第6話 「いただきます」と「ごちそうさま」


「いただきます」


何となく3人につられて私もそういってから匙を手に取った。


深めのお皿に盛られた料理からはなんとも言えない旨味と甘い匂いが漂ってくる。


「んっこれは・・・・・・」


口に入れたとたんにホロホロと崩れるほど柔らかく煮込まれた具材。しかしそのなかには確かな旨味がつまっており甘じょっぱい煮汁のなかでも強い個性を放っていた。


なぜだかその旨味はとても懐かしくて体の芯からかっかと沸き上がるように興奮が伝わってくる。


またそれ以外の朱色や少し白っぽくて穴の空いた具材、少し透明で煮汁色に染まった具材たちもよく味が染み柔らかく蕩けるようだった。



私はあまりに夢中になって食べており、博士と助手いわく話しかけても反応がなかったのだという。



「あらあらオオカミくんは少し物足りなそうだね。まだ残っているけど御代わりするかい?」


「いいのかい?」


「もちろんさ。」


「ありがとう、ぜひ頂きたいよ。」


「そんなに喜んでもらえるとは作った甲斐があったというものだよ。」


「さすがはオオカミなのです。」


「我々よりもずいぶんと食べるのですね」


「あはは、そのなんというか止まらなくてね・・・・・・。」


なんて話しているとカイトが鍋ごと私の前に置いてくれた。


「いる分だけこのお玉でよそってたべてくれ。」


「ありがとう。」


今度は夢中になりすぎないよう気を付けて食べたよ?




そうこうするうちにカイトは食べ終わってしまってねぇ、「お粗末様でした。私は少しすることがあるからちょっと失礼するね。3人はゆっくり味わってください。」といってそそくさと厨房へ消えたんだ。



少ししてから私は二杯目を、博士と助手は一杯目を食べ終えた。



「ごちそうさまなのです。」


「ごちそうさま。」


またもや私は二人につられて謎の言葉をいってしまった。


「博士、助手、そのごちそうさまというのは一体なんだい?それに食事の前のいただきますという言葉も。前にここで料理を食べたときにもしていたが・・・・・・。」


この場所で料理を食べたときにだけ手を合わせていう特別な言葉、なにか新しい作品のネタにならないだろうかそんな軽い気持ちで訊いたことがまさかあんなことになるなんて思っても見なかった。


「気づいてしまいましたか。」


「オオカミはやはり賢いのですね。」


「助手、そろそろ頃合いでしょうか。」


「そうですね、博士。」


「べっ別に話しにくいことならいいんだ。特別な呪いで知られると不味いとかだったらなおさら。」



明らかに博士と助手の雰囲気がかわった。

好奇心は猫をも殺すなんて言葉が脳裏に過り、危険を回避しようと慌て話題をそらそうとした。


でももう手遅れだったらしい。


「別に大したことではないのですよ。」


「なのですよ。」


「この二つの言葉は料理を作ってくれたカイトと‘食材’に感謝する言葉なのです」


「そっそうか。アハハ。」



博士の口から出てきたのは直前の緊迫した空気からするとひどく拍子抜けで全うな言葉だった。



でも・・・・・・パークガイドに料理を作ってもらったときにはこんな言葉は言っていなかった。それに食材に感謝といっていたが一体なんのことなのだろう?


そう言えばこの料理はパークの他の場所では食べられない特別なものだって・・・・・・。


このとき私はものすごく嫌な想像が脳裏に浮かんだ。


ここで料理を食べたあとに感じるこの姿になってから一度も感じたことのなかった高揚感。


「博士、助手。この料理には一体何が入っているんだい?」


私はガタガタと震えていた。何時もは他人を怖がらせて楽しんでいる私がこんな姿をさらすなんてさぞ滑稽だったのだろう。


博士と助手は無表情ながら僅かに口角をあげてこういった。


「さすがはオオカミ。一人でそこまでたどり着いたのはお前がはじめてなのですよ。」


「誉めてやるのです。」


「褒美として我々が何に感謝していたのか教えてやるのですよ。」


「教えてやるのです。」






つづく

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