第7話 りょうり

「さぁカイト、オオカミに教えてやるのです。」


博士がそういうと厨房からカイトが表れた。


「オオカミくん、シカ肉の煮込みは美味しかっただろう?

すぐに血抜きをしてしっかりと熟成させたシカ肉だからね。」


「シカ肉・・・・・・まさかっ!」


「その通りなのですよ。」


「先週お前が狩ったエゾシカなのです。」



聞いたとたん私は頭が真っ白になった。私はフレンズを喰らったのかと。フレンズを脅かすのけものになってしまったのかと。





「ところでかばん。君はどうやってヒトが食肉を得ていたか知っているかい?」


「・・・・・・。」


かばんはとても辛そうな表情をしてうつむいた。


「その様子だと知っているようだね。ヒトは動物を狩ったり肉を捕るために飼育したりしていた訳だ。


全ての動物がフレンズになってしまったあとヒトはどうしたと思う?」


「それは・・・・・・。」


「何てことはない。フレンズを食べたんだよ。まぁもちろんフレンズをそのまま食べることはできないよ。だから一旦セルリアンわざと食べさせるんだ。そしてね、もとの動物に戻ったところでズドンっ。


美味しいお肉の出来上がりというわけさ。


図らずも私は荷担させられてしまった訳なんだよ。


さぁ続きをはなそうか。」








「フレンズになって本当に心が穏やかになったと思いますか?」


カイトはまるで諭すかのようにそう言った。


「あぁ確かに動物であるあなたたちの言い分を聞くことができるようにはなりました。

でもね、我々の本質はなんにも変わっていないのですよ。


ヒトは強欲で、それから我が身が一番かわいいんです。いくらあなたたちがヒトに近いものになろうとヒトとして認めることはないでしょう。

都合が悪くなれば躊躇いなくあなたたちを処分すると思いますよ。


まぁもっとも今や我々も多くがフレンズ化してしまいましたからね。未だフレンズになってない本当のヒトから攻撃されない保証はどこにもありませんか。」


「それはとっても笑えない冗談だね。」


少し前にサンドスター火山にヒトの乗ったひこうきがやって来て山の形を滅茶苦茶にしてしまったなんて話を聞いていた私は肝を冷やした。



「それで、本題に戻りましょうか。パークは今、未曾有の食料危機にあります。オオカミさん、あなたも心当たりがあるでしょう?」


確かに最近ボスがジャパリまんを配るペースが落ちてきていてしばらくもらえないなんてこともあるようになっていた。


「でもなんとか回っているんじゃないのかい?」


「表面上は回っていますね。でも、ジャパリまん製造工場はもう限界なんですよ。なんせ来園者数1万人なんていうとんでもないデータを入れてジャパリまんを製造させてますからね。」


「どういう意味だい?」


「オオカミに説明してやるのです。


本来このパークはヒトが外から見学に来る場所なのです。」


「一時期はヒトが一杯来ていて楽しかったよ。」


「そのときフレンズとヒトが一緒に食べることができる食料として作られたのがジャパリまんなのですよ。」


「そうだね。わたしもヒトと一緒に食べたことがあるよ。」


一緒にジャパリまんを食べたあの男の子は元気にしているだろうか。ふと脳裏に浮かんだそれはパークがキラキラしていた頃の懐かしい思い出だった。


「ジャパリまんは、パーク内にいるフレンズの分とその日外から来た来園者の分を自動で製造するようになっているのです。」


「来園者、1万人というのはこの施設の収用限界人数なんですよ。つまりジャパリまん製造工場は来園者が居ないのにフル稼働というわけですね。」


「本来、交代交代で使うはずの設備を連日フル稼働していればどうなるか・・・・・・頭のいいオオカミさんならわかりますよね?」


装置が壊れてジャパリまんを作れなくなる。カイトは暗にそう言っていた。


「・・・・・・。それで、フレンズ狩りを始めたと?」


「ええ、そうです。


なにせ世界中からフレンズ化してしまった動物が送られてきますからね。


じきに人類も皆フレンズになるというのに何を思ったかフレンズをこの島に封じ込めようなんて考えるやからが多いのですよ。全く参ってしまいます。


それで、オオカミさんは協力頂けますよね?」


カイトは静かにしかし質問の形をとっておりながら有無を言わせないという口調で言った。


断ると言ったらどうなるんだいと言う前に博士と助手が畳み掛けるかのように


「タイリクオオカミ、お前は我々と一緒で賢いのです。」


「イタリアオオカミやホッキョクオオカミのような愚か者とは違うと信じているのです。」


と言った。


「まさか二人は・・・・・・。」


「我々もこれ以上知り合いの血でこの手を汚したくはないのですよ。」


泣きそうな顔をした博士の言葉はどうにも本心のようだった。


「わかった、私も協力しよう。」


二人の仇をとるためにも、何より生き残るためには、今はこうするしかなかった。



つづく

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