シュークリーム ~あなたに響く百合短編集~
みかみてれん(個人用)
男にモテると思ってファッションレズ演じてた女の子がガチレズに美味しく頂かれちゃう話(1/3)
うちの中学に、転校生がやってきた。
変な時期に転校してくるなあって思っていたら、駅前に新しくできるコーヒーチェーン店のとこのお嬢様らしい。
長い黒髪を伸ばした、大人しい感じの女の子だった。
「はー、やっぱり都会っ子はかっこいいわー」
スカートの下にジャージを履いて、片足を椅子の上にのっけながら頬杖をつく女子力の欠片もないようなみーこが、うめく。
件の転校生の子は、席に座って文庫本を広げていた。
時折流れる長い黒髪を耳にかける仕草が、なんかこう、ミニチュア版のビブリア古書堂って感じで、まあ確かにかっこいい。
「本読んでいるだけっしょ」
ちょっとギャル入っているアリサが、半眼でつぶやく。
あたしたち女子三人は窓際の席で、クラス中央で文庫本を広げる彼女をじーっと眺めていた。
種類は違うけれど、そのいずれも好奇心。そしてちょっとひがみが入っていた。
クラスの中のモテガールと言えば、あたしたち三人だった。
みーこ、アリサ、そしてあたし。
中学校の中で流行の最先端を突っ走っていたのは、あたしたち三人だ。
アリサは学校で唯一ウリやっている――という体験談をインターネットで読む趣味がある――し、みーこはああ見えて大学生の彼氏がいる。女子力の出し入れが自由自在なのだ。
「クラス内カーストの維持も、もーおしまいだねー」
「転校生ひとりにビビってどうすんのよ、みーこ」
アリサは口を尖らせるが、みーこは聞いちゃいない。
「原宿とか渋谷とかには、かなわんて、アリサ」
「電車がなんなのよ。あんなのすっごい待つじゃん。バス使えばいいじゃん」
「都会では電車が5分置きに来るらしーし」
「それくらい知っているし。インターネットで見たもん。電車の屋根の上にもぎっしり人が乗っているんでしょ!」
たぶんインドの画像と混ざっているアリサへのツッコミを放棄しつつ。
あたしは拳を握って立ち上がった。
「よし、いいことを考えた」
「ほー」
「あの転校生をシメるの?
そんなにキラキラとした目で見られてもシメないよ、アリサ。
あたしは気づかれないように近づいてって、転校生さんの後ろに立った。
そして両手をがばっと掲げる。
「やっぱりシメるんじゃん!」て声が聞こえてきた。違うから。
周りの人たちが見ている中、あたしは彼女の胸を後ろから鷲掴みにした。
「わひゃあ!?」
まだ誰も聞いたことのない転校生さんの大声が響く。
こうしてあたしたちは、転校生さんをグループに招き入れ、クラス内カーストの維持に成功した。
それから二か月が経って季節は夏になった。
コーヒーチェーン店はまだまだ大盛況だ。
あたしたちは転校生さん――
喋るようになって、色々と知ったことがある。
優佳は結構お喋りで、都会人なだけあってあたしたちの知らないことをたくさん知っていること。
少女趣味かと思ったらそうじゃなくて、読んでいる本はいっつもミステリーばっかりだってこと。
辛いものが苦手で、甘いものもそんなに得意じゃないこと。
髪をいじるのが上手で、アリサに「師匠!」と呼ばれてて困っていたこと。
この日、たまたま日直で早く学校につくと、優佳はもう来ていて、席で本を読んでいた。
いつものように足音を忍ばせて、あたしは優佳の後ろに回り込む。
そして。
「おっはよー」
「ひゃっ」
優佳の背が跳ね上がる。
座っている子の胸を掴むのは、こう見えてなかなか難しい。ターゲットを確認しておかないと、後ろからじゃ前が見えないからね。
振り返ってきた優佳は顔を真っ赤にしていた。
「も、もう、なんでいっつも胸を揉むの……?」
「ナイショ」
しれっと告げる。
あの日、優佳に初めて声をかけた日以来、あたしはなんとなくこういうことをしても許されるキャラになってしまった。
それに、ふざけてみーこやアリサの胸を揉んでいると、視線を感じるのだ。
男子たちからの強い情動の視線を、すごく感じるのだ。
彼らの心の声が聞こえるようだ。
俺も、俺たちも、おっぱい揉みてえ……! と。
あたしの今のポジションは、クラスに今までいなかった位置だ。
ウリにめっちゃ詳しいアリサや、ちゃんとした彼氏がいるらしいみーこ。それに都会育ちという個性を持つ優佳に比べて、あまりにも地味だったあたしだけど。
こうした新しいポジションをゲットしたあたしは、今までに比べて一回りも二回りも株があがったような気がする。
恋愛市場はとにかく目立ってなんぼの世界である。あたしは地味子を卒業したのだ。
今では、影で「あのレズ女がー」って呼ばれているらしい。知っている。
でもいいんだ。あたしは信じてこの株に投資するよ。このポジションは絶対にウケる。男子にモテっからね。
時代が追いつくまで、あたしはここで、ファッションレズ界の最前線でがんばるよ。
と、そんなことを思っていると、じっと見つめられたままの優佳はもじもじと髪を整えながら。
「今は人がいないからいいけど、見られるの恥ずかしいんだよ……」
「でも揉んでも怒られないんだったら、揉ませてもらったほうがお得だよね」
「えっ!?」
優佳はぷるぷると首を振っている。ちょっぴり怯えている態度が小鹿のようだ。
「くそう、こいつ可愛いな」
「な、なにが!?」
「優佳、夏休みに入ったらお泊りにいってもいい?」
「えっ、えっ? い、いいけど……?」
「お前の体が目当てなんだ」
「わたしの体が目当てだったの!?」
そんなことを言い合っていると、アリサやみーこも登校してきた。
挨拶代わりに彼女たちの胸を揉み、そして日直の仕事を手伝ってもらい、あたしたちは夏休みの予定を立てる。
夏休みに入るまで、期待をしていたような男子からの告白は、なかった。
ファッションレズ界の熱い夏は、まだ来ないようだ。
「で」
優佳の部屋は綺麗だった。
都会っ子の彼女のイメージに合うような、真っ白な壁紙のおしゃれな部屋だ。
あんまり女の子らしくないのが、あたし的にポイント高い。
けれど、今はそのことじゃない。
夏休み。あたしはカーペットに両足をべろんと広げながら、うめいた。
「なんであたしだけなのー」
「アリサちゃんも、みーこちゃんも、急に用事が入ったって言ってたし……」
優佳は髪をアップにしてまとめて、おしゃれで可愛いワンピースを着ていた。ちょっと胸を強調するような感じの、着てみると窮屈っぽいやつだ。
どこにも遊びに行く予定はなかったのに、まさかこれが部屋着なのだろうか。都会はすごい。
あたしはスマートフォンを取り出して、LINEのグループ会話を眺める。
そこには先ほどからずっと、アリサの恨み言が垂れ流されている。既読をつけるのもメンドクサイ……。
「みーこは大学生の彼氏とお泊りデートだってね」
「わたしちょっと、もしかしたら非実在なんじゃないかって思ってた」
「わからなくはない」
そしてアリサは人手が足りないからと、親戚のナス農家に連れ去られていった。
あいつは友達より金(おこづかい)を取ったのだ。きっとこんがりと焼いて帰ってくるだろう。
「はー、ふたりっきりだねえー」
「そ、そうだね」
先ほどから優佳はそわそわとして、せわしない。
クーラーの効きが弱いのだろうか。
「お泊りしてもしょうがないよね、これ。あたし適当に遊んで帰ろうかな」
「えっ、あっ、えっと」
優佳は手をぱたぱたとさせながら、しかし両手を打った。
「で、でも、もうお母さんにお友達が泊まりに来るって言っちゃったし、今晩のおかず作っていると思うからっ」
「えー。でもそれ、ご飯四人分でしょ……? ふたりで食べるのしんどくない?」
「わ、わたしいつも三人分ぐらい食べているから大丈夫だよ大丈夫!」
そうなのか……。この細い体のどこにそれだけ詰め込んでいるんだろう。
都会の東京砂漠で生き抜くためには、大変なのかもしれない。きっとエネルギー使っているんだろうな。
「大変だね、優佳」
「え? そ、そ、それって、ど、どういう意味?」
額面通りの意味だけど……。
なんかきょうの優佳は、様子がおかしい。初めて人が遊びに来たから緊張しているのだろう。
よし、じゃあここはおいちゃんが緊張をほどいてあげよう。
あたしはがばっと両手をあげると、それをクレーンゲームのクレーンのようにゆっくりと優佳に近づかせてゆく。
優佳は頬を赤くしながら、その指先をじっと見つめていた。
でも、あたしの中にふとした疑問が芽生える。
「なんかさ、優佳」
「う、うん」
「前からやるのって、これ、変じゃない?」
「……へ、へんじゃないんじゃないかなっ」
「そうか……」
指先でゆっくりと優佳の胸をつまむ。
優佳は一瞬だけ体をびくっとさせた後、目をきつくつむっていた。
そして、あたしにされるがまま。
完全に胸を差し出すようにして、首筋から一筋の汗を流す。
「って! これ誰も見てないんだから意味ないじゃん!」
あたしは叫び、頭を抱えた。
あくまでも男にモテるためのファッションレズなのに!
これじゃあただのレズだ!
一方優佳は、首筋の汗を拭うこともせず、膝立ちのまま身を乗り出してくる。
顔を真っ赤にしながら、唇を開いた。
「あ、あの……、こ、今度はわたしも、や、やってみていい?」
「へ?」
「む、……むね、触っても」
おお、その展開は初めてだ。
あたしはちょっとおどけるようにしてポーズを取ってみた。
「構いませんわ」
「……っ、う、うんっ」
あれ、手を引かれた。
そうして、なぜか優佳のベッドへと招かれる。よくわからないけど本格的だな。
ベッドに向かい合って座り直すと、優佳は生唾を飲み込んだ。
その唇は、震えていた。
「あ、あの、わたし、ほんとは、失恋して、こっちに来て……」
「うんうん」
「でもこっちでもあなたみたいな人とまた、であえて、ほんとに、運命なんだなって思って、それで……。であえてよかった、っていうか、すきになっちゃった、っていうか……」
「わかるよ」
全然わからないけど、あたしは朗らかにうなずいた。
なんかすごい雰囲気出しているけど、ファッションレズの見本を見せてくれるのかな。
ファッションレズってここまでしないといけないのか。さすが都会ってすごいなー。
「じゃ、じゃあ……、さわる、ね……?」
「はーい」
あたしは気楽に手を挙げた。
その後、あたしはめちゃくちゃにされた。
すごかった。
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