第4話 UR登場!~さらばSSR! PvPでインフレだ!~

「良い機会だ。少し他のベータテスターと話したいと思ってたんだよ」

「ベータテスター? 俺はこのゲームのベータテスターに応募した覚えなんてありませんが」

「そうだね。プレイヤーの中から使えそうな人間をこっちが呼び込んだだけだから」

「どういうことですか?」

「君達にテストしてもらっているのはこのゲームそのものじゃないんだよ」

「ゲームじゃない?」

「そうだ。この世界に呼び出せるかどうかのテストをしているんだ。それこそがベータテストの意味さ」

「ベータテストの、意味……」

「すごいだろう? そんな君にはワールド・ウォー・コレクションの真なる存在意義を知ってほしいんだ」

「真なる存在意義?」

「そうだ。ワールド・ウォー・コレクションとは大魔導師モルガンの作り出した世界と世界を闘争で繋ぐシステ……」


 その時、突然通話にノイズが入り交じる。


「どうしました?」

「ワールド・ウォー・コレクションとは大魔導師モルガンの……」


 再びノイズが会話に混ざる。


「ここが妨害無しで喋れる限界か……まあ良い」

「妨害? 一体どこから……」

「時間が無い。手短に行く。もうすぐランキングイベントとURアルティメットレアのカードが実装される」

「えっ、なんか聞きたくもない単語が聞こえたんですけどもう一回」


 言うまでもなくURアルティメットレアのことである。

 将吾のような大事なレアカードに入れ込むタイプのゲーマーにとって、お気に入りカードの上位互換をさらっと作られた時の精神的なダメージは大きい。


「ガチャでも良い。上位者への配布でも良い。だがとにかくURのカードを手に入れろ。何も知らないままで、何もできないままで、絞り尽くされて使い潰されて死にたくなければね」


 ブツッと音を立てて通話が終了する。


「急に不穏だな……いや、まあゲーマー的にURカードは絶対に欲しいけど……」


 将吾は自分の財布の中身を見る。

 笑ってしまうほど金はなかった。


     *


 一週間後。

 運営からのお知らせにより、ランキングイベントの開催とSSRの上位にあたるURユニットの実装が発表された。

 ネットでは性能の考察や、既存ユニットとの性能の優劣比較、対人ゲームとなることへの不安など、様々な意見が飛び交い、各所で混乱が発生。

 しかしながらキャラやシナリオ、人気声優が濃厚キャラトークを繰り広げる公式ラジオ番組の魅力も有り、ワールド・ウォー・コレクションは一定のプレイ人口が保たれていた。


「ショーゴ様。シャルが見当りませんが何か有ったのですか? 曜日ごとの鍛錬の時以外、まるで顔を見せませんね」

「あいつなら宿舎に篭りっきりですよ」


 一方、賑やかなネットの雰囲気とは対照的に、将吾が滞在する忘却の都ログレスの城は、重たい空気に包まれていた。主戦力となるべきシャルが宿舎に篭ったまま出てこないからである。

 将吾は、城の中に有る茶室サロンまで、モルガンに呼び出されていた。


「随分と落ち込んでますね」

「元は兵器だったと思えない程、人間的ですよね」

「元々、戦乙女アームズメイデンはこの世界に転生してきた兵器達に、私が妖精の加護を与えた存在です。元の世界における記憶の力を、妖精が魔術の力へと変えています」

「それが人間性と関係あるのか?」

「多くの思い出を集積している存在程、妖精によっておおいなる加護が与えられます」


 将吾はそこまで聞けば十分事態が理解できた。


「そのを与えられた存在がSSRの戦乙女アームズメイデンということですか? だからレア度の高い戦乙女アームズメイデンの方が語彙力が有セリフが多かったり、人間に近い造形イラストが綺麗だったりするんですね?」


 モルガンは将吾の言葉を聞いて満足げに頷く。


「その通り。彼女らはかつて存在した世界における記憶を元にして自我に目覚め、アイデンティティを獲得し、兵器としての本能によって主に仕える。シャルの場合は、自らの能力に誇りを持ち、それを認めてくれる主の為に力を発揮することに生きがいを求めていました」


 乙女心は分からない将吾だが、兵の心についてはお手の物だ。

 既に彼は事態について殆ど理解をしていた。


「今はそれができなくなりそうで怯えている……と」

「かもしれませんね」

「確かにあいつよりも性能の高い戦車の戦乙女アームズメイデンは居ました。だけど取り回しの良さや整備時間や必要資材も含めたコスパを考えると、やはり俺のシャルは最優です」

「そう仰るのでしたらシャルを過酷な戦闘に耐えうるレベルまで回復させていただけますね? 今のままでは忘却の都ログレスの防衛に関わります」

「勿論。このままでは俺の将としての自信にも関わりますから。それでは失礼」


 将吾は大げさに一礼すると謁見の間を退出して宿舎へと向かった。

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