とある女神のラストバトル

 カチカチと動く巨大な顎。なんどめかの、その動きに合わせたように、オレの上にポトリとおちた、ちいさな黒い物体。


 黒いガラス質のまん丸の石……これは!?


「!? 瞳……ローレンツェン」


 反応したのはプラスちゃん。慈しむように黒い石を抱く。

 そうか……、あのぬいぐるみの瞳のパーツか。きっと、このボスイナゴにたべられちゃったんだろうな……。


「ゆるせない……」


 プラスちゃんの肩が震えている。


「え? プラスちゃん?」


「もうゆるせない……ボクは怒っている……かってないほど怒っている」


 涙がポトリとおちて、石を濡らした。そして、おもむろに『メガミラクルスキャナーMMSドライバーパレット』を取り出すと、ちょうど1箇所だけ空いている隙間に、黒い石を置いた。すると――


 ――ブアッ。


 ピンク色のゆらゆらがプラスちゃんから沸きだして、その身を包んだ。


「カイト。ここにいて。……こいつらは、ボクがやる」


「プラスちゃん!? 無茶だ!!」


 そんなオレを無視して、たちあがるプラスちゃん。


「あ! あぶない! イナゴが当たる!」


 すると、当たった巨大イナゴのほうがはじけ飛ぶ。次々と無数のイナゴが衝突するが、そのどれもが同様にはじけ飛んだ。

 平然としているプラスちゃん。その表情には、微笑すらたたえている。


「イナゴが当たっているのに、びくともしていない……」


 そのとき、ボスイナゴが、プラスちゃんをタゲった。

 ……草食だけど、まるで肉食昆虫が捕食するような動作で、その顎がプラスちゃんの頭に重ねられる。


 無残にも頭部が噛み砕かれ――


 砕かれ……ない。


「こ、これは!」よくみると、イナゴとプラスちゃんの間に、光り輝く気流のようなものが見える!!


「あれは……女神闘気メガミックオーラじゃ!!」


 ばばあがそう叫ぶ。


「なッ……女神闘気メガミックオーラだ……と!?」初耳のオレがリアクション。


「きいたことがある……。女神闘気メガミックオーラとは、真の女神だけがもつとされる、物理や魔法を問わず、全攻撃を弾くとされる伝説の闘気オーラ! まさか……まさか、あの娘は……」


「……いや、じじい。おまえ誰だよ!」


「おお……わしのめしいた目にも桃色の光が……」


「めしいて自重!!」

 ……さっきまでフツーだったよね? ばばあ、バッチリ見えていたよね? 急にその設定でてきたよね?


「真桃色の異国の服を着ている。まるで金色の草原を歩いているようじゃ」


「おお……。その者……桃き衣を纏いて金色の野に降りたつべし。古きいい伝えは、まことであった……」



「うおい! 桃き衣て! おまえらいいかげんにしろ!!!!」



 そんなツッコミをしているうちに、プラスちゃんのステッキから放たれた光線が、ボスイナゴの頭部を吹き飛ばした。


「アハハ。アハハハハハ!!」


 そのごも、右手にもつステッキから、ピンク色の光線をだしまくるプラスちゃん。そのたびにジュッという音とともに、焦げおちるイナゴ。どうやら貫通しているようで、複数同時にボタボタとおちる。ときどき左脇のしたをくぐらせるように撃ったり、振り返りざまにレーザーを放っている。


「!? あの光線の威力……攻城兵器並の威力があるというのか……」


 いや……そういうのいらない……。

 

「直翅目め!! この直翅目め!! 死ね死ね死ね! おちろおちろおちろーーー!!」


 完全にブチキレているプラスちゃん。どこか恍惚の表情。


「……面倒だ。これで最期おしまいだーーーー!!」


 プラスちゃんの背中からオーラの羽が生え。――フワリと浮くと、女神降臨――的なポーズをとった。すこし間があって、クワッと目を見開いた。


「直翅目!! すべて燃え尽きるべし!! 女神千刺衝メガミックサウザント!!!!」


 ――カッ。


 プラスちゃんの全身から、多角的に放射されるピンクのレーザー。



「もう……やりたい放題だね」



  🌠



 闘いはおわった。


 麦畑をおおいつくす、焼け焦げた巨大イナゴ群。


 ――ストと地に降りた、我らが女神。

 もうピンクのオーラは出ていない。


「みんな無事?」さすがに疲れたといった表情だけど、いつものプラスちゃんだ。


「うん……無事」


そのまま、オレの元に歩みをすすめ――


「!?……はう!!」


 ヘンな声をだすと……。

 プラスちゃんの動きがピタッ――と、そこで止まった……。

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