一華後宮料理帖/三川みり

角川ビーンズ文庫

登場人物紹介/プロローグ

◆◆◆登場人物紹介◆◆◆



雪理美(せつ・りみ)

和国で「美味宮(うましのみや)」という神職に就いていた皇女。好奇心旺盛な性格。


周朱西(しゅう・しゅせい)

崑国の食学博士。研究熱心で真面目だが恋愛に疎く、「恋知らずの博士」と呼ばれている。


珠(たま)ちゃん

理美が厨房で拾った胴長の生き物。理美に懐いている。


龍祥飛(りゅう・しょうひ)

大帝国崑国の若き皇帝。冷酷無情。


蔡伯礼(さい・はくれい)

妖艶な美貌を持つ宦官。祥飛の側近くに仕える。


秦丈鉄(しん・じょうてつ)

祥飛の護衛を務める武官。



◆◆◆




 初対面だった。姉おうじよはいきなり、まん丸な目をした七つの妹皇女にこう言った。

「いいこと、よくお聞き。うましのみやというのはね、神とわたしに『おいしい』の一言を言わせるために存在するのよ。わかってるのかしら? そんなとうみんあけのぐまみたいな、とぼけた顔して」

「へぇ……。そうなんですか?」

 小首をかしげた妹皇女の鼻先に指をきつけ、十歳も年上の姉皇女は続ける。

「そうなの。わたしは、くにまもりのおおかみに仕えるさいぐうなの。そしてあなたは、神とわたしに仕える美味宮になるのよ。あなたはこれから神のために食事を作り、それは神にささげられた後に、わたしの食事になる。それがあなたの役目で、ここに来た意味なの。あなたにできるの?」

「え……お役目……? お役目ですか!?」

 今まで、どことなくぼんやりしていた妹皇女の目がかがやき、身を乗り出す。

「あの、あのっ! じゃあ、斎宮様! 斎宮様が『おいしい』って言うものを作れば、ここは、わたしの居場所になりますか?」

「居場所?」

「今まで、みんなはわたしのことを、ずっと困った困ったと言ってました。『このひめの行く場所がない』って、お父様もじよも言ってました。みんな困ってました。宮中には、わたしのいる場所はなかったみたいです。でも、ここにはわたしのお役目があるんですよね。だったら斎宮様が『おいしい』って言ってくれたら、ここは、わたしの居場所になりますか!?」

 期待するようなはずむ声だったが、幼いながらの必死さがあった。

 幼いひとみを見返した姉皇女は、その瞳の中になにを見たのか。ふと口調をやわらげる。

「ええ、そうね。神とわたしが『おいしい』と言えば、ここはあなたの居場所になるわ。あや

 その言葉に、少女──理子──の瞳はさらに輝きを増す。

「じゃあ、わたし。神様と斎宮様が『おいしい』って言ってくれるお食事を作ります!」

 それは十年前。

 こくでのこと。

 後ろだてがなく、宮中に居場所がなかったかどの第九皇女・理子が、神に捧げる食事を作る役目をさずかり、美味宮・理子となった。

 その日のことを理子はずっと忘れなかった。それは本当にうれしい日だったから。





 しかし十年後。

 美味宮・理子は海をわたり、大陸のだいていこくこんこくの後宮へ入る。みつぎ物として。

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