第6話 レイドイベント「バトル・オブ・ブリテン」開幕~捨て艦戦法決行~

「ガチャアアアアアアア! フゥウウウウウ! 溶けるウウウウウウウ! 溶けてるのぉおおおおおお! 乙女結晶いっぱいとけてりゅうううううう! なにもないのおおおおお! お小遣いも無いのおおおおおおお!」

使用者ユーザー……ガチャ爆死のあまり正気が……」

「イベント? イベントってなあに?」


 将吾の守る忘却の都ログレスは未曾有の大災害に襲われていた。要するにイベントである。


「ええとですね……先王アーサーによって封じられた魔王ヴォーティガーンが復活し、戦艦の戦乙女アームズメイデンビスマルクを用いて艦砲射撃を開始してきました」

「ああ、そんな事もあったね」

「現在進行形ですよ!」


 そう言った直後に宿舎が艦砲射撃で揺れる。


「あー、落ち着いてきたお陰で思い出したよ。そんなことも有ったね」

「これに対しモルガンとマーリン王は、異世界を一つにつなげるヴォーティガーンの魔術を逆手に取り、並行して存在する幾つもの世界の忘却の都ログレスから英雄達を呼び出して英雄連合を結成しました」

「要するに――レイドイベント“バトル・オブ・ブリテン”の開催だな。ランキング上位に入らないとUR貰えないクソイベントですよね!」

「何を言っているんですか。このイベントから始めても限定ガチャ引いて特攻装備を手に入れて真面目に周回すれば豊富な素材と限定装備と配布☆4戦乙女アームズメイデンFw190ヴュルガーちゃん貰えるし良いじゃないですか……このイベント、運営による賄賂ですよ賄賂」

「そうじゃない……俺達はUR無しで最高難易度のヴォーティガーンを突破しなきゃいけないんだ。じゃないとレイドポイントに」

「あれって、ガチャ狂いと時間が自由な廃人用の難易度じゃないですか。初日スタート組とはいえ、夏休み中とはいえ健全に学生やってる使用者ユーザーじゃ土台無理ですよ」

「そうは言ってもあれを周回しないとランキング上位五百名は狙えない……上位限定配布戦乙女アームズメイデンビスマルクが手に入らない……」

「そ、そんなに必要ですか……ビスマルク?」

「うちの軍に高レア戦艦居ないでしょうが! ただでさえ今回の限定ガチャは爆死したのに!」

「は、はあ……でも無理なものは無理ですよ……」

「――と、思うだろ」

「できるんですか!?」


 驚くシャル。

 不敵な笑みを浮かべる将吾。


「既にプランは組み立てた。此処2日かけたイベントのストーリー攻略と周回、そしてSNSで収集した情報から、成功確率は高いと見ている。俺とお前ならやれる」

「すごいです使用者ユーザー!」


 ――別に、上位に入りたい理由は限定配布だけではない。

 将吾はシャルの顔をじっと見つめる。

 ――SSRがオワコン? そんなことはない。

 ――それを俺が証明してみせる。あの男に。

 将吾は彼にイベントの話を伝えたMと、目の前で笑顔を浮かべるシャルに改めて誓う。


「……それに」

「それに、なんです?」

「Mという男が言っていた。勝ち残れ、と。俺はこうしてゲームの世界に自由に出入りできる理由を知りたい。そのためにはこのランキングイベントで勝ち残り、Mともう一度連絡をとりたい。一度話して以来、直接の連絡がとれなくなったからな」

「公式の漫画家さんですよね? 何度かフレンドで私の分身が呼ばれていますが、重度の廃人って感じでしたね……あと……」

「俺と同じ、このゲーム世界を行き来できるんだろう?」

「ええ、T-34のサーシャちゃんがそう言ってました。同じ戦車としてのライバルなのですけど、まあなんだかんだ仲良くて……」

「彼は俺のような人間をベータテスターと言っていた。彼は間違いなく何かを知っている。その彼が『勝ち残れ』と言っていたんだ」

「では勝つしかありませんね……あの、使用者ユーザー?」


 シャルは首を傾げる。

 将吾の表情が何処か暗かったからだ。


「どうした?」

「なんだか、勝ち筋が見えた時の顔じゃありませんよ。笑って笑って」

「いやそれがな……あまり上品な戦い方じゃないんだ」

「兵器として意見させていただくなら、戦争に綺麗も汚いもありませんよ。存分に指揮なさいませ」


 シャルはそう言ってニコリと微笑み、将吾の肩を揉んだ。


     *


 それから更に二日後のことだった。

 将吾はSNSに、あるつぶやきを投稿する。


『最高難易度ヴォーティガーンに対するUR抜き軍団での周回を安定させました。 #WWC』

『最高難易度におけるヴォーティガーンの攻略で最も大きな問題は、ダイソンスフィアと呼ばれるボスの取り巻きです。彼等は高い耐久力でヴォーティガーンへの攻撃を受け止めてしまいます。 #WWC』

『また、道中の雑魚戦でも敵のドイツ戦乙女の攻撃で自軍の戦乙女が大破し、撤退に追い込まれてしまう機会が多々有るのが問題でした。しかし既にドイツ戦乙女がイギリス戦乙女を優先的に攻撃するパターンが組み込まれているのは有名です。 #WWC』

『そこで、☆1や☆2のイギリス戦乙女をデコイとして使います。道中の戦闘は二回なので、デコイは三体居れば充分です。残り三体はできればイギリス以外の戦乙女のエースで固めると良いかと思われます #WWC』

『あとは自前かフレンドで☆5のシャーマン戦車を用意し、最終解放スキルの虎殺しを最終戦で使用、ヴォーティガーンにタゲ集中かけながらお祈りしてください。この戦闘中は、不安ならば☆5シャーマン戦車の第二スキルである集団戦術で最後のデコイを使用してください。 #WWC』

『大破とキャラロスに関する仕様の関係上、デコイは一撃で沈みません。また、デコイの攻撃でもヴォーティガーンのHPの1%程度のダメージは入るので、ポイント稼ぎには有効です。デコイはフレポガチャや資材を用いた建造、シナリオ第一章の周回で稼ぐことをおすすめします。 #WWC』


 かつて類似のミリタリー系ソシャゲで悪名を轟かせた“捨て艦戦法”である。

 この攻略方法を将吾が発表した時、タイムラインは擁護派と批判派に分かれ、荒れに荒れた。

 クソリプが飛び交い、巻き込み返信で荒れ、もはや発案者そっちのけの人格攻撃合戦も始まった。

 しかし、将吾が育成した☆5シャーマン戦車のフレンド需要は高まった。初期に外レアと呼ばれていたのが嘘のようである。

 将吾は加速度的に増えていくフレンドポイントとフレンド申請を確認すると――


『この戦術ですが、気分的な問題もあるので、おすすめはしません。思いついたので発表させていただきました。気になった方は検証なさってください。 #WWC』


 とだけ呟いてパソコンを閉じ、再び周回を開始した。


     *


 将吾は忘却の都ログレスの宿舎へと戻った。 

 資源の管理やフレポの計算をしているシャルの隣に座り、帳簿を眺める。


「おかえりなさいませ使用者ユーザー

「今日発表してきたよ」

「何故、発表を遅らせたんですか?」

「今回のイベントはあくまで試験的な試みで、期間もたった一週間だ。イベント3日目朝からイベント5日目夜までの3日間で、これまで溜めていたフレポと資材とスタミナ回復アイテムを吐き出して稼ぎまくった」


 そう言う将吾も、ゲームキャラの筈のシャルも、疲労の色が濃い。

 この3日間、将吾は勉強と遊びの時間以外の全てを周回に注いでいた。


「今から他の奴が同じことをしても俺には追いつけないようにしてから、この戦術を布教して俺にフレポが来るように仕組む。俺は不足したフレポを補充して、周回に必要なデコイをフレポガチャで集める」

「なるほど。勝つ為、ですか」

「この戦術の要はデコイだ。スタミナ回復アイテムは1000円程度の課金で充分量買えるし、お前を含めた主戦力の補給資材はデコイ戦乙女アームズメイデンから剥ぎ取った装備の解体とこれまで貯蓄していた分で賄える。だがデコイとなる戦乙女アームズメイデンばかりはフレポで集めないと赤字だ」

「それを補給して、このまま逃げ切ろうと?」

「ああ、それにもう一つ。イベント後半にさしかかる今からだと、この戦法を潰そうにも、運営の修正も追いつかない」

「本当に悪い人ですねえ、使用者ユーザー。貴方が私達の敵じゃなくて本当に良かった……」

「今のイベントで、この戦術だけを無意味にする方法を考え、ゲームの仕様をいじるなんて、不可能な筈だ。無理に仕様をいじればプレイヤーからの不信感が更に高まる。☆6のUR戦乙女アームズメイデン実装なんてやった直後に、イベント中の緊急メンテなんて……無理だ」

使用者ユーザー……貴方って人は……」

「それに俺はもうポイントをかなり稼いでいる。今更何をされたところで逃げ切れる。戦う前に勝利するってのはこういうことだ」

「ふむ……兵器の私には無い発想ですね」

「盤面だけを見るのは二流だ。盤外俺の世界盤内ゲーム世界の両方を見て、最適戦術を組み上げる。それが本当の社会ソーシャルゲームの楽しみ方さ」

「その割に、使用者ユーザーは楽しそうじゃありませんね?」

「楽しいよ? 戦術考えている時は楽しい。周回は億劫」

「オートモードの実装が待たれますね」

「まったくだ。さて、今日も何も知らないコモン戦乙女アームズメイデンを死地に導くお仕事が始まるが、準備は良いか?」

「なんていうか私、戦乙女アームズメイデンっていうか、戦乙女ヴァルキリーですよね。特に文句はありませんが」

「まあ、ここで上位限定URさえ取れたら、こんな馬鹿二度としなくて済む筈だ。どうせ次回から対策されるしな」

「ですね。それを信じて参りましょうか」


 二人は一つの大きな溜息をつくと、億劫そうに立ち上がった。


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