面白さって、いろいろ?

宴夜えんや「Calc大先生は当然、受賞ですよね? どの作品ですか?」


 スマホを持つ手はぶるぶる震えた。その先の展開も読めてしまう。


 俺が別名義で受賞しているなら「凄いですね!」と話を合わせるだけ。逆に、俺の落選が確認できた場合は、全力で煽ってくるだろう。


 詰んだ。

 消えたい。


 マルヤマ書店から「つまらん」と烙印らくいんを押された時点で、俺は消えるべきだったのかもしれない。


 部屋の電気を消す。夢の世界に逃げ込もうとする。

 しかしスマホが断続的に光る。受信を伝える耳障りな音がブーブーと、何度も何度も。


(電源を落とすしかない)

 そんな簡単な事に気づくのすら遅れる始末。


 電源ボタン長押し――。

 スマホの火が消える直前に表示された受信メッセージが、俺のの理由だった。


丁鳥ていちょう「面白さって、主観的な部分もありますから」

 公開メッセージには、こうして他者が混ざることが出来る。


宴夜えんや「プロの目利きを否定するの?」

丁鳥ていちょう「いえ。受賞作品が面白いのは当然だと思います。でも、それ以外にも、面白い作品ってあり得るんじゃないかと」

宴夜えんや「受賞できない時点で、つまらないってことでしょ? つか、あんたは受賞できたのかよ?」

 

(くそ、こいつ……!)

 姉さんを巻き込んでる!

 俺の事は別にいいよ。いや、ホントは良くないけど。


Calc「価値観押し付けないでもらえますか?」

宴夜えんや「は? 編集者に評価されるのが面白い作品に決まってるでしょ? で、Calc大先生は評価されたんですよね?」

Calc「一歩及ばずでした。でも、全力で書きましたよ?」

宴夜えんや「んなのどうでも良いよ。その程度のレベルで、偉そうな事言ってたの?」


 予想通りの流れではあった。でも、実際に食らってみると……今すぐこのスマホを叩き割りたい!


 そんなタイミングで。


御大「論点ずれてるんじゃないかなぁ?」


 ヒーロー見参……に見えた。


 御大さんは色々な所で、何度も長編賞を取っていて、その実力は誰もが認める所。論理的で、「正論という拳で殴りつけてくる」タイプの人だ。


 そこからは一方的だった。


御大「発端って、面白さの規準の話じゃなかったよね? 自作を卑下する事に対する、考え方の違いが、元々の論点でしょ?」

御大「あと、面白さの定義を共有できてないよね? その状態で議論を続けても、こじれる一方だと思うけど?」


 どんどん追い詰められる宴夜えんや。可哀想になる程だった。


 結果。


宴夜えんや「クラスタの論理を押し付けられても困るわwww」


御大「押し付けの定義はなんですか? 逆に言うと、宴夜えんやさん自身が、面白さの定義を押し付けているんじゃないの?」


 宴夜えんやからの返信は無かった。

 その一連のやり取りの中、俺は何も出来なかった。


 仲間内からは、御大さんに「そうだよね」と、同意のメッセがどんどん投稿された。


 おこぼれで、たくさんの励ましが、俺のところにも来た。

「いいじゃん全力で書いたなら」

「改稿して別の所に応募するといいと思います。場所によって好みも違ったりしますし」

ぎょええ! めっちゃ応援してます!」


Calc「ありがとうございます」

 と返すのが精一杯だった。


 今はとにかく寝たい。今日はもう、誰とも話したくない。

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