最終話 戦い終わって朝が来て

 三日後。イベント終了翌日の朝。

 忘却の都ログレスに存在する王宮の地下。

 その日、召喚用の魔法陣は今までに無い異様な煌めきを放っていた。

 金色と虹色と緑色が入り混じったオーロラのような光に、魔力が大気を震わせることで生じるガラスの割れるような音。輝く宝玉が魔法陣の周囲を乱舞し、部屋全体が生命でも持ったかのように震え始める。

 そして溢れ出す光と音が最高潮に達した瞬間、魔法陣の中から長身の女性が現れた。


お久しぶりランゲ ニヒト ゲゼーエン! 勇者戦艦ビスマルク、定刻通りに只今登場! 熱い鋼と、燃える血潮で、君に勝利を齎すわ! ……あ、マリーって呼んでも良いわよ」


 女性はそう叫ぶと格好良いポーズサン○イズ立ちで剣を構える。

 揺れる金髪、燃える瞳、艦首を象った厳しい両肩の鎧が勇ましさを更に引き立て、胸部装甲では三枚の花びらを象った優美な紋章が美しさを添える。

 その手には煌めく黄金の剣、38cm連装砲を長大な両手剣ツヴァイハンダーに加工してしまったものだ。


「やったあああああああああああああああ!」

使用者ユーザーァアアアアアアアアアア!」


 将吾とシャルは美女を見た瞬間に抱き合って喜ぶ。

 美女ビスマルクそっちのけである。


「無駄じゃなかった! 俺達の戦いは無駄じゃなかったんだ!」

「はい! やったんですよ使用者ユーザー! 私達の勝ちです!」


 二人の世界に入っている将吾とシャルに、ビスマルクはおずおずと声をかけようとする。


「あ、あのー……?」

「まあまあ待ってあげなよ、マリー」


 その場に居たもう一人の戦乙女アームズメイデンがビスマルクの肩を叩く。

 ビスマルクが振り返ると、眼鏡をかけた三つ編みの少女が微笑んでいる。


「あら……その黄色いリボンと地味な軍服……もしかして貴方、Fw190ヴュルガーね! ああそうか、貴方は一般配布される戦乙女アームズメイデンだから先に居たのね!」

「イベントの最初の方から、私だけは正気に戻ってたからね。あの二人、UR無しで貴方を呼ぶ為に相当無理な作戦を続けてたから疲れているのよ。今は邪魔しないであげて?」

「んー……そうね、楽しそうだし」

「良いところでしょう?」

「ええ、あのショーゴって指揮官も優秀そうだしね。早速お近づきになろうかしら」

「マリー、変なことはやめてよ?」

「大丈夫よ。此処、結構好きなんだから」


 二人で手と手を握ってぴょこぴょこ飛び跳ねている将吾とシャルを見て、ビスマルクは微笑んだ。


     *


 こうして、犠牲になった戦乙女アームズメイデンへの追悼と、ヴォーティガーン討伐の大戦果を祝す為の宴が始まった。


「しかしあれだな。意外と責められないな。もっと恨まれていると思ってたのに」

使用者ユーザー、私達は兵器です。兵器が損耗するのは戦争では当たり前のこと。それを無意味や無駄にしない限り、貴方は私達が従うべき将なのです」

「そういうものなのかなあ」


 宴席の中心で、納得がいかないと首を傾げる将吾。

 彼の左隣にビスマルク――マリーが来て将吾と肩を組む。


「ショーゴ! もっと飲みなさい! 宴なんだから!」

「ちょっと! 馴れ馴れしいですよ! ビスマルク!」

「固いことは無し! 今日は宴でしょうシャーマン! 大将と戦士達と私に乾杯!」

「やめなさい! まだ使用者ユーザーは未成年なんですから!」

「あ、あの、二人共……ストップ、して……」


 なお鎧ではなくドレス姿になったビスマルクは、只のスタイルが良い美女である。

 胸元を広げたドレス姿のビスマルクと、自分の肉付きの良い身体を隠そうとしているシャルに挟まれ、将吾は顔を真赤にしている。

 そんな彼を見かねたモルガンは近づいてきて助け舟を出した。


「よくぞやってくださいました。王国の民も貴方様に感謝しております」

「ああ、モルガンさん! こちらこそありがとうございます!」

「シャル、マリー、少しショーゴさんをお借りしますね」


 二人が反論する間も無く、モルガンはショーゴを会場の外に連れ出す。


「大事な話ってなんですか?」

「この後のアップデートの話です。どうも運営かみはショーゴ様の戦術を嫌ったようでして……次からは同じ戦術を使うと、他の戦乙女アームズメイデンの好感度に関わる仕様になるからお気をつけください」

「……それは良かった」

「どういうことですか?」

「だってほら、仲間の死を前提にした作戦を躊躇わないって怖いじゃないですか」

「製作者である私が言うのも変かもしれませんが、彼女らはそもそも兵器です。そんなことを気になさらずとも良いのですよ?」

「でも一つの人格が有ります。そんな彼等が、少しだけ兵器から人間に近づいたと思うと……なんだか不思議と悪くない気がするんですよ。機能的には劣化かもしれませんが、それでも……」


 その言葉を聞くとモルガンは微笑む。


「……そうですか。貴方のようなプレイヤーが居て良かった」

「そう、ですかね?」

「貴方のお陰で、私の戦乙女アームズメイデンはまた一つ改良されました。設計者として、愛情を以て彼等に接してくださることを感謝します」

「え、えっと……俺こそ、助けてくれてありがとうございます」

「ふふ、それでは再びパーティーを楽しみましょうか」


 モルガンに伴われ、将吾は再びパーティー会場へと戻る。


「あらあら……楽しそうだこと」

「なにやってんだあいつら」


 楽しそうに笑うモルガン。

 固まる将吾。

 中ではシャルとマリーが腕相撲を開始していた。


「大したことないみたいですねぇええええええ! URってのもおおおおおお!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛ああぁぁっ! ドイツの軍艦は世界一ィイイイイイ!」

「海ィイイイイ? 河の間違いでしょうがぁあああああ!」

「ヤンキーゴーホーム!!!!」

「英語喋るなァアアア! あと此処がうちィイイイイ!」

「いいぞもっとやれ!」

「賭けるなら今だよー!」

 


 そしてその周囲では戦乙女アームズメイデン達が飲めや騒げや煽れやの大騒ぎをしている。


「楽しそうだなあ、あいつら」

「……これも、貴方の勝ち取った光景ですわ」

「悪くないな」


 戻ってきた将吾に反応して、腕相撲を放り出し駆け寄ってくるシャルとマリーを見て、将吾は微笑んだ。


【第1章 初めてのレイドイベント~勝利の価値は?~ 完】

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