『三國志演義』の正統な後継たる幻の本が今、初めて現代日本語訳にて見参!

まず初めに、大事なこと。
『通俗續三國志』全体を俯瞰する現代語訳はまだない。
ゆえにこの作品は小説であると同時に研究的価値がある。
幻の本だった1冊が、ここに姿を現そうとしているのだ。

では、レビューをば。
その前に、平伏して白状します。

『三國志演義』、実は詳しくありません。
魏晋南北朝時代、あんまりわかってません。
今回『通俗續三國志』を拝読したのを機に
西晋から東晋にかけて勉強し直しました。

まず「劉淵って異民族じゃなかった?」という疑問から。
その記憶は正確で、彼は匈奴の単于(首長)であって、
漢族ではなく、無論、蜀漢のヒーロー劉備の孫でもない。
が、劉淵は漢の皇室劉氏との縁を理由に、国号を漢とした。

劉淵は『通俗續三國志』では劉備の孫として描かれる。
彼のもとには蜀漢のヒーローの子孫が続々と集結し、
かつて蜀の地にあった義心の国、漢の再興を目指して、
約100年ぶりに中国を統一を成した西晋と相対していく。

西晋は乱れている。皇帝は酒色に溺れて政を為さず、
皇后と外戚の専横に、奸臣どもの阿諛追従が蔓延り、
皇室たる司馬氏の血を引く王たちは互いに争っている。
「おお、八王の乱だ」と、これはさすがに覚えていた。

西晋が八王の乱でてんやわんやしているのと同じ時期、
中国全土を再びの戦乱の渦に巻き込む永嘉の乱が起こる。
史実では永嘉の乱を誘引するのが匈奴の劉淵なのだが、
さて『通俗續三國志』ではどんな描き方がされるのか。

『通俗續三國志』は西晋から東晋にかけての史実を脚色し、
『三國志演義』のヒーローの子孫たちを痛快に活躍させる、
蜀漢ファンによる、蜀漢ファンのための、熱い二次創作だ。
ということを今回ようやく知りました。勉強不足……。

その二次創作が成立したのは、明の万暦37年(1609年)だ。
日本では江戸時代初期には『三國志演義』が輸入されており、
江戸時代中期には『通俗續三國志』も出版されていたらしい。
このへんの印刷物伝播の歴史も、調べたら面白いと思われる。

※『通俗續三國志』の原版である中国語本は『三國志後傳』
※似た名前の『三國志演義』の二次創作@明代はいろいろある

そして、ようやくここからがレビューの本体なのだが、
一言で紹介すれば「風格に満ちた本格派中国歴史小説」。
その文体と風合いは漢文の手堅い読み心地を毫も損ねず、
黄砂混じりの乾いた風、動乱の気運が迫りくるかのよう。

すらすらサラサラと読み進められる作品ではないだろう。
だからこそ、読書人の諸兄にはおすすめしたいと思う。
文章を咀嚼し、未知の情報に触れ、想像力を働かせる。
その「苦しみありきの楽しさ」は読書の醍醐味の1つだ。

時おり文中に挿入される的確な注釈も注目ポイント。
歴史「小説」ではない、歴史「研究」の在り方を、
この注釈から垣間見ることができて興味深いと思う。
応援コメントの情報の濃さもめちゃくちゃ面白い。

大事なことなので、再び明言する。
『通俗續三國志』全体を俯瞰する現代語訳はまだない。
ゆえにこの作品は小説であると同時に研究的価値がある。
幻の本だった1冊が、ここに姿を現そうとしているのだ。

情報量が凄いので翻訳は大変でしょうが、
応援しています! 頑張ってください!

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