第3話 公式四コマ漫画を読もう~攻略ツイートがバズったぞ!~

 シナリオモード第一章終盤。

 将吾とシャルの前には、あからさまにユーザー受けを狙った雰囲気の金髪イケメンが立ちふさがっていた。イケメンの隣でいかにも洗脳されてますという顔つきの戦乙女アームズメイデンも、いかにも有名絵師が描きましたという雰囲気がある。

 ――多分、近々実装だなあれは。

 忘却の都ログレスのすぐ近くまで大艦隊が押し寄せている危機的な状況の中で、将吾の思考はあくまで冷静だった。


「やるじゃないか……新たなる騎士よ……円卓第二十位ユーウェインの艦隊を突破するとはな。だがこの戦乙女アームズメイデンライオンを突破できるとは思わないことだ。貴様らの住む偽りの都を滅ぼすのはこの――」


 金髪イケメンにセリフなど言わせるか。

 将吾はユーウェインのセリフを遮って叫ぶ。


「シャル! 止めだ!」

「イエス、使用者ユーザー! 第三スキル:虎殺し発動! ユーウェインの旗艦・大戦艦ライオンへと攻撃を集中させます!」


 乱れ飛ぶクリティカルの文字。

 大火力をばら撒くシャルとフレンドのSSR戦乙女アームズメイデン

 スタートダッシュキャンペーンと事前登録キャンペーンで手に入れた育成アイテムを全投入したSSRカードのステータス暴力は圧倒的であった。


「ぐわああああああ!!!!!」


 ユーウェインとライオンは一瞬で消滅した。


「いやあ、やっぱり困ったらフレンド頼りが一番だな!」

「ですね、使用者ユーザー!」


 しかもSSR同士は惹かれ合うとでも言わんばかりに、将吾のようなSSRキャラをしっかりと育てているプレイヤー同士がフレンドとして繋がり、『見たか運営よ、これが絆の力だ』とでも言わんばかりの高速攻略を達成した人間が将吾以外にも次々現れていた。


「それにしてもストーリーモード第一章から壮大な展開になっちゃったな!」

「まったくです。さて、丁度スタミナもなくなったことですし休憩しましょう。私も貴方に汚された身体を綺麗にしなくては……」

「ちょっと待って! 誤解を招く言い方をやめて!」

戦場いくさばの勢いであのようなこと、珍しくもありません。ですが初めてだからと断りもなく戦車わたし砲手席なかで……」

「ストップ! マーリン王に聞かれたら何言われるか分からない!」

「……そうですね、これは私と貴方だけの秘密。ガチャで引いた他の仲間やシナリオで味方に貰った他の戦乙女アームズメイデンには黙っておきましょう。この天と地の間には戦乙女アームズメイデンの知識では思いもよらない出来事があるのですね……ふふっ」


 シャルは口元を手で隠してクスクスと笑う。

 ニヤついた表情だが、何処か愉快そうなので、機嫌を大きく損ねた訳ではないと将吾はほっと一息をつく。


「じゃあ俺は一旦帰るから、ゆっくり休憩していて。公式の4コマ漫画読んでくるよ。漫画で分かるワールド・ウォー・コレクションって奴」

「ええ、A&M氏の作品ですね。ごゆっくりどうぞ。次なる出撃をお待ちしております。使用者ユーザー


 オプションからゲームの終了を選びつつ、将吾は考える。

 ――急に不機嫌になったり、失礼な事をしちゃったと思ったら楽しそうだったり、シャルは何を考えてるんだろう。

 将吾にとって乙女心は受験勉強よりよほど難しかった。

 

     *


「いやー、面白いな。漫画で分かるワールド・ウォー・コレクション! ゲームそのものについては全くわからなかったけど!」


 漫画で分かるワールド・ウォー・コレクションはハチャメチャだった。目から光が失われている感じの主人公キャラが、ガチャが渋いだの事前予約組優遇されすぎだのガチャが渋いだのアイドルとシャンシャンしたいだの、ひたすら漫才を繰り返す愉快な内容で、これを公式として出して本当に良かったのか、将吾も若干怯む程“攻めた”出来栄えのものだった。

 勿論、ゲームについては何もわからない。

 しかし彼の興味は漫画の面白さではなく、話の展開の方に注がれていた。


「それにしても……この主人公キャラがゲームの中の世界に入った経緯……よく似てるなあ。いや、まさかね」


 主人公が、ゲームを代表するキャラの一人であるT-34戦車の戦乙女アームズメイデン“ミーシャ”と最初に出会ったことを除くと、自分が最初にゲームを遊んだ時と同じような展開が続いていた。


「このゲーム、別にプレイヤーが異世界が云々みたいな話は本来のストーリーに無いんだけどな……わざわざ入れるなんて妙だよな」


 漫画を読み終わった将吾は、自分の攻略レポートと優秀なキャラ及び兵装をまとめてガチャレポートをSNSで配信する。


『シャーマン戦車シリーズが持つ常時型スキルのお陰で、同種戦車が居ると能力値が微増するので、舞台をコモンやレアのシャーマンで固めて、後はSSRのシャーマンでそのまま突き進む戦術は案外有用です #WWC』

『シャーマンでどうにもならないところはフレンドのSSRを只管シャーマン軍団で守りながら戦うと、案外なんとかなります。育成の時間ももったいないですしね #WWC』

『SSRのシャーマンが手持ちに居ない場合でも、リーダーにSSRを置いて、フレシャーマンとコモンやレアやSRシャーマンで固めると安定します #WWC』

『シャーマンでなくても彗星や那智のような日本航空機・艦船はレア度に比してステが高いのでおすすめです #WWC』

『低レアの戦乙女は成長も早いので、今紹介したような戦乙女で属性有利とっておくと良いと思います。出てきた雑魚についてはまとめた画像を御覧ください #WWC』


 この報告、フレンドガチャで手に入る便利な低レアキャラも合わせ紹介しているので、ネットに発信した直後からそこそこ反応は良かった。


「……なんで」


 だが、五分もすると彼のネットにおける呟きは、思わぬ形で拡散することになる。

 次々と反応の中身が将吾のガチャの偏りについてツッコミを入れる内容の割合が多くなっていた。


「なんでだよ! 誰がシャーマンの人だ! ちがう! 好きでこうなったんじゃない! 異常に偏ったの! ちょっとシャルに指摘しづらいから言わずに居たけど、Rも、SRもSSRも全部シャーマンだったの! そうだよ! 全部重なったよ! SSRシャーマンの奥義アーツLvが最大値だバーカ! そうだよ! 俺がシャーマンの人だ!」


 そう、将吾のガチャは基本的にアメリカ戦車に偏っていた。

 現在ワールド・ウォー・コレクションで実装されているシャーマン、ヘルキャット、Lee、そういった様々なアメリカ戦車が彼の手元には集まっていた。


「やめろ! 毎回シャーマン引いてる人だの! 米帝だの! 俺だってゼロ戦ほしかったよ! 和服美人もほしかったよ! 攻略はこれしか無かったんだ!」


 なまじゲーム世界に入れるようになってしまったお陰で、ガチャまで変な影響を受けているのではないかと不安になる将吾。

 だが今更どうしようもない。

 それはそれとしてコモンやアンコモン、レアのシャーマン戦車で部隊を固めてしまう戦術は、微課金勢でもできてなおかつそこそこの実用性が有る部隊の組み方として結構な勢いで拡散されていった。


「なんだこの愚にもつかぬクソリプは……他にやることないの……?」


 RTとクソリプ通知の激流を適当に流し見していると、将吾は見覚えのあるアカウント名を見つけた。


「これ公式漫画作者のA&Mさん……!?」


 その直後に、将吾のアカウントにA&Mからのダイレクトメッセージが届く。

 

『攻略時のスクショ見ました。第一章ボスのユーウェインが繰り出す戦艦ライオンの攻略にあたって、うちのT-34戦車“ミーシャ”を使ってくれたみたいで嬉しいです。今の時点であそこまでスキルレベルと奥義レベルが上がってるの、多分僕のミーシャくらいですから、なんとなくわかりました。これからもログレスにおける冒険を楽しんでくださいね』


 将吾は慌ててメッセージを返す。


『あ、貴方だったんですか!?』

『フレンド選択の時、A&Mって居なかった?』

『ご本人だとは思いませんでした! 漫画、面白かったです! 主人公が異世界飛び込む設定にした理由とかって有るんですか?』

『あー、ちょっと無料通話アプリって使えるかい? 此処から先は音声で会話しよう。記録を残したくない』


 将吾はキーボードを打つ手を止めて画面に表示された文字を二度見する。


「ど、ど、どうしてこんなことに……!? いや、でも、とにかく話を聞かないと……」


 何が起きているのか全く分からない将吾だったが、言われるがままに無料通話アプリでA&Mのアカウントとの通話を試してみる。

 

「やあショーゴ君、本名かなこれ?」


 出てきたのは優しげな声の男性だった。


「名前をカタカナにしただけですね」

「オッケー、改めてよろしく。僕はA&MのMの方だ。気軽にMだのMさんって呼んでくれ」

「A&Mって二人組だったんですか?」

「まあね。秘密だよ?」

「どうしてわざわざ通話なんて始めたんですかMさん?」

「ショーゴ、君はワールド・ウォー・コレクションの世界に入ったんだろう?」

「――っ!」

「フレンドで呼び出されていたサーシャから聞いたんだ。隠さなくてもいいよ。僕も同じだからさ」

「Mさん……じゃあ、貴方も?」

「良い機会だ。少し他のベータテスターと話したいと思ってたんだよ」


 そう言って笑うMの声は、誰が聞いても分かるほど愉悦の色合いに満ちていた。

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