ピンク髪の君が散った異世界の空はブルー ~おっさんはロフテッド軌道の夢をみる

北乃ガラナ

ピンク髪の君が散った異世界の空はブルー

《プロローグ・やっぱり女神空間ですよねー》編

やっぱりトラックでやっぱり女神でやっぱり異世界へ

「さえないなーおっさん」


 ピンク髪ツインの少女にそんなことを言われた。

 もち初対面。


「おっさん…………」


 ……そうだけどさ。たしかに『おっさん』と言われてもムリはない年齢だけどさ。徹夜をすると翌日のダメージがでかすぎて、それを慮って徹夜できなくなってきた昨今だけどさ……。この、自分で慮るという部分に忸怩たる思いを抱くオレだけどさ……。

 でも、まだまだ『おにいさん』でいけるんじゃないだろうか? いけませんかね? そこの君。


「ボクの名は『プリティヴィーフレイ・アシュテラス』」


 そう名乗った美少女は、オレがいる場所よりも一段高い場所にいる。そこに備え付けられた豪華な椅子に、脚を組んで腰かけていた。

 オレの視線にはいるミニ&ニーハイ。

 とても、いいネ!


「えっと? プリティブ……テラス? なんだっけ?」


「あったまわるいなーおっさん」


 ……どうみても、パッと見『魔法少女』寄りな、フリフリ衣装の少女は、そんなことをいう。


「キミって魔法少女?」


 すこし間があって――カッカッカッ。とブーツの足音。


 ぐりっ。


 少女の手に握られた、星とハートをあしらったステッキの先っぽが、オレの頬にめりこむ。


「に・ど・と・い・う・な」


 そういう少女の顔が超至近距離。

 オレンジがかったピンクの瞳が……怖いです……。


「え、あ……ハイ。ごめん……なさい」


 迫力に気圧されて、オレはあやまった。


「……だいたいさ。アンタは死んだんでしょ。なんでそこに『魔法少女』なんだ? おかしいだろそんなの。ボクは女神だ。女神。そんなの常識でしょうが」


 そんな常識知りません。いや……よく知っているけど。


「えっとーアンタは、トラックに撥ねられて死んだんで。ボクが異世界に転生させたげる。感謝して」


 ――そう、オレは会社からの帰宅途中。トラックに撥ねられて死んだ。


 やっぱりとか言わない。

 そんなの常識でしょうが。



 🌠



 定位置にもどり、興味なさそうにパラパラと手元の冊子をめくる女神ちゃん。オレの経歴とか書かれているんだろう。


「だからアンタさー。年収二百万円台だったんだよ。解る? 解らないよね?」


「ぐは」


 ど直球、他人のデリケートな部分に土足で踏み込んできた。そんなの初対面で聞いたら戦争だろうが!


「30代でこれだと、だよね、MAX年収」


「ね、年収のことは言わないで!」


 ……っうか、オレはわるくないから! 地方切り捨ての無為無策な政治が悪いんです! だいたいさ、どんな業種でも人口減ったら、そもそもどうしようもないだろ! 地方の惨状みたことあんのかよ。死屍累々だぞ。夜どころか、むしろ昼間だって、誰も外歩いてねぇよ! 誰もウォーキングしてねぇよ! てっきりゾンビウィルスでも大流行したのかと錯覚するレベルだよ! アメリカのデッドがウォーキングしている大人気ドラマの街のほうが、ぜんぜん人気ひとけあるから! っうか、こんなこと半世紀前からわかってただろが。だからぜんぶ政治がわるい! ……いや、むしろそんなダメダメ政治を許してきた、戦後生まれのクソ団塊共が……。


「……アンタさ、生きてきてずっといままで、悪いことは全て他人や環境のせいにしてるでしょ?」


「え……あ、ハイ」いまもな


「同じ条件でも。……いえ、もっともっと酷い環境でもさ。アンタより充実した人生を勝ち得ている人たくさんいるんだよ……。たとえ『得て』はいなくとも、希望をわすれずに向上心をもって日々慎ましく生きている人もたくさんいるわけだよ。解る?」


「……はぁ」


「アンタの生まれた国さ、とっても恵まれた国なの。アタリなんだよマジで。過保護なぐらいに整えられた衣食住の生活環境。さらに教育・医療レベルも申し分なし。四季があり豊かな国土。そしてなによりも『自由』がある」


「……そう、ですね」


「アンタがその気になれば世界のどこにでもいけるし、どんな職業にだって……たしょうの努力が必要にしてもさ、就こうとおもえば就ける。これってあたりまえのことじゃないからね? よかったねーいいご先祖サマ達をもって。そのおかげで、アンタは生まれながらにして圧倒的なアドをもっててさ、解る?」


「うっ…………」


 ぐうの音も出ない。

 ピンク髪の少女に、おもいっきり説教されるオレっていったい……。


「黙ってないでさ。それについて、アンタはどう思うワケ?」


「……それは、そうだけど……。でも……もっと楽に生きているヤツはたくさんいるし。努力なんかしなくても、生まれながらに家が金持ちだとか、容姿が優れているとか……。才能だって親から受け継ぐ要素が大きいし、その才能だって開花させるには、整えられた環境が……」


「言っても無駄だったみたいだね……ま、べつにいいか」


 深くため息をつく女神少女。


「で……でも、女神ちゃん」


「もうこの話はおしまい。アンタと話しても不毛だから……。あと『女神ちゃん』じゃなくて、ボクの名は『プリティヴィーフレイ・アシュテラス』もう二度とは言わないから、覚えて」


「……うん」おぼえない


 こんな長い名前、覚えられません。


「あ、ゴメンゴメン。べつに覚えなくていいやー。すぐにお別れだし。忘れて」


 小バカにした様子で、手をパタパタするピンク髪の女神。


 ――感じ悪ッ! 


 ……なんだろう、この娘。出会ったときからだけど、すんごく態度が悪い。女神だかツンだか知らないけど、椅子にどっかと腰をかけ、脚組んだままだし。年上に対して失礼じゃなかろうか……。


 からいいようなものの……。からいいようなものの(だいじなことなので二度いいました)


「しかたないよねーじゃ。こんなもんか」


「て、底辺いうな!! オレよりもっと下のやつなんて、ゴマンといるんだからねっ!!」


「(ジトッ)…………」


 そんな目でオレをみないで! 

 ……いや、底辺て、そうかもしれないけどさ。北の地方在住の地元零細企業勤めのリーマンじゃ、そのとおりなんだろうけどさ……。面とむかっていわれるとさ、おっさん傷つくわ……。こんなおっさんでも、がんばって生きているんだゾ。


 ――バサッ。


 ざつな動作で、床にカードが撒かれた。


「なにこれ?」


「期待してたんでしょ? 異世界にもっていけるチート能力かアイテム。なんでもいっこあげる。選んで」


「うお、マジで!?」


「くわしいことは、カードをみて。ぜんぶ書いてあるから」


 そういって、女神ちゃんは懐からスマホをとりだし、以後は視線をそこに集中させた。



 🌠



「チート能力かチートアイテム。迷うなー」


 オレが迷ってる間。スマホ画面からいっさい目を離していない女神ちゃん。でも定期的に、その口からもれるのは……



「はやくしてよね底辺」


「どれでもいっしょだからさー。さっさとしてよね底辺」


「決断力もない。……と。つくづく底辺だ」


「アンタの家系みたけど、先祖代々底辺」


「伝統と格式ある底辺」


「底辺界のステーブ・ジョブス」



 ――カチッ。


「底辺底辺うっさいわ!!」



「とにかくはやくし底辺――ぷっ」



 ……ずっとこの調子。ホントダメだこの女神。


 イラッとしたオレの頭のなかに、とある考えがよぎる。


 ……女神だかなんだか知らないけど、大人として、舐めた態度のこの娘に一泡吹かせてやろうじゃないか。……みていろよ。


「どれでもいいんだよね?」笑顔でオレ。

 

「どれでもいいって、いってんでしょ。はやくしてよ」



「じゃあ、君」



 生意気な女神様を指さすオレ。


「は?」 



《――願いは聞き入られた》



 天から響く声。


「へ? え? ちょっと!?」


「よっしゃ!」と、オレはガッツポーズ。


 ふふん、甘いな女神ちゃん。異世界転生モノでは有名すぎる展開よ。

 だてにおっさんは異世界転生モノが好きなワケじゃないぜ。


 この娘。……中身こんなんだけど、とんでもなくかわいいし。

 異世界でいっしょに旅をすれば、じきに心を開くだろ。

 しばしこのツンを楽しませて貰うとしようか。


「じゃ、異世界で、いっしょにがんばろうね。プラスちゃん」


 プリティなんちゃらテラスちゃんだから、略して『プラス』ちゃんと命名。


「な!? 生意気だぞ底辺! ボクの名前をかってに短くするな!!」


 椅子から立ちあがり、オレに詰め寄るプラスちゃん。


「だって、そのままじゃ呼びにくいし。……あとの続きは異世界あちらで、ゆっくりと、ね」


 天から光の輪が降り注ぎ。オレとプラスちゃんの身体が――フワリと浮いた。


「え? マジ!? マジで? い、嫌……ぜったいに、いやだあああああああ!」


 身体すべてが閃光に包まれた。眩しいので、しぜんと目を閉じる――



「このボクが、どうしてぇええええええええええええ!!」

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