原点

「マルヤマ大賞受賞作、発売前に、何者かによってネット公開される」

 というニュースが、丁鳥ていちょう姉さんから舞い込んだ。


 小説クラスタは大騒ぎ。

 そりゃそうだろう。いずれは受賞、書籍化を目指す物書きが切磋琢磨しているんだぞ?


「中身いじられて、しかも発売前に公開されるなんて!」

「書いたものは、書いた本人のモノなんじゃないの?」

「ばかか。応募要項で翻案利用、許諾してるだろ?」

「今後流出しないよう気をつける、って、運営が言ってるじゃん」

「信じられるわけないよね?」

「だったら、違う投稿サイトで書けばいいだろ」

「マルヤマで投稿するから意味あるんでしょ? 知名度の点からもさ」

「だったら黙って従っとけよアホが」

「異世界改変でも、起きたんじゃないの?」

「完全にラノベ脳」

 

 こんな具合だった。


 俺はというと……。正直、どうでもよかった。

 とにかく、書く。

 詰まりながら、先が見えないながらも、書く。


 充電期間は終わりにしよう。


「誰に向けて書いてるの?」

 その問いで、俺は原点に気付いた。


 バッドエンドが嫌だったんだ。小説の中だけでも、しのぶを幸せにしたいと思った。


 今は技術も何もかも足りない。

 でもそんなのどうでもいい。身につければいい。何かで補えばいい。カキスギで出来た友人の感想とか、笑ってくれた顔とかも想像しながら、次を書く。


 ブブブブブ


 ブブブ……。


 放置していた携帯の振動が収まった。今は通知とか見てる時じゃないんだって。



「あははははははははははははははは」


 携帯から、凄まじい哄笑こうしょうが響いた。この声……。


「みんな壊れてしまえばいい!」


 冬佳、先生?


 どうしてが、んだ?

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