パニック作品で欠かせないのは臨場感やリアリティであり、文章だけで「いまなにが起きているのか」を伝えるのはそう簡単なことではない。
さらに、それが“現実には繋がりがないもの”を含んでいた場合には、書き手にとっての難易度はさらに高まる。
頭部の爆発した遺体、広がっていく咳、患者の口から出てくる砂粒のようななにか、空港の閉鎖、パンデミック、ネットゲーム…
この作品では、不穏なキーワードが、丁寧に書きこまれた膨大なキャラクターたちの描写や近未来の日本の状況を通じて、じわじわと読者の心にもいやな“根”を張っていく。
そして次のエピソードでなにが起こるのか、何が起きているのかを確かめずにはいられなくなるのだ。
序盤だけでもう面白い。
ぼくはもう"感染"しました。
パニックモノ数本は書けそうな濃ゆい恐怖体験を惜しみなく(否、良い意味でもったいつけて)丁寧に描く本作。
何かが起こっているのは間違いないのに、いったい何が原因でどう対処すればいいのか分からず、登場人物はもちろん読者も先の読めない展開に翻弄されてしまいます。
そしてようやく原因が分かった頃には新たな現象が認知され始め……。
作者の恐怖を煽る筆致と、様々な年齢層・社会層の登場人物たちが相互に影響を及ぼし合う構成力には舌を巻きます。
ファンタジーやRPGが好きな方はもちろん、S.キングの『霧(映画版タイトル『ミスト』)』やJ.J.エイブラムスの『LOST』が好きな人にもオススメの1作です。
のっけから本作以外の話になって恐縮だが、私の好きな映画の中にダスティン・ホフマン主演の「アウトブレイク」と言うパンデミック系パニック映画がある。
一匹の猿から感染症が広がる恐怖を扱った作品だが、序盤は、アメリカのとある街で、徐々に謎の症状に侵されていく住民達の様子や、秘密裏に対策に乗り出す専門家達の様子が描かれている。
本作「オムニシエンスの不在」を読み始めた時にまっさきに思い出したのが、その映画の序盤だ。
映画さながらに、群像劇で描かれていく人々の異変。
きちんと書き分けられたキャラクター属性、巧みな心情&情景描写、並列的に場面転換を繰り返しながらも、それらを少しずつずらすことで徐々に進む時系列。
筆力がないとテンポの悪さが目立つ群像劇だが、この作品には一切その懸念はない。
普通のパンデミック系作品としてでも十二分に楽しめる。
しかし、この作品のプロットにはもう一捻りある。
感染症の発生に、とあるネットゲームの存在が大きく関わっているのだ。
感染症とネットゲーム……一見、なんの関連性もないようなこの二つが、群像劇の中で見え隠れを繰り返し、徐々にその存在を読み手に主張していく。
段階的に明らかになっていく事実、複層的に絡み合う謎、それを解き明かすキーマンの浮上、その見せ方のサジ加減が本当に見事。
現在、フェーズ1(18話)まで読み進めた段階だが、当然ここで止められるような作品ではない。
今後も、物語りの行く末を楽しませてもらおうと思う。
群像劇というには、あまりにも断片的なシーンの切り取りによって語られていく本作。
一人ひとりの名前や性格はさほど印象に残らない代わりに、そこに描き出された状況の異常さ、緊迫感、絶望感が、読み手の脳裏に色濃く焼き付く。
この正体不明の脅威を描くのに、非常に上手い手法だと思いました。
だって、この人たち全員助からないんだもの。
同時多発的に起きる爆発事件。
瞬く間に感染していく、数刻で死に至る咳。
罹患者の周りに散らばる砂。
通常ではあり得ない傷を負った状態で、なおも生き続ける謎の外国人女性。
作中で起きている出来事の正体も原因も分からぬまま、パニックだけが拡がっていく。
とあるオンラインゲームとの関連性が示唆されるも、果たしてそれが現実世界にこのような影響を及ぼすことなどあるのか。
このまま人類は滅んでしまうのではないだろうか。
そんな恐ろしい予感を覚えつつも、謎に惹き付けられるように、読む手が止まりません。
とにかく先が気になって仕方のない作品です。続きがとても楽しみです。
010話目までを読んでのレビューとなります。
唐突に訪れる死の咳が蔓延していく未来の日本。原因不明のそれは、恐ろしい速さで感染を続けていく。
先の見えない恐怖と戦うのか、ただ諦めて死を受け入れるのか。
その一方で怪しい何かが蠢き、明らかな破壊を行なっていく。
世紀末へのカウントダウンはもう始まっているのだろうか。
010話目で2028年7月21日は終わるのだが、ここまでがたった1日の事とは思えない事にまず驚く。
群像劇というのはテンポが悪くなりがちだが、それを巧みに利用すれば恐怖を増幅させて不安を煽ったり、1日を濃密に描き出す事が可能だというのを
、この作品は教えてくれる。
現在の展開としては、謎の何かの存在と謎の咳という二つの軸をメインに置いて、その二つの関連性を探っていくという形だろう。
その鍵を握るのはデネッタ・アロックなのだろうが、彼女はまだ動きを見せない。
これからの展開次第では作品のジャンルすら変わってきそうな予感がする。
兎にも角にも、まだ現状では開けてみるまで何が起こるか分からない、まさにパンドラの箱状態の作品。
これからに期待。
一話毎に視点が変わるお話の進行方法において、キャラクターへの感情移入をどのように持っていくかという課題がある群像劇作品は、書き込み具合をどのくらいの重さに調整するかが非常に難しいと私は思っているのですが、作者さまはそれをいとも簡単にやってのけているように感じます。
というのは一度目を読んだ時に湧いてきた感想で、二度三度と読み返していくうちに言葉選びの丁寧さや、心情描写の掘り下げの程度、視点誘導のタイミングなどが非常に良く練られていることに気付きました。ここまで文を洗練させるのは並みのことではままなりません。
それと、地の文が醸し出す無機質感というか少しひんやりした感じがこの作品の雰囲気に合っていて、登場人物たちが持つ現代人の空気がリアルになっている気がしました。
未完結にもかかわらずここまで完成度の高いこの作品。続きが気になります!