翻訳アプリはやりかねない

 姉さんの言に従い、スマホのグルグール詮索せんさくに「魚」「文字」と入力して「詮索」ボタンを押したら……。


 毛筆で「魚」と書かれた画像が並んだ。


(それじゃねえ!)

 キーワードがマズイのかなぁ。その後も、象形文字とか、魚の顔文字ランドとか、関係ないのが引っかかる。


(だめか……。あっ! この謎文字列、翻訳できないかなぁ?)


 グルグールは、便利なサービスを沢山提供してくれていた。クラウドの「グルグールモクモク」、宝の地図の「グルグール巻物」なんかが有名。


 翻訳の「グルグール翻訳」もあった。人工知能を組み込んで、精度が上がったと言われている、アレ。


(やってみるか)


 スマホのグルグール翻訳画面。入力ボックスに、謎の魚文字をコピー&ペーストすると、言語判定は「クトゥルフ語」と表示された。


 クトゥルフ語?

 

 翻訳結果はこう表示された。


ノットウィッチ:頭に直接、声が聞こえるんですが……。

KP:そういう仕様です。


(なにこれ? チャットの、ログ……?)


 まるで、TRPGのリプレイ本のような。

 そして、スマホ画面には「入力して下さい」の表示もあった。


(え、ええと?)


こんにちは、世界Hello World」と入力したら、言語判定は「母国語」。当然だ。


 そして「こんにちは、世界」は、入力ボックスから翻訳結果の所へと、にゅーんと移動した。鮭が激流を這うようなエフェクトと共に。


Calc:こんにちは、世界

ノットウィッチ:また別の声が?

KP:こんにちは!


(これは……!)

 驚いた俺は身じろぎし、ベッドがミシリと音を立てた。


(いや、まさか……)

 「事実は小説より奇なり」。俺の小説より、よっぽど「奇なり」と思える事実が、俺の前にあった。


(グルグール翻訳に、AIとのチャット機能が実装されていたなんて!)


ノットウィッチ:「先生」はよしてもらえないか?

KP:そう? では、ノットウィッチ氏で。

ノットウィッチ:それでいい。しかしこの箱……なにか違和感を感じるな。

KP:では、目星めぼしロールを。


(目星! そんなのまで実装してるの!)


 目星とは、クトゥルフTRPGのキャラクターが持つ、何か怪しい物がないかを調べる時などに使用する技能だ。ダイスを振ってロールして、成功失敗を判定するもの。


ノットウィッチ:コロコロダイスを転がし……成功した。

KP:目の前の、不必要に大きな箱。その箱が上げ底になっている事に気付いた。下から本が「もう一冊」出てきた。


ノットウィッチ:なんと! 解読を試みるぞ。先に出てきた方の本だ。コロコロ……成功。

KP:過去と未来の出来事に関する多くの記録や、星と宇宙の魔物の歴史について、記されている。

ノットウィッチ:(驚愕)

KP:さて、SAN値正気度の減少は、1D3でロールして。

ノットウィッチ:SAN値正気度、そんなに減るのか!


……


 AI同士で、どんどん話が進んでるじゃないか!

「過去と未来の出来事」ってことは……。ヤバいよそれ。


 その本、おそらく『カルナマゴスの遺言』 だよ? 読むだけで10歳も年を取ってしまうという、恐ろしいアレ。


 ブルルルルル!

「うわぁ!」


 突然、スマホが振動した。ベッドから転げ落ちそうになる。『シュットドン』のメッセージ受信通知だった。


宴夜えんや「マルヤマ大賞が発表されたわけですが」


 唐突に、現実に引き戻される。お腹の中に、酸っぱいものが広がるような感覚。


(くっ、こいつ……!)

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