失ったモノを数えるより、いまもっているモノを数えた方が、人生は豊かになる

 少し周りを散歩してきた。

 オレ達がいるのは森の端といった場所で、そこから離れると、陽の光が注ぐ見渡す限りの丘が続いていた。そのなかには、おおくの畑や路も確認できたので、きっと近くに街があるのだろう。


 そんなことを確認して、プラスちゃんの元にもどると――


「……どうしよう、チート能力もない、フルノーマル素組み底辺とふたりだけで異世界なんて……」


 体育座りで、両膝をかかえたまま、いまだに瞳に涙をうかべている。


 ……なんだ、プラスちゃん。逆境や変化に弱い子かな。

 ちなみにオレは、なにごとにも動じない安定感はあった。低いところでな! 底辺なだけに!(自虐ネタ)


 ……と、いうか。おっさんだから、それなりの社会経験は積んでいる。世の中、生きていれば思うようにならないことだらけさ。こんなことで落ち込んでいたら先にはすすめない。これが実戦経験の差というやつだ。


「……プラスちゃん」


「グス……なによ」


「これでも食べて機嫌をなおして」


「……!? これは?」


 オレは森の中でとってきた、ベリー系のあまずっぱそうな赤い果実を差し出した「お腹すいてるかな、と思って」


 オレが差し出した実を両手でうけとるプラスちゃん。その果実をじっとながめている。



 🌠



 オレはプラスちゃんの横に腰かける。


「あのさ、プラスちゃん。……オレはこう思うんだ。環境が変わったことで、たしかに失うモノはあるだろう。でも、そのぶん得るものもあるはずだ、と」


「…………」


 「だからさ、失ったモノを数えるより、いまもっているモノを数えた方が、人生は豊かになると思うんだ」


「でも……こんなのじゃ……釣り合いとれない」投げ捨てて壊れたスマホと。じぶんの手にある果実に視線をおくるプラスちゃん。


「そりゃあ、そうだけどさ。案外わるくないかもよ異世界も。他にも色々とあるかも……。そうさ、きっとあるよ! オレらさ、まだ来たばかりでこの世界のことについて、何もしらないでしょ? だから落ち込むのは早いんじゃないかな?」


 ――チラ。とオレのほうをのぞくプラスちゃん。


「たしかにさ……オレはキミが言うように、さえない底辺のおっさんだ。それは否定しない。……でも、こうなったからは、オレは異世界でやり直そうとおもっている。キミがオレにそのチャンスをくれたんだ……感謝している」


「……カイト」


「だからこのさき、何がおこるか解らないけど……オレは全力でプラスちゃんを護る! ぜったいに護ってみせる! その志だけは信じて欲しい」


 プラスちゃんは、うつむいて、なにかを考え込むようなしぐさをしたあと、すこし間があって顔をあげた「いいこというじゃん。……あーあ。ボクとしたことが……こんな底辺のおっさんに説教されるなんて……」そういいながら、すこし笑顔。瞳に光がもどってきた。


「……プラスちゃん」


「あの……カイト。さっきはごめん。その……『底辺』だなんていって……。他にも……色々といいすぎたかも」


 こころなしかプラスちゃんの頬に朱が差している。


「べつにいいよ。ほとんど事実だし」オレがハゲというのは、だんじて事実無根だけどな。



  🌠



「じゃあ、いただきます」


「うん。どうぞ」


 果実を愛おしげにみつめてから、口に入れるプラスちゃん。


「!!――!?」


 その顔に、みるみる苦悶の表情がひろがる。



「う゛あ゛っ あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!」



「マズっ! 苦ッ! エグっ!」ペッペッと地面に吐き出すプラスちゃん。


「……この実は、たべられないっと」ポイと、てもとに残った実をすてるオレ。見た目いけるとおもったんだがなぁ……。


「(――キッ。)……カイト。これは、いったい……?」


「プラスちゃん。次はコレ。キノコたべる?」


 オレは懐から1UPしそうなキノコをだして、プラスちゃんに渡した。



「そんなん! だれがくうか!! てめぇの血は、なに色だーっ!!」

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