あなたの愛が、私を変える

特別な血を持つが故に、美しい吸血族の男に『花嫁』として買われた少女、凛子。心の底から凛子を愛し、命懸けで救おうとする幼馴染の青年、伊織。

読み始めた頃、自尊心の欠片もなく、自己犠牲も厭わぬ伊織の熱い想いに全く気づかないヒロインが大嫌いだった。良く言えば、幼な子のように純粋で従順。だが、血を吸い尽くして命を奪うためだけに自分を買った男に淡い恋心を抱き、言われるがままにその身を差し出す凛子の姿に、否定的な感情を抱く読者も少なくないはずだ。それこそが、作者の意図するところなのだと、後々気付かされることになるのだが。

対して、凛子を尽きぬ愛情で優しく包み込み、時に狂気めいた庇護欲で自らを犠牲にしても彼女を守り抜こうとする伊織の存在は、この物語の動力源だ。伊織の一途な想いに突き動かされて、果たして凛子の心は変わるのか……甘く切ない恋物語として読むのも、この作品の楽しみ方のひとつだ。

仄暗い「異界」でありながら、現実の世界と接点を持つ、不可思議な雰囲気を持つ世界観。謎に包まれた「吸血族」の不気味な存在。そして「翡翠」の哀しい運命が、物語に謎解きの要素を加え、ただの色恋沙汰で終わらないのもこの作品の魅力だ。

現世に近くて遠い、どこか他の世界で繰り広げられる異色の『吸血鬼と生け贄の娘』の物語に待っているのが幸せな未来なのか、あるいは悲劇に終わるのか。その行く末を、最後まで見守りたい。

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