女神の頭ぐらい余裕でくだけそうな顎ですね
オレらは岩場の陰に身を潜めて、巨大イナゴの群れが去るのを待っている。……いや、こんなの実際どうしようもない。
「う……う……あ、明日……明日が……」
農家のじいさんが、そんなことを呻く。
「……種籾じじいか!」と、ツッコむオレ。
知らない人はWEB『種籾じじい』で、検索っ。
「じいさま……諦めるしかない。畑の麦を食べ尽くせば、きっと通りすぎるはずじゃ……」
ばあさんがいうには、数十年にいちど、こういうことがあるらしい。それが今日とは……。くそ……ついてないぜ。
その間、オレはずっとプラスちゃんに覆い被さるようにしている。とにかくプラスちゃんを護らないと。背中に何度もイナゴがあたるけど、どうということはない。
「……痛くない?」心配そうなプラスちゃん。
「ふっ……全然」嘘。じつは……けっこう痛い。
「カイト……」そういう彼女の瞳は潤んでいる。
「いっただろ……オレは君を護るって」
この言葉は本気だ。オレを異世界に連れてきてくれた恩人。やり直す機会を与えてくれたオレの女神。命に代えてもプラスちゃんは護る。
キマったかな、と、おもった。そのとき――
――ドガゴッ。
「ぐ……あッ」
ひときわおおきな衝撃と共に、オレは岩に叩きつけられ、その場に転がった。首だけで振り向くと『おまえボスですか?』という、ちょっとした軽自動車サイズの『超巨大イナゴ』が居た。
「カイト! 大丈夫!?」オレを抱き起こすプラスちゃん。
「……あ、ああ。……屁でもない」……こんなの、オレを撥ねたトラックの衝撃にくらべたら屁でもない。屁でもないけど…………これは、きた。
「…………ばか。おっさんのくせに。…………底辺のくせに強がって……」
そんなオレらの頭上で、あざ笑うかのようにカチカチと顎を鳴らす。ボスイナゴ。
うっわ……立派な顎ですね。人の頭ぐらい余裕でくだけそうな顎ですね……。肉食じゃないよね? まさか肉食なんかじゃあ、ないよね?
絶対絶命か――そのとき。
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