第11話 しょぶん
「あれからどんどんとハンター達が処分されてね。
あるものは言いがかりのような理由をつけて、またあるものは事故を装って、次々と数を減らしていったんだ。
リカオンなんてこっちが心配になるぐらい頑張っていたんだけどね。」
「あっあのリカオンさんがですか?」
僕の脳裏には以前僕たちを助けるために必死に行動してくれたちょっとおどおどしていて、でもやることはきっちりやるリカオンさんの姿が浮かんだ。フレンズを守るために必死で戦うような人がフレンズを害するハンターになっていたなんてにわかに信じられなかった。
「もちろん君が知っている今のリカオンとは別人だよ?
まぁでも彼女はあまり変わっていないかもしれないね。当時彼女は昼はセルリアンハンター、夜はフレンズハンターと2つの顔を持っていたのさ。」
「・・・・・・。」
「全く彼女と来たら最初に自分が食べたものがなんだったかを知ったときなんて酷くてねぇ。せっかくの料理を戻してしまったんだよ。
私も取り乱しはしたがあそこまでひどいとはね。」
「ならなんでリカオンさんはハンターを続けていたんですか?」
「腐っても鯛。
彼女は貴重なセルリアンハンターだからね。
彼女は戦えるフレンズでそう簡単には殺せなかったし、そもそもセルリアンの多かった当時ハンターを減らすのはとてもリスクの高いことだったんだ。
だからね、かなり頑張って説得したんだよ。
新しくきたフレンズを処分することは今パークに居るフレンズを守ることだとか、パークに居るフレンズを守るためには多少の犠牲は仕方がないとかね。
結局彼女にはフレンズを狩ることもセルリアンを狩ることもフレンズを守ることだって思い込ませたよ。
まぁその過程で彼女は少し壊れてしまっていたのかもしれないけどね。」
オオカミさんはどこか遠いところを見るような目でそういった。
「あと彼女には研究で使うセルリアンを捕まえてくるという仕事がまかせられていてね。
だから彼女はかなり最後の方まで処分されずにいたんだ。」
「ということは・・・。」
「さすがはかばん、察しがいいね。
彼女も結局は処分されたよ。」
「どうして・・・。」
「私もかなり驚いたよ。何せ当時研究所で使っていたセルリアンはすべて彼女が供給していたのだからね。まさか彼女が処分されるなんて思いもしなかったよ。何度も怯えるリカオンに向かって君はセルリアンを捕獲するという他のフレンズには到底真似できないようなことな出来るのだから心配ないさ、なんて言っていたのだけどね。まさかたいした特技もない自分よりも先に処分されるなんて全く皮肉なものだよ。」
「そのあとのセルリアンの供給はどうしていたんですか?」
「前にヒトはフレンズに頼らずに口減らしする方針をたてたと話しただろう?それにはセルリアンの確保も含まれていたらしくてね。
かばんはミライの報告を聞いたことがあるんじゃないかい?」
「あっ。」
僕の脳裏には前に見たミライさんの映像メッセージが浮かんだ。
たしか無機物がどうのこうのって。
「その様子だと心当たりがあるようだね。たしかあのときミライは無機物にサンドスターが当たるとセルリアンになるなんてことをいっていたんじゃないかな。あれはある意味正しくて間違いでもあるんだ。」
「どういう意味ですか?」
「無機物、まぁ非生物由来のものと言い換えた方がいいかもしれないけれど・・・・・・とりあえず生き物に由来しないものにサンドスターが当たっただけではセルリアンは生まれないんだ。もしもそんなことになっていたら今頃パークはセルリアンに溢れフレンズなんて誰一人いないだろうね。」
「えっ?」
「考えても見てごらん。ヒトの作るものの多くは生き物に由来しないものから作られているんだよ。確かにこのロッジは木でできているところも多いけどね。でもジャパリバスは金属で出来ているしこのロッジだってコンクリートや鉄も使われている。ガラスだってそうさ。そんなものが一々セルリアンになっていたら堪らないだろう?
窓ガラスの輝きを奪った透明で私たちにはうまく認識できないセルリアンなんていたらゾッとするよ。
でもまぁそんなことは早々起こらないから大丈夫だよ、かばん。
セルリアンはね、サンドスターとサンドスターρがある程度の比率で非生物由来のものに当たらないとその核が生じないんだ。
サンドスターρは基本的には地中深くに閉じ込められていて、噴火以外ではほとんど地表に出てこないから突然建物やジャパリバスみたいなヒトの残したものがセルリアン化するなんてことは滅多に起きないんだよ。
まぁもっとも1度核が生じてしまいさえすればあとはサンドスターをでもサンドスターρでもセルリアンは成長するみたいなんだけどね。」
だからセルリアンはいつも地面から唐突に現れるんだ。オオカミさんの説明を聞いた僕にはなんでセルリアンは唐突に地面からわき出るのか、ようやくなぞがとけたように思いました。
「それでその比率がわかったということは・・・・・・。」
「本当にかばんは鋭いよね。
君が予想した通りさ。ヒトは自分が望む特性をもったセルリアンを好きなときに好きなだけ産み出せるようになったんだよ。
こうなってしまえばリカオンの存在意義なんて吹けば飛んでしまうというわけさ。
彼女は実にあっさりと処分されたよ。」
「ひどい・・・・・・。」
「あの日、私はリカオンに引退してもらうために研究員のマサトと一緒に彼女をつけていたんだ。
そしてリカオン達セルリアンハンターは久々に生じた大型のセルリアンと対峙していたよ。
いつもの通りヒグマとキンシコウのコンビがメインの攻撃を担い、リカオンが飛び散った破片の追跡と可能な範囲での撃破と役割分担してね。
彼女がフレンズの安全のためと息巻いて、飛び散った大型セルリアンの破片に攻撃を仕掛けたんだ。」
「あともう少しっ!このサイズなら私一人でもっ!」
群青色の大な球体・・・まぁ元々のサイズの10分の1程度の大きさなのだがそれでも普通のフレンズにとっては十分すぎる脅威であったし、小柄なリカオンには荷が重いものだった。
しかし長時間にわたって執拗なまでに追回し何度も何度もその巨大な体に攻撃を加えてそのサンドスターを散らしており相手は既にほうほうの体だった。
パークのフレンズに被害を出さないためにもここでっ!
「これで止めですっ!!」
彼女が大きくジャンプしてセルリアンの背中の高い位置にあるイシに一撃を加えようとしたとたん、彼女は突如爆風と共に自分の後ろの空中から現れたセルリアンに呑まれたんだ。
いったい何が起きたのか理解できない。
そんな表情で彼女は溶けていったよ。
「空中からセルリアンが現れんなんて、さっきの説明と無視していませんか、オオカミさん。偶然セルリアンが木ノ上から落ちてきたとか・・・・・・。」
「私もあれを見たときは目を疑ったよ。
カイトや他の研究員からさっきの説明を受けていたからね。
セルリアン爆弾。それが使われたものの正体さ。」
「セルリアン、爆弾?ですか?」
「あぁ、そうだよかばん。あれのなかには火薬とサンドスター、それからサンドスターρがそれぞれ密封されているんだ。そしてピンを引いてから5秒後に中の火薬がドカンッ。
中の封が破れてサンドスターとサンドスターρが吹き出して、爆発で飛び散った爆弾の破片に触れてセルリアンが生まれるというわけさ。」
「そんな恐ろしいものを・・・・・・。」
僕にはヒトという生き物がとても怖いものに思えてきました。フレンズの為と言いながら笑顔でフレンズを殺し、あまつさえ敵であるはずのセルリアンを兵器として使うなんて。
「でも幸いなことにこのセルリアン爆弾が、量産されることはなかったんだ。
大量のサンドスターρを必要とするからとても作るのが大変らしくてね。
そんなことをするぐらいなら研究所でセルリアンの核を作る方がよっぽど効率的だと言うことになったらしいね。」
つづく
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