史料的価値の高さならカクヨム一!

三国志を初めて読んだ際にこのように思ったことがある人も多いだろう。

「え、蜀負けるの?」

そう、蜀は負けるのである。っていうか三国全部滅びて晋とかいう知らない国ができるのである。そういや世界史の授業ではちょっと寝てる隙に、いつのまにか隋とか唐が台頭してたな……。

史実に即したお話なんだからそこに文句を言ってもしょうがないのだが、それでも不満を言いたくなるのが人の性。
そこで「せっかくの物語なんだからもうちょっと楽しい結末になってもいいじゃん」と思ったとある作者が明代に書いた「三国志後伝」を現代語に超訳したのが本作品である。

劉禅が魏に降伏してついに蜀は滅んだ。だが、その遺臣たちは漢王朝の復興を望み、各地に散らばっていた。
やがて匈奴の地に集結した彼らは、劉備の孫・劉淵を王として西晋と戦うことになる。

散り散りになった漢の遺臣が晋を打倒せんと一つに集まろうとする序盤の展開は三国志というよりも水滸伝っぽいが、その後は八王の乱や永嘉の乱などの歴史の大きな流れに沿って虚実織り交ぜながら物語は展開されていく。俺が世界史で寝ている間にこんなことが起きていたのか……。

しかし、内容以上に注目すべきは本作の史料的価値だろう。
そもそも本作は存在自体あまり知られていない。仮に存在を知って読もうとしても置いてある図書館はほんのごく一部。
ようやくたどり着いたとしても訳されたのが江戸時代だから古文が出来ないとまともに読めやしない。

そんな読むまでに何重にもハードルがあった幻の作品を、作者の河東氏は丁寧な注釈付きで現代語に訳しどこでも誰でも読めるようにしてくれたのだから、ただただ頭が下がるばかりである。
河東氏に感謝をしつつ誰も知らなかった三国志の世界を堪能しようではありませんか。

(あなたの知らない三国志4選/文=柿崎 憲)

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