第10話 ていかん


「ここ二日ほどライオンを見ないけど彼女は何か用事かい?」


私はふときになってカイトに聞いたんだ。


「あぁ彼女か。

彼女にはいろいろあってハンターを引退してもらったんだ。」


「引退?どう言うことだい、カイト?」


「詳しくは博士と助手に聞けばいいと思うよ。手を下したのは彼女たちだからね。」


「まさか・・・・・・。」


そのときの私はそうとう酷い顔をしていたんだろうね。

作業が一段落した後で博士の所へ行ったらまず顔色を心配されたよ。




「博士っ、引退ってどういう意味だい?」


「あぁそれで・・・・・・その顔色も納得なのですよ。

どうもこうも言葉通りハンターをやめてもらったのですよ。


まぁ我々としても仲間を殺めるのはこりごりなのですが、あのような反抗的な態度を取られてはどうしようもないのです。反乱分子がいては我々ハンターの統率すら怪しくなってしまうので。」



反抗的、反乱という言葉を聞いたとたん私は何日か前にイエネコのフレンズ達を処分したときのことを思い出した。





「カイト、これはどう言うことだ?」


次のターゲットがパーク内に逃げ出したイエネコのフレンズと聞いたとたんライオンのまとう空気が変わった。


「お前は私を仲間にしたときに同じ科の仲間を殺させるようなことはしないと言ったな?」


「ええ。

しかし状況が変わってしまいました。

今はパーク内に逃げ込んでしまったイエネコのフレンズ22匹を始末することが最優先です。

本来は港湾施設の方で処理する予定だったのですが、何をしくじったのか22匹が処分場から脱出、パーク内に逃げ込んでしまったようなのです。


パークに暮らしているフレンズに港で行われていることや我々のことを知られるわけには行きません。早急に対処する必要があります。


協力願えますね?」


「・・・・・・断る。」


「こちらとしてもあまり非協力的な態度をとられると困るのですが。」



結局ライオンは嫌々ながら狩りに出た。でももちろん成果は一番少なくて、彼女が眠らせ確保したイエネコのフレンズはただの一人も居なかった。





きっとこの事が反抗的と見なされたのだろうね。



「つまり、博士と助手はライオンを例の部屋送りにしたんだね?」


「その通りなのですよ。


我々はカイト達人間の手足となって働く他にないのです。」


「でもあの程度のことで殺されるのかい?」


「我々よりも遥かに賢い人間が嘘をつかないとでも思ったのですか、タイリクオオカミ?」


「なっ・・・・・・。」


部屋の奥から助手があらわれ

「そんな顔をするとは情けないのです。」

なんて言ってきた。


「今のところ我々はまだうまくやっていけてます。」


「そっ、そうだ。協力する限り殺したり食べたりはしないと。」


「そんな言葉を信じているとは・・・・・・愚かなのです。じきに利害が一致しなくなり我々は切り捨てられるのが関の山なのですよ。」


「現にライオンは反逆の可能性があるということで処分されたのです。」


「ならばなぜっ!」


「もう疲れてしまったのですよ。


美味しいものを食べてこその人生なのです。


今、美味しいものを食べられればあとのことはどうでもよいのです。


せいぜい今を楽しませてもらうのです。」


「その通りなのです。」





思えばこのとき既に博士と助手は壊れてしまって居たのかもしれないね。ヒトの命令で自分たちが手を下しているのに処分されたなんて他人事のように言っていたのだから。



「かばん、ヒトというのは身勝手で恐ろしいものだろう?


自分達の力ではどうにもならないからとフレンズの力を利用したのに都合が悪くなるとすぐこうやって切り捨てるのだから。」


「・・・・・・。」


「まぁもっともライオンに関しては悲しいすれ違いというだけではなかったみたいだけどね。」


「どう言うことですか?」


「後でカイトから聞いたんだがこの頃からパーク上層部の間でフレンズハンターに懐疑的な意見が多くなってきていてね。例えばヒトの指示を全く聞かないフレンズハンターが生まれたり、狩をすることや肉を喰らうことで本能が刺激されて暴走するのではと懸念されていたらしいんだ。


そんな中でライオンがやらかしてしまってね・・・・・・カイトにも庇いきれなかったみたいなんだよ。


そしてヒトは自分達の力だけでフレンズの口べらしをしようという方針を打ち立てたんだ。


それが確立した暁には当時ハンターだった私もリカオンも博士も助手もお払い箱というわけさ。


全く勝手なものだよね、ほんと。」


「酷い・・・・・・。


どうしてヒトはこんなことを・・・・・・。」


「彼らは彼らなりにパークのことを考えてこれだけのことをやったんだ。それだけは確かなことだよ、かばん。もし彼らがなにもせずパークをほったらかしていたら・・・・・・今ごろはもっと酷いことになっていただろうね。


ヒトは間違いも多いし決して最善とは言えない手段もとってきた。それでも彼らのお陰で今のパークがあることを忘れてはいけないよ。さぁ続きをはなそうか。」









つづく



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