落選

「なんで『座椅子の偉大なる種族』 が載ってないんだよ!」

 タブレットがベッドに叩きつけられた。 白い布団がボフッ! と受け止める。


「うわあ!」

 我に返りタブレットを拾う。壊れてはいないようだ。


(どうすればいいんだろう……)

 次に襲ってきたのは困惑だった。


 『シュットドン』というSNSがある。そこで俺は「つまらないモノですが、なんて、自作を卑下ひげする感覚が、全くわからんわ」と啖呵たんかを切った。


 そしたら「宴夜えんや」って奴からの返信で 「お前は、面白いと思って投稿してんのか?」と煽られたので、「当たり前ですよね? 読んでもらいたいなら」と返した。


 宴夜からの返信は「マルヤマ大賞の発表、楽しみにしてますわwww」だった。俺が応募している事はオープンにしていたので、それを知る相手だった模様。


 小説クラスタの中では、俺と同じ感覚の人が多いと思う。読者の時間を奪うんだから、自信を持って書き、広告するのが良い。けど、違う考え方の人もいるみたいで。


 ともあれ、春先が締切の公募『マルヤマ大賞』に、俺は応募していた。『座椅子の偉大なる種族』 という、12万文字程の長編処女作だ。


 元ネタは流行りの『クトゥルフ神話』。魚っぽい邪神が這い寄ってくる創作神話なんだけど、その中に、『イスの偉大なる種族』というのが登場する。


 もしもその種族が、脚を持たないだったら? っていう物語だ。オリジナルの邪神、いわゆる「おれのかんがえたさいきょうのじゃしん」も沢山登場させた。ラノベなので、邪神はかわいい女の子設定にした。


(ラノベ史に残る傑作だわ!)

 俺は、そう思っていた。


 グロくて、人類なんぞ簡単に滅ぼす力を持つ邪神が、可愛い女の子になって、主人公座椅子に座るんだよ? ふ、ふともも!


 自信満々だった。大賞……とまでは行かなくとも、奨励賞ぐらいには入るだろうと。


 違和感は、大賞発表の1月前くらいからだった。

 受賞内定の事前連絡とかが来ても良い頃なのに、メールの迷惑フォルダを探してみても、マルヤマ書店編集部からのメールは無かった。あるのは、マルヤマ直営の小説投稿サイト『カキスギ』の広告メールばかり。事前連絡をしないタイプの賞なのかなぁ?


 そして今日の昼。つまり、先程。

『第14回 マルヤマ大賞』がWEBで発表されたのだが……。

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