明代の中国人も、江戸時代の日本人も、三国志ロスだったに違いない

そもそも『通俗続三国志』とは何なのか。三国志とどういう関係にあるのか。
ビギナー向けにイチから整理しますと、まず三国志の方は
①後漢末~三国時代(2~3世紀)に実際にあった出来事をもとにして、
②西晋時代(3世紀末)に陳寿が歴史書『三国志』を編纂、
③宋代(5世紀前半)に裴松之が注を付けて様々な逸話を追加、
その後、講談になったり、その記録台本が『三国志平話』として出版されたり、舞台化されたりしてパンパンに膨らんだところで、
④明代(14世紀頃)に羅漢中(?)が歴史小説『三国志演義』を成立させ大ヒット。

で、この『三国志演義』人気にあやかって、
⑤明代、酉陽野史という人が三国志の後の時代すなわち晋代の史実に三国志要素をたっぷりまぶした『三国志後伝』を成立させる。

これらが江戸時代に日本に伝わって、
⑥『三国志演義』は元禄期(17世紀)に日本語訳『通俗三国志』が成立。
⑦『三国志後伝』はそれから少し後の宝永~享保期(18世紀初頭)に日本語訳が出る。前半が中村昂然による『通俗続三国志』で、後半は尾田玄古の『通俗続後三国志』。
ただしこの場合の日本語訳とは、漢文の読み下し文という程度。現代の日本人からすれば完全に古文。

ということで本作品は、中村昂然の『通俗続三国志』の現代語訳という位置づけですね。
成立過程を追うだけで、壮大な歴史の一端を目撃したような気分になります。

さて本作品。厳密さよりもわかりやすさに配慮した超訳とはいえ、あくまで原本のある翻訳。
物語の中身についてあれこれ言っても、その部分は何百年も前に作られたものなので……

レビューとしては、何よりこの大部を全訳するという大事業を成し遂げたことへの賛辞を第一に述べるべきでしょう。
しかも、原本の矛盾点を精査して注を付ける作業まで! 本当に頭が下がります。

最終的には、図書館や書店の歴史学コーナーに分厚い専門書として置かれてもおかしくないのではないかという気がしますが、まさかこんな形で出会えるとは。
この作品を無料で読めただけで、カクヨムに登録して得をしたように思えます。

きっと中国でも日本でも、三国志を読み終わって「あああ、終わってしまった……この先、何を楽しみにしたらいいんだ……」的なロス状態になった人がたくさんいたんだろうなあ。
そういう人たち向けにこういう話を作ったら、売れると思ったんだろうなあ。
実際、自分も好きな武将の息子とか孫とか出てくるとテンション上がるもんなあ。
何百年たっても、人の考えることって変わらないなあ。
そんなことを思いつつ、ニヤニヤしながら読みました。

引き続き、『通俗続後三国志』の方も期待大!です。

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