絵本のようにピュアで、刺すようにシビア。温もりがいとしい冬の街の物語。

兄を心から慕うエリと、無愛想ながらも妹の面倒を見るトール。
逃避行を続ける二人はとても近い存在ですが、距離を置かなくてはいけない秘密も持っています。
知らずのうちに寄り添っていく心と心、いまにも繋がりそうな指と指、しかし――と、もう目が離せません。

魅力的な登場人物達が人生を懸けて繰り広げるストーリーとともに、この物語のもう一つの魅力は、一文一文を読むごとに脳裏に広がる物語の景色です。
どこでもドアをくぐらせてもらったようなリアルさで、物語を読んでいる間は冬の国に連れられていくのです。

それもそのはず、作者の熱意は文章の隅々まで行き届いています。
さりげない描写にも繊細な表現が使われ、読み手を物語の舞台へといざないます。
その世界が、本当に美しい。
ふんわりとした水彩画や絵本のような、いとしい冬の街です。

「カリブの時の島」を読んで以来この作者様の大ファンなのですが、やはり今作も私の心を奪って放しません。

今後も楽しみに読ませていただきます!