ワールド・ウォー・コレクション~高校生ミリオタゲーマーのソシャゲ世界サバイバル術~

海野しぃる

第1章 初めてのレイドイベント~廃人《ツワモノ》共が夢の跡~

第1話 スタートダッシュキャンペーン~事前登録者限定SSR確定ガチャ!~

 ハザマ将吾ショウゴは気がつくと真っ白な部屋の中に立っていた。


「なんだよこれ……」


 ――俺は普通に事前登録コードを入力してゲームを始めただけなのに。

 ――どうしてこんな所に?

 将吾が困惑していると、彼の目の前に黒い影が現れ、その中から人が現れる。


「ようこそ、ワールド・ウォー・コレクションの世界へ」


 三角帽子と魔女の着るようなローブを身に纏った妙齢の美女が、間将吾に微笑む。

 ガラス玉のように大きく輝く金の瞳と、夜空のような蒼い髪。まるで出来があまりに良くて動き出してしまった人形のような女性だった。


「こんにちわ。私はモルガン、貴方の始めたワールド・ウォー・コレクションで使用される擬人化兵器・戦乙女アームズ・メイデンを開発した者です。現代人類の英知と戦乙女アームズ・メイデンの力で、魔王に侵略された世界を救ってください」

「せ、世界!? あの、俺……単にリリース前から人気沸騰中のミリタリー物ソシャゲ始めただけなんですけど……」

「ええ、そうですね。でも貴方……実際に軍を動かしてみたいと思いませんか?」

「うっ……」

「そういうの、お好きですよね?」

「は、はい……興味は……」


 モルガンは嬉しそうに頷く。


「でしたら心配ありません。此処は貴方にとってゲームの世界、帰りたい時には何時でも帰ることができる。余計な心配をすること無く、その欲望を解放なさってください」


 モルガンは手に持つ杖を打ち付けて、部屋の床を鳴らす。

 すると周囲の風景は一瞬で星空へと変わり、将吾はその星空の中心に浮かんでいる。

 将吾が周囲を眺めていると、その中の一つが将吾の手の中へとゆっくり落ちてくる。


「こ、これは……?」

「それが貴方の運命のカードです」


 その言葉を最後に、将吾の意識は遠のいた。


     *

 

「……あれ?」


 気がつくと将吾は六芒星の魔法陣の中に立っていた。

 将吾が足元の魔法陣から顔を上げてみると、魔法陣のすぐ外側に先程出会ったモルガンが立っていた。


「ようこそおいでくださいました。新たなる英雄よ。私はこの城の主、魔術師のモルガン。まずはここまで来てくださったことにお礼を」


 そう言ってモルガンはうやうやしく一礼をする。


「ど、どうも……えっと、ここってその……ワールド・ウォー・コレクションの世界ですよね?」

「ええ、そうです」

「俺が此処に呼ばれた理由というのは……」

「貴方に来てもらった理由は他でもありません。俺達の世界には、異世界から来た武器が数多く存在します。だがそれを扱うことはこの世界の人間にはできない。だからそれを扱うことができる勇者を異世界から呼ぶという計画が進んでおりました」


 その話を聞いて将吾はピンと来た。

 これはワールド・ウォー・コレクションの世界観の説明と同じ話だ。

 ――本当に俺、ゲームの世界に呼ばれたのか。

 そう戸惑う心の裏側で

 ――心が躍るな。

 と、彼自身気づかぬ内に顔には笑みが浮かんでいる。


「大体分かった。つまり俺が戦えば良いんだな?」

「勇者ショウゴ、改めてお願いです。この世界を魔王の手から救っていただけないでしょうか?」


 事態が飲み込めるようになると将吾も積極的になってくる。

 ――今、俺は他の誰にも体験できないゲームを体験している。

 ――だったら楽しまなきゃ損だ。

 とさえ既に考えていた。


「戦うというのは、モルガンさんが開発した戦乙女アームズメイデンで戦うということですよね?」

「ええ、そうです。間将吾、あなたは十七歳という歳に見合わず過去の様々な戦争の事情に明るく、使用された兵器に対する知識も豊富です。この世界で実戦の経験を積めば良い指揮官となるでしょう」

「分かりました。しかし俺はあくまでゲーマーであって、軍勢を指揮した経験とかありませんよ?」

「その辺りはご心配無く、そういった時のために秘書となる戦乙女アームズメイデンを貴方の補佐につける予定でした」

「じゃあ本当のゲームと同じ感覚で戦うことができるんですか?」

「そうなりますね……ああ、念のために聞いておきたいのですが女性の好みは有りますか?」

「へっ!? いきなりなんなんですか!?」


 慌てふためく将吾を見て、モルガンはカラカラと笑う。


「おほほ、だって秘書となる戦乙女アームズメイデンは貴方の好みに合わせた方が、貴方も働きやすいでしょう?」

「いやはや、至れり尽くせりですね。飛び抜けた性能は不要ですが、序盤から様々な戦場で使い回しが効き、指示に従順な娘でお願いします」

「その回答がすらすら出てくる辺り、期待通りですね。戦士ではなく軍師、王ではなく将、私が望んでいた人材です」

「いやはや、英雄らしくない答えで申し訳ありません」


 そう答える将吾の顔も、それを聞くモルガンの表情も、楽しげな笑みで彩られている。


「では一つ参りましょう。先程のガチャの結果発表です」


 モルガンは大きな木製の杖で床を鳴らす。

 すると将吾の居る魔法陣が光に満ちて、その光が収束することで、一人の少女へと変化する。

 ショートボブの黒髪と透き通るような青い瞳。

 そして星の刺繍を散りばめた夜空のような黒いドレス。

 華やかではないが、穏やかで奥ゆかしい雰囲気の美少女だ。


「ハローワールド、そして使用者ユーザー。私は現時刻を以て起動しました。私はM-4シャーマン戦車の戦乙女アームズメイデン。気軽にシャルとお呼びくださいね」


 少女はそう言って将吾に微笑んだ。


「こちら、SSRの――」

「シャーマン戦車……アメリカの主力戦車か」

「ご存知なのですか?」


 シャルは青い瞳を輝かせる。


「当たり前よ。そういう人間を私が呼んだのですもの」


 モルガンはそんなシャルを見て母親のように微笑む。


「ああ、知っているとも。偉大なる凡作、どこでも誰にでも作れて、どこでも誰にでも扱える。そしてコスパが良い。派手な火力は無いが何時でも何処でも動いてくれる。兵器としての一つの理想形だ。ミリオタ仲間には地味過ぎるなんて言う人も居るけど、俺は好きだな。安定した運用を可能にする質実な設計こそ、兵器の美徳だよ」


 そして将吾は楽しそうに語り始める。

 それは高校生らしくもない渋い趣味でこそあれ、特別な意見ではなかった。


「――まあ! 素敵です!」


 しかしそれを聞いたシャルは、悲鳴にも似た歓喜の声を上げる。


「素敵? そこまで珍しい意見かな……?」

「そうですね……ネットだと特に珍しいです」

「ネット……閲覧できるの?」

「ええ、世の人はやれ最大火力だやれ全体無敵だと派手なスキルにばかり目をつける! そして私のような戦乙女アームズメイデンを外レアだの! リセマラランキング番外だの!」

「……おつかれ、ちなみに君はどんなスキル持ってるの?」

「発動型スキルなら……低倍率の自己バフ、自軍攻撃のターゲット操作、敵軍攻撃のターゲット操作です」

「採用。これを使えないとか言っている奴は頭がどうかしているな」

「実はまだどのプレイヤーも第二スキルのターゲット集中操作まで開放できてないんですよね。ゲーム始まったばかりなんで」

「それを俺は今知ることができた訳か。素晴らしいなゲーム世界。こいつは攻略も捗りそうだ」

「その通りです! それでは使用者ユーザー! 戦乙女アームズメイデンの基本的な運用や城中の施設の使い方を私がご説明します! こちらへどうぞ!」


 シャルはそう言って右手を差し出す。


「ああ、俺ははざま将吾しょうご。軍事オタクのゲーマーだ。特技は勉強とゲーム。苦手なのは運動。頭脳労働は得意だが、実戦は君に頼ることになる。よろしく頼む」


 将吾はそう言ってシャルの手を握り返した。

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