気がつけば、もうひとつのエンディング
「本当の都市伝説のはじまり、はじまり〜」
空手部員たちは再び隊列を組み、「セイヤッ、セイヤッ」と掛け声を上げながら正門からキャンパス内へもどっていく。
今までであれば、かなりドスの効いた威嚇目的の掛け声であったのが、なんだか青春ドラマのエンディングで走る若者たちのような、とても爽やかな声に聴こえる。
その彼らと、ひとりの女子学生が正門ですれちがった。
「セイヤッ、セイヤッ、おいおい、今の女子見た?」
「ああ、見た見た!
なんかめっちゃビューチホーじゃかったっけ。
顔が小さかったなあ。
十頭身?
グラビアモデルか女子大生タレントだぜ、俺の勘では。
とんでもない色気が、ムンムンしてたじゃん。
ボーンッ、キュッ、ボーンッ!
クウゥッ、たまんねえなあ、おい!
サイ子さまといい、ウチの大学には実は粒ぞろいの女子が多かったんだな。
セイヤッ、セイヤッ」
「セイヤッ、セイヤッ、なんだか胸がドキドキしちゃうぜえっ。
あの子なんかも、チアリーダーしてくれるのかなあ。
わしらの試合をビデオで撮るよりも、あの子やサイ子さまたちのチア姿を撮ってもらおうぜよ。
当然ブルーレイ・ディスクに最低十枚は保存だな。
はあっ,俺も三代目なんちゃらみたいによ、髪型を変えてみるかあ。
体脂肪率ならほぼ一緒だしい。
うん?
あららっ、は、鼻血だ。
うん?
ところでよ、なんか臭くね?」
「ああ、なんだこの腐ったような臭いは。
生ゴミでも落ちてんじゃねえか、セイヤッ、セイヤッ」
顔をしかめながらもビューチホーな女子を振り返りつつ、掛け声をさらに上げて部員たちは武道場まで向かう。
ふと、その女子学生が立ち止まった。
かなりの長身だ。
百七十五センチは軽くあるだろう。
それにとんでもなく、グラマラスである。
ゆるやかなウエーブのセミロングヘアは、アッシュベージュにカラーリングされている。
ひときわ目立つ真紅のコーディガンの裾と、顔にかかっていた前髪が、ふわりと風に舞った。
盛り上がった胸元が強調されたVネックの白いトップスに、キャメルのスエード台形ミニスカート、同色のショートブーツというスタイルである。
スラリとした脚の長さが際立つ。
空手部員たちが振り返るのもうなずけるほど、整った顔立ちである。
西洋の血が混じっているような白く透き通った肌に、日本人離れした目鼻立ちなのだ。
整形美女? と勘繰るような完璧な黄金比である。
海を隔てた隣国のお手軽整形でも、これほどパーフェクトな造形は無理であろう。
ようは神が与えし、生まれ持った美貌の持ち主であった。
女子学生は肩から高級ブランドのバッグを下げ、なぜか片方の手には黒い風呂敷包みを持っていた。
ちょうどお重を三段ほど包んだくらいの大きさだ。
切れ長二重の目元はその包みを見て、笑みを浮かべていた。
ドキリする妖艶な美しい表情でありながら、単純に
ゾクリとする美貌は、この世のものではない何かが笑顔の下に隠れているような怖さがあった。
女子大生の立つ周辺の空気だけが、氷点下にさらされたように冷たく感ずる。
その違和感を抱く原因は、長くカールした自前のまつ毛に守られた、二つの眼であった。
瞬きを、ほとんどしていないのだ。
しかもまだ明るい時間帯であるにも関わらず、黒い大きな瞳孔が角膜いっぱいに広がっている。
精巧に造られた等身大の人形のようであった。
とは言え、血が通っているのは間違いない。
人外の女子大生はやや厚めの、グロスの光沢まばゆい形のよい唇を開いた。
真っ白な、まるで口腔模型のように整った歯並びである。
インプラントではなく、自前の歯だ。
いきなり、カクッと首が四十度ほど傾いた。
引っ張っていた糸を、プツンと切ったかのように。
「お弁当、今度はちゃんと召し上がってくださるかしら。
愛しい、あのおかた」
鈴を転がすような声で、そうつぶやく。
声までも官能的に美しい。
そして微笑む顔を傾けたまま、凍りついた空気を従えて、ゆっくりと歩き出した。
強烈な腐敗臭の漂うお弁当の包みを揺らしながら。
お、終わりなんだぁ、多分-?-
絶対に、その家だけはやめておけ! 高尾つばき @tulip416
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