ああ、イナゴだ……

「ローレンツェンーーーー! ローレンツェンーーー!!」


 プラスちゃんの絶叫が、平原にこだまする。


「よせプラスちゃん! いま出てはダメだ!」 


 オレは、いまにもとびだそうとするプラスちゃんの腕を引き、岩場の陰に押し込む。


 ――ゴン! ゴゴン!


 オレが構えた皮の盾に、連続して重い衝撃。

 こんなの直撃したら、大ケガどころじゃすまない。


「嗚呼……。ボクのローレンツェン」


「だから、頭をさげるんだ!」


 プラスちゃんの頭を押し込むと同時に、――ガン! と、ひときわ大きい衝撃が腕に伝わった。傘のように構えていたオレの盾がたかく、まるでロフテッド軌道で跳ね飛ばされる。


「!? くそっ、オレの盾が!」


「ローレンツェンーーーー!!!!」


 再度響くプラスちゃんの絶叫。しかし、その絶叫をかき消すような嵐のような羽音。


 ちなみに、連呼している『ローレンツェン』とは、プラスちゃんのぬいぐるみの名だ。えらく気に入ってたみたいだが、いまは帰らぬ人形となった。



 🌠



 すこし話を巻き戻す。


 クエスト依頼先の畑につくと、農家のじいさん、ばあさんがいて案内をしてくれた。


 なんでも『ジャイアント・ロウカスト』討伐は、もうシーズンオフらしく、いまは殆どいないらしい。数が多いハイシーズンだけ冒険ギルドに依頼をだしているのだが「そろそろ依頼を取り下げようと、おもってたんじゃが……」ということだった。


 じっさい、畑に案内されると、サッカーボール2個分ほどの大きさのバッタが3匹だけ。デカくてキモかったが、それらをサクッと剣で仕留めると依頼終了となった。


「ふあ……おわった? もう帰ろ?」あくびをするプラスちゃん。おおきなぬいぐるみに寄りかかって、半分寝ていたようだ。


「そうだな」そういうオレも、慣れない異世界冒険者初めで疲れた……。

 今日はなんだかんだいって、イベント盛りだくさんの1日だったし。


「じゃ、もどって晩ご飯にしようか」「……うん」

 

 懐もあたたかいし、プラスちゃんもいる。帰って飲むか!


 だいぶ傾いた陽を目にしながら、街に歩みを進めた。そんなとき……。


 ――地平線のむこうから、空を覆いこちらへ向かう黒い波。


 その波は――ぶぅうううううん。という低音を響かせながら、あっというまにオレらのいる地点まで押し寄せてきた。


 波の正体は、おびただしい数の巨大バッタ。

 バッタの大量発生だ。


 ……いや、ただしくは『イナゴ』らしいが、そんなのはどうでもいい。っうか見分けつかないし!


 逃げるように丸い干し草がころがって、たしか……タンブルウィードだったっけ。西部劇なんかでよく転がっているやつ。そんなことを考えていると……周りの畑が、あっというまに覆われた。



 ――そして現在。

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