命の在り方と美味しいお食事。さあ、君も異世界にご飯を食べに行こう!

 まず、この物語は、設定がとてもユニークです。
 序盤で開示される、沢山の異世界と繋がった日本。
 SFの世界らしき名称や、ファンタジックな世界らしき情報が飛び交い、作者のファンならば思わず笑ってしまうような異世界の名前さえ登場!
 そんなたくさんの、異なる世界に旅行に行けるサービスがあり、一人の女性が出発するところから、この物語は始まります。

 さて、この女性ですが、この物語の主人公であり、彼女の視点でこの物語は綴られています。
 中盤で彼女の過去が明かされますが、人生に疲れた女性。不幸の中で育ち、生きついた先も暗く、自分の知らない世界のどこかに終着点を求めると言う、絶望を持った人間です。
 そんな女性が選んだ異世界、ティファーニ。
 彼女はティファーニのツアーコンダクターであるホークと出会い、異世界の様々な美味しいお食事を食べつつも危機に巻き込まれて、最終的に生きることと死ぬことの意味を知っていく。
 そんな物語です。

 登場する料理が異世界の料理だと言うことはとてもユニークで、聞けばよだれが出るような、未知の食材の数々はとても素晴らしい。
 ですが、もちろん、ただのグルメ小説ではありません。
 この料理をツアーと共に紹介しているツアーコンダクターであるホークが「知らないことは無い」と言い切る『知の錬金術師』なのです。

 このホークは、様々なことを知っています。
 まず、食べることの『知』。
 彼が語った、最も美味しく物を食べるのに必要なこと。
 これは大きく賛同するものなので、どうかこのレビューを先に読んでいる方は、本編を読んでみて確認していみてください。(旅行に行きたくなります)

 そして、これだけでもグルメ小説としての価値がありますが、後編でこのホークが語る『死生観』、そして『幸福と不幸の話』は、名言の嵐であり、レビューで紹介したくなった私から特に読んでいただきたいものです。

 正直、このホークの語った話の全てをこのレビューで紹介するのは不可能なので、私が最も感銘を受けた名言を一つ紹介します。

『不幸は、意図的に作りだせないんです。意図的に作りだしたら、それは不幸ではなく自業自得ですからね。でも、幸福は意図的に作りだせるんです』※本編、ホークのセリフより引用

 どうでしょうか。
 是非、本編を読みながら、ホークが語る名言の数々を聞いみてください。

――さて、長くなりましたが、この小説を読む上で注意することは二つ。
 読む時はお腹がすいている時、それも夜中を避けること。メシテロ成分高めなので、冷蔵庫を開けることになります。
 もう一つは、異世界に旅行に行きたくなっても、今現在の日本は、異世界に行くことの出来る門が無いということです。

 ですが、それを不幸と思わずに、是非是非この作品を読んで、旅行の計画を立ててみてください。いえ、きっと立てたくなるはず。
 美味しいご飯を食べるために日常から離れてみることは可能なのです。
 いつもと違う道。隣町へ、県外へ、海外へ。
 この世界だけでも恐ろしく広く、自分が目にした事の無い場所、食べたことの無いご飯はきっと見つけられるはずです。

 生と死。幸福と不幸。
 少し視点を変えれば全ては変わる。幸福は作り出せる。
 幸せになるための物語を、この機会にぜひどうぞ!

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