
そして、瞬間的な異常な速さの空気との摩擦からなのか、炎が賞状を包んだ。
症状は炭となって、艾人に降り注ぎ、そのまま雲散霧消してしまった。
一瞬の出来事だった。
「ええっ、と、これはですね、今入ってきた情報ですが」
玉兎が、茫然としている館長の手からマイクをはずして持ち、話し始めた。
「受賞作品『千種願人』は、おくらさまの発案によるもので、艾人は人の形をとれるのでお運び係を命じただけだと。それなのに、自分だけ表彰されるとは、けしからんと、のことです。つまり、ですね、賞状におくらさまの名前がなかったことにご立腹されたということです」
わかってみれば、ごく真っ当なことで、おくらさまもイベントに参加したかったのだな、存在をアピールしたかったのだな、と、微笑ましい幕切れとなった次第。
場所を蔵に移しての受賞祝賀会は、和やかなひと時となったとのこと。
あやかし冥菓見本帖 美木間 @mikoma
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