見果てぬ地平、見果てぬ夢、幻想の迷宮とその果てへ

 どういう話なのか、それはタイトル・キャッチコピー・あらすじ紹介を見れば一目瞭然。もう題材の取り方からして面白い。
 ダンジョン要素はウェブ小説ではありふれているようだが、一方の「戦前の帝都東京」というロケーションがその文体に活かされており、ここが本作独特の魅力を放っている。
 つまり大正レトロな文体なのだが、「※新字新仮名遣いにて掲載」という親切な但し書き通り、旧漢字などはほぼ登場せず、難読漢字には現代語のルビが振られており、雰囲気を保ちながらも非常に読みやすく平易な文章を綴られているので「大正レトロ? 堅苦しそう」と思った方は、臆せず開いてみて欲しい。
 もう一つの見どころは、ダンジョンなんて縁のない、インドア派小説家の先生が「仕事だから」と革鎧とメイスで探索に挑まされるギャップだろう。護衛二人に守られながらの物見遊山なダンジョンアタックとはいえ、彼のおっかなびっくりの探索行と、それを経て冒険への愛を高めていく姿は微笑ましく、それだけに物語の締めくくりが切ない。

 見果てぬ地平への希求は、人類が二足歩行を覚え、遠くを見渡せるようになったその時からあるのでしょう。それはただの逃避ではなく、さりとてそこには「向こうへ行く者」と「残される者」が存在する。
 彼らが見たものはなんだったのか? 確かなことは、この物語では、飯田逢山の小説がその実在を保証してくれるということだ。読者諸氏には、ぜひ極上の取り合わせと、それが描く紛れもない冒険譚をご賞味いただきたい。

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