這い寄れ、混沌さん


KP:巨大な羽根。黒い体躯。腐臭を纏って大地を跳ねる。全てを破壊しながら。空は赤く染まった。黒い雨が降り、生物は死へ直進する。血色の空を、生物と呼称してよいかもわからぬモノ達が跳ね回る。


Calc:な、何があったですか……。


KP:冬佳先生が、パパゾヌの呼び放題サービス「邪神アンリミテッド」に登録したんだよ。数多の邪神が蠢いている状態。


 完全に破滅カタストロフィじゃないですか。パパゾヌ何やってんの!


冬佳:先輩は灰になりました。私はこんな姿。もう、すべて消えてしまえばいいの!


(どんな姿だよ……声は可愛いのに)


Calc:灰……やはり、クァチル・ウタウス案件だったんですね。


 その時。KPが、不思議な事を言い出した。


KP:ありがとうね。お見舞いに来てくれたって。昔さ。

Calc:はい? 何の話? 

KP:、佐々木しのぶ。


Calc:あの……バカにしてる? なんでしのぶの名が?


 俺の携帯にはグルグール製OSが搭載されている。個人情報を起点に、過去の情報を集めたのだろうか? 占い詐欺みたいな感じ?


KP:これ、覚えてるかい? 

 俺のスマホが動き、画像が大写しになった。


 赤い、少しいびつな、テントのような。


Calc:4面、ダイス?

KP:これを見せれば、駆駆はわかってくれるって、聞いてさ。

Calc:誰にだよ?

Kengo:儂じゃよ。


Calc:はあ? 誰だよ!

Kengo:今のしのぶはなんだよ。駆駆くん。


(この声、どこかで……)


Calc:いや、そもそもあんたが誰?

Kengo:佐々木しのぶの父です。


Calc:け、健吾おじさん? 本当? 何がどうなってるんです?

Kengo:信じてもらう所から始めないとダメだと思ってさ。その4面ダイス、君が昔プレゼントしてくれた、1品ものらしいじゃないか。


Calc:え、ええっと……。

 詮索サイトなら、こういうも可能? いや、本当なのか?


Kengo:今の儂は、グルグールで研究しててね……(中略)ペラペラ異世界を経由してペラペラ言霊ことだまを識別する、ハッシュドニーをペラペラ異世界IT技術に(後略)


 分からない。

 でも


 この口調……うん。健吾おじさんだ。


Kengo:異世界が滅びると、しのぶと話せなくなるから、それを回避して欲しいんだ。


Calc:ナニソレ?


Kengo:あのさ。IT技術ってできると思わない? 異世界を、外国と同様に、ネットのにある世界と解すれば。


Calc:異世界なんて無いでしょ……。

Kengo:在るんだよ。プラットフォーマーはみんなそこに目をつけている。「鮮魚ラリティ」と呼ばれている考え方だ。


Calc:せん……ぎょ?

Kengo:邪神鮮魚を使って、情報を異世界に飛ばし、利を得ることだよ。例えばマルヤマ書店のように、異世界で物語を強化して、現世で出版するとかね。おかしいと思わないかい? 小説の売れ筋が殆ど「異世界転生」であることを。


Calc:それが読者の好みだからで……。

Kengo:鮮魚ラリティの影響も大きいと、儂は考えている。


 俺は何度も首をかしげた。


Kengo:何がウケるかわからない。新奇な物語が望まれる。だから情報を異世界に飛ばすのさ。その情報は異世界で具現化し、「異世界の事実」として物語が紡がれる。そのノンフィクションを現世で出版したら……新奇性あるラノベになると、思わないかい?


Calc:そんな事が……。

Kengo:出来たんだよ。例えば、マルヤマ書店の地下の暗黒空洞。そこに眠る邪神の力を借りて。


Calc:はあ? ブラック企業ですか? 人権は?

Kengo:そんなのに違うよ。現世と異世界とで、常識がイコールとは限らないし、異世界間条約も無い。あと、今のしのぶはマルヤマの地下空洞に居るんだ。


Calc:あの、何言ってるの?

Kengo:覚えているかい? 儂がしのぶの葬式を拒否した事。

Calc:そう、でしたね……。不思議でした。


Kengo:人格移植AI。しのぶの肉体は、精神を入れる器だ。違う器に精神を移し替えれば、しのぶは生きる事が出来る。邪神の力を借り、それを儂は成した。まぁその結果、儂はマルヤマを追われたがね。


Calc:とんでもない事、やらかしたんですね……。

Kengo:幸運な事に、新天地のグルグールで今の地位を得た儂は、しのぶと話せるようになった。


(ああ! もう!)


Calc:そんな混沌話と、俺がどう関係するんです!

Kengo:そこだよ! ここで問題。グルグールに居る儂は、マルヤマの地下にいるしのぶと、どうやって通信しているでしょう?


Calc:チャット?

Kengo:半分は当たり。しのぶと駆駆くんが、昔使ったあのチャットアプリの、後継版。違いは、回線。


Calc:回線……。

Kengo:通信路として、この世界の回線を使ったら、マルヤマの連中に見つかっちゃう。だから儂は、を、通信ポートとして用いたんだ。


Calc:わからないです……。

 頭が痺れる。


Kengo:IT技術だよ。たとえばファイル転送「FTP」で通信するには、20番と21番ポートを使う。通信する両者で「このポートを通ってやり取りします」と決めるわけだ。


Calc:って、もしかして……。

Kengo:そう。儂はをポートに見立てて、秘密の通信路を作ったんだ。通信とでも言えばいいかな?


Calc:通信パラレルワールド……。


Kengo:儂はしのぶと話がしたい。その為に使う通信パラレルワールドの番号は、1583。


Calc:1583……。

 俺がマルヤマ大賞に応募した時の、じゃないか……。


Kengo:そしてその異世界が、滅びようとしている。


 ……俺は、頑張って要約を試みた。


Calc:つまり、冬佳先生の居る異世界が滅亡すると、通信路が潰れて、マルヤマに居るAIになったしのぶと、おじさんは会話が出来なくなるから、それをなんとかしたい、と、そういう訳ですか?


Kengo:ご明察。頼むよ、駆駆くん。


 ……。


 ……。

 

 俺は、こう言った。

「ゆっくり這い寄れよ! 混沌ならさ!」

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