好感度が数字で見えるようになった女子小学生ですが、隣の家のお姉さんが五億でやばい


「ていうか聞いてよ! ひどくない!?」


 休み時間、りなぽんは机をバンバンと叩きながらすごく怒ってた。


「だってパパもママも1000ぐらいあるのに、たかしくんって100ちょっとしかないんだよ! 付き合ってるのに! カレシなのにさ!」


 はあ、とわたしがテンションの低い相槌を打つ。


 みっちゃんは「まあまあ」と苦笑いした。


「それだけお父さんとお母さんが、りなちゃんのこと、好きってことだよ。しょうがないよ、生まれたときから一緒にいる両親と、六年生になってから付き合ったばかりの男子じゃ」

「しょうがなくないの! あたしは世界で一番愛されたいの!」


 りなぽんがわめくのを眺めつつ、わたしはその頭の上の数字を見やった。


 りなぽんは84。みっちゃんは21。21て。クールにもほどがあるでしょみっちゃん。


「おーい席についてー、授業始めるわよー」


 入ってきた先生は194。けっこう好かれてて嬉しい。




 わたしたち三人は、ある日突然、頭の上に数字が見えるようになった。


 最初の方はこれがなにかわからなかったんだけど、情報交換(じょーほーこーかん)をしていくと、次第にどうやら好感度らしいってことが判明した。


 その能力を使ってカレシを作るりなぽんがいたり、クラスの誰にも嫌われないように優等生を演じてるみっちゃんがいたり。みっちゃんの数字の低さにわたしとりなぽんがドン引きしたり。


 わたしたちはちょっとしたヒミツを共有しながら、トクベツな毎日をそれなりに退屈しないで過ごしてたんだけど。




 ランドセルを背負った帰り道。


「あら、咲良(さくら)ちゃん」


 振り返る。そこには髪が長くて背の高い、大人の女性がいた。パリッと着こなしたスーツは腰のところでキュッとなってて、すごく足が長く見える。ヒールの高いベージュの靴もアクセサリーのようにピカピカで、似合ってた。


 隣に住むお姉さんの、進藤(しんどう)紗代子(さよこ)さんだ。


 いつでも完璧で、颯爽としてる、すっごい美人さん。


「紗代子姉さん、今お帰りですか?」

「ううん、お店を回ってる最中よ」


 手にもったクリアケースには、たくさんの紙とタブレットが入ってる。


 紗代子姉さんは社会人二年目のライターさんだ。ライターさんがどういうお仕事かあんまりわからないけど、この街の美味しいお店を紹介する雑誌を作ってる。だからこうして、帰り道に顔を合わせることがある。


「ね、咲良ちゃん。もしよかったら、このあとカフェでお茶に付き合ってくれない? お姉さんを助けるためだと思って、ね?」


 たぶん、いつもみたいに取材に行くんだろう。


「あ、でもわたし帰り道だから」

「うん、一回おうちに帰ってからにしましょ。ね、どうかな?」

「だったら、はい、大丈夫です。ママも、紗代子姉さんと一緒に出かけるなら安心すると思うし」

「よかった」


 横に並んだ紗代子姉さんはニッコリと笑う。綺麗一色に塗りつぶされたその表情は、なにを考えてるかわたしにはまったくわからない。


 わからない、んだけど。


 紗代子姉さんの頭の上に並んでいる数字は、


 500000000。


 5億。


 あ、違う。カフェに行くって言ったから、今7億ちょいになってる。


 7億て。みっちゃんの350万倍だ。


「あの、紗代子姉さん」

「うんー?」


 ニコニコとご機嫌な笑顔を浮かべてる紗代子姉さんは(ていうか紗代子姉さんが不機嫌なところを見たことがないんだけど)わたしに小首を傾げる。


 聞きたい……。すっごく聞きたい……。


 紗代子姉さんってわたしのこと、好きなんですか? って……。


 最初はもちろんこんな数字ウソだと思ってたし、ていうか今でもそう思ってる。


 うちのママもパパも十分優しいのに数字は1200とかだし。その、ええと……1万倍? そんなのフツーありえないよね。


 でも、りなぽんやみっちゃんに紗代子姉さんの数字を見てもらったときは、せいぜい500ぐらいだったからなあ……。


「ね、紗代子姉さん」

「なになに、どうしたの?」

「手、繋いでもいい? 昔みたいに」

「え゛!?」


 紗代子姉さんが一瞬すごい声を出した。


 反対側を向く紗代子姉さんはハンドバックから取り出したハンカチで一生懸命手を拭いてから、そして何事もなかったかのように、背の小さなわたしに手を差し出してくる。


「なあに、咲良ちゃん、どういう風の吹き回し?」

「なんとなく」


 手を繋ぐ。紗代子姉さんの手はひんやりとして、柔らかくて、気持ちいい。数字は7億から12億になった。一気に5億も増えた……。


 この数字、どこまで増えるんだろう。


 試してみたい。


「ね、紗代子姉さん」

「な、なあに?」

「きょう、昔みたいに、紗代子姉さんの家に泊まりに行ってもいいですか?」

「え゛!?!?!?!?」


 数字が473億になった。




 紗代子姉さんは隣のお家に住むお姉さんだ。わたしが物心つく前からずっとお隣に住んでて、紗代子姉さんが大学生の頃はふたりでどこかにお出かけすることもあったんだけど、社会人になってからはそんな機会がなかった。


 だから、今回のお泊りは地味に嬉しかったりする。


「お、お母さんはなんだって?」

「迷惑かけないようにしなさいね、って言ってました。でも大丈夫ですよ。わたしもう小学六年生です。大人ですから」

「お、おとな」


 紗代子姉さんがごくりと生唾を飲み込んでた。なんで。


 カフェにいって紗代子姉さんが会社で用事を済ませている間に、わたしはお泊まりグッズを持ってきて、紗代子姉さんの部屋なう、である。


 紗代子姉さんのお部屋はきれいな家具や、清潔なカーペットが敷かれてて、あんまりモノがないお部屋だ。


「カフェデート、楽しかったですね」

「デート!?」

「冗談ですよ。ただの取材ですよね?」

「あ、はい」


 紗代子姉さんの数字が乱高下した。


 でもそれはそうとして、ゆったりとした部屋着に着替えた紗代子姉さんはさっきからニコニコとしているばかりである。


 いつも通り優しくて、とても473億も好感度があるなんて思えない。


「でも、どうしたの? 急に泊まりに来たいなんて。お父さんお母さんとケンカでもした?」

「そういうんじゃ」


 どうしよう。説明が難しい。


 紗代子姉さんがわたしのことをどれだけ好きか知りたかったから、とか……聞けないよね。


 でも逆に言えば、理由も言わないのに泊まらせてくれるなんて、やっぱりわたしのこと好きなのかも……?


「わたしは、ええと」

「なあに?」

「その……お泊まりしたかったので」


 照れながらそう言うと、紗代子姉さんは「そっか」と笑ってた。数字はすごく増えてた。


「そういえば昔は一緒にお風呂入ったりしてましたよね」

「そ、そうだっけ? お姉さん忘れちゃったなー」

「せっかく紗代子姉さんのおうちにお泊まりしにきたんですし」


 紗代子姉さんはブンブンと首を横に振った。


「ダメ、それはダメ。ほら、咲良ちゃんももう小学六年生なんだから、ちょっとは自分の体を大切にしないと」

「別に、紗代子姉さんと一緒にお風呂に入るのに、そんな大げさな」

「大げさじゃないの」


 メッ、とされた。でも数字はあがってる。


 お泊まりはいいのに、お風呂はダメみたい。どうしてだろう……。


 やっぱりこの数字、なんかおかしいのかな。


 紗代子姉さんがお風呂にいってる間、わたしはいけないことだとわかってるけど、紗代子姉さんのお部屋のクローゼットを開けてみたりした。


 すると、中のダンボールには本が積み重なっていた。


 本? 引っ越したわけでもないのに、どうしてこんなところに。


 それは社会人のお姉さんが近所の小学生の女の子と恋をするマンガだった。


 わたしはぱらぱらとめくって、複雑な顔で隣の本を手にする。


 それは社会人のお姉さんが近所の小学生の女の子と恋をするマンガだった。


 隣の本を手にする。それは(以下略)だった。


 ていうかこのダンボールに入ってるの、全部そういうマンガだ……。


 わたしは静かにクローゼットを閉じた。なんだか急にあの数字が現実味を帯びてきたような気が……。


「咲良ちゃん?」

「わひゃあ」


 声を上げる。やってきたのは、紗代子姉さんのお母さんだった。お布団を運んできてくれたみたいだ。


「あ、おばさん」

「咲良ちゃんだったら、いつでも泊まりにきてね。紗代子も咲良ちゃんがきてすごく嬉しそうだったから」

「あ、ありがとうございます」


 おばさんの数字は847だ。


「それじゃあ、自分のおうちみたいにくつろいでってね」

「はい」


 頭を下げる。おばさんがいなくなったあと、わたしは紗代子姉さんの部屋のノートパソコンを開いてみた。


 いけないことだとはわかってる、わかってるんだけど……。


 パスワードが入ってる。六桁だ。


 ちょっと考えた後、sakuraと打ち込んだ。開いた。


「これは……」


 壁紙は、小学生の女の子が並んで立つアニメの画像だった。かわいい。


 片っ端からフォルダを開いてみる。すると、紗代子姉さんの自作小説らしきものが見つかった。


 突然押しかけてきた女子小学生と同棲する社会人OLのお話だ。


 読み進めていくと、ふたりがお風呂に入りながら洗いっこをしたり、ちゅーしたりしてる……。あまつさえ、その先まで……。


 わたしは学校の授業で使ったUSBメモリを差し込んですべてコピーした後に、ノートパソコンを閉じた。


 何事もなかったかのように、お泊まりセットを背負い直す。


「よし」


 帰ろう。


 身の危険を覚えてきた。


 そう決意した辺りで、紗代子姉さんが戻ってきた。湯上がりでホカホカした紗代子姉さんはかわいらしいもこもこのパジャマを着てて、普段の姿とギャップがあってすごくかわいいんだけど、そんなこと思ってる場合じゃない。


「咲良ちゃん、お風呂空いたよ」

「あっ、は、はい」

「えっ、どうしたの? どうして鞄を持って私から距離を取ってるの?」

「いえ、特に理由は」


 さすがに紗代子姉さんは感づいたようだ。


「……もしかして、見た?」

「あ、えっと……」

「…………」

「…………」


 見つめ合う。沈黙に耐えきれず、わたしは観念してうなずく。


「……はい」

「そっ、か」


 紗代子姉さんの数字が4億から50億の間を激しくいったりきたりする。


「ごめんね、今までずっと黙ってて」

「いえ」

「もしかしたら気持ち悪いって思われるかと思って、言えなくて」

「……」


 紗代子姉さんは寂しそうに笑う。


「私ね……女の人が、好きなんだよ」

「いえ、そこはもう別になんともないっていうか、もはや話はそんなレベルではないというか」

「え?」


 情感たっぷりに言った言葉をぶった切ってから、しまった、と口を慌てて閉じる。


「え、ちょ、なに見たの? ねえ、咲良ちゃん、なに見たの!?」

「見てないですなにも見てないです」

「私の目も見てくれない!」


 ガクガクと体を揺さぶられる。その必死さがなんかもう、痛々しい。


「あの、ちょっと、触らないでください」

「……っ!」


 少し強めに拒絶すると、紗代子姉さんは目を見開いた。わたしから距離をとり、両手を膝の上において唇を噛む。


 なのに、頭の上の数字は200億付近でとどまっており、どうしてこの人は怒られているのに好感度が上がってしまっているのだろうか。


 わたしはもう、直接聞くしかなかった。


「……紗代子姉さん、そんなにわたしのことが好きなんですか?」


 すると紗代子姉さんは息を呑んだ。目を潤ませながら、静かにこくり、とうなずく。


「咲良ちゃんのこと……好き」

「ふーん」


 でもその好きは、わたしの知ってる好きじゃないと思う。だってあんな、やらしいの……。


 わたしは紗代子姉さんの顎をくいと持ち上げる。あっ、となんだか媚びたような声をあげた紗代子姉さんを、じっと見つめる。


「紗代子姉さんって、しょーがくせいのオンナノコが好きな、ヘンタイさんなんですか?」

「そっ、そんな言い方……」

「ねえ、どうなんですかあ?」


 髪に隠れた耳を指で撫でる。耳は真っ赤で、すごく熱かった。


 数字は……300億、400億、もっと上がってる。


「わたし、紗代子姉さんのことそんけーしてたんですよ。いい人だなーって思ってたのに。あーあ、がっかりですねー。っていうか紗代子姉さん、どうしてイジメられてるのにそんな嬉しそうな顔しちゃってるんです?」

「しっ、してないよ! そんな……意地悪な言い方で、嬉しくなんて、ないよ……」


 口ではそう言ってるけど、数字はごまかせない。


 なんだか悪いことをしてるみたいで、わたしはゾクゾクした。


 ずっと昔から知ってて、優しくて、大人で、かっこよかった紗代子姉さんが、わたしの目の前で、まるで仔犬さんみたいに大人しくしてる。


 わたしがなにかするたびに頭の上の数字は乱高下。もとい、上がってばっかり。


 この感じ。まるですっごくレベルアップしたゲームで、最初の町に戻ってスライムを倒してるみたいな感覚。紗代子姉さんはわたしになにもできなくて、わたしは指先ひとつで紗代子姉さんをどうにでもできちゃう。


 この数字、どこまであがるのか、見てみたい。


 わたしはその耳元に唇を近づけて、囁いた。


「紗代子姉さん……ううん、おねーさん」

「っ!」


 ぶるっと震える紗代子姉さんは、お風呂から出たばっかりなのにもううっすら汗をかいてる。


「おねーさん、しょーがくせいのことが大好きな、ヘンタイなおねーちゃん……。そんなにちっちゃい子がいいんです? オトナのくせに、しょーがくせいに責められて、顔真っ赤にしちゃって。やばーい……」


 くすくすと笑う。わたしだってこういう経験はないけど、紗代子姉さんがなにをしてほしがってるのかは、わかる。


 だって、全部さっきのお話に書いてあったんだもん。


「ね、おねーさん、一緒にお風呂入りたかったんです……? 洗いっこして、わたしがなんにも知らないのをいいことに、ヘンなこといっぱいしちゃおうって思ってたんですか……? そーゆーのって、すっごく卑怯じゃないです……? あーあー、優しいおねーさんだって、思ってたのに」


 紗代子姉さんはそこで顔を上げた。すっごくがんばって勇気を振り絞ったみたいな顔をしたくせに、声はちっちゃくて、わたしから目を逸らす。


「ちっ……ちがうの……私は……」

「なにが違うんですか? 違わないですよね。わたしのこと、やらしい目で見てたんじゃないですか? 下心があったんですよね? しょーがくせいのオンナノコに。ね、おねーさん」


 ふるふる、と紗代子姉さんは首を振る。その抵抗はあまりにもか弱くて、まるでそっちのほうが女子小学生みたいだった。


「誰でもじゃなくて……咲良ちゃんだったから……」

「……え?」


 潤んだ瞳が、わたしの戸惑い顔を映す。


「女子小学生がいいんじゃなくて、咲良ちゃんのことが、好きなの……。咲良ちゃんがずっとかわいくて……。咲良ちゃんが、私の特別なの……」

「そ、それは」


 動揺してしまった。わたしの声が揺れたその隙に、今度は紗代子姉さんが問いかけてくる。


「ね、咲良ちゃん、ごめんね、こんなお姉さんでごめんね……。でも、咲良ちゃんのことが好きなの、好きで……。こんな気持ち初めてで」

「う……」


 もしわたしの頭の上の数字が自分で見れたら、それはきっとすっごく上がっていっただろう。


 りなぽんの気持ちが、ちょっとだけわかる。誰かに愛してもらうのって、誰かの特別になるのって……やばい。


 わたしは横目でちらりと紗代子姉さんを見る。頭の上の数字は1000億を突破。紗代子姉さんはまるで視線そのものに熱量があるみたい。わたしにすがりつく視線をぶつけてる。


 恥ずかしい。だから、ぶっきらぼうに聞く。


「……ほんとに?」

「うん」


 即座に紗代子姉さんはうなずいた。


 確かに紗代子姉さんはヘンタイだったわけだけど、でも、わたしに優しくしてくれたのがヘンタイだったからなら、それも悪くないのかな……なんて思っちゃったりして……。


 わたしもおかしくなっちゃってるのかもしれない。


「紗代子姉さん、わたしにひどいことしたり、しない?」

「しない!」


 まるでバカな男子小学生みたいな必死さで、うなずかれて。


「……わたしがいやがってるのに、無理矢理やらしいこととか、しない?」

「しない!!!」


 うー、うー。


 だったら、ヘンタイなのは、悪いことじゃないのかな……?


 わたしのこと、好きってことだもんね……。


「だいたいそこらへんにいるロリコンと一緒にされたら困るんだよね。私はただ咲良ちゃんが好きなだけで、たまたま咲良ちゃんが女子小学生だったってだけなのに。そりゃ私も女子小学生モノは好きだけど。柚子森さんとかお姉さんは女子小学生に興味ありますとか、うちのメイドがウザすぎるとか。でもそれは因果関係が逆っていうか、咲良ちゃんが好きすぎてそうなっちゃっただけっていうか」

「急に早口になるのキモいからやめてください」

「あっ、はい」


 紗代子姉さんは縮こまった。


 ちゃんと言うことも聞いてくれてるし……。


「いいですよ、紗代子姉さん」

「……いい、って!?」


 なにを想像されたかは知らないけど。


「紗代子姉さんが、わたしを好きなままで、いいです。わたしも紗代子姉さんのこと、好きですし」

「!」


 紗代子姉さんに抱きしめられた。その髪から漂うシャンプーの香りは、なんだか優しかった。


「ありがとうね、咲良ちゃん、ありがとう……」

「ううん」


 紗代子姉さんは涙ぐんでて、なんだかこの人、本当にわたしのこと好きでいてくれるんだな……って胸の中がぽかぽかする。


 ほんの出来心で、紗代子姉さんの数字の正体を確かめようって思っていただけだったのに、まさかこんなことになっちゃうなんて。


 頭の上の数字が見える力がなかったら、お姉さんとこんな風に抱き合うこともなかったんだと思うと、力が手に入ってよかった……のかも?


「ね、咲良ちゃん。もしこのまま好感度を稼ぎ続けたら、ひょっとしてそのうち私と結婚するルートとかに、入ったりしない?」

「え?」

「あっ、はい」


 聞き返すと、紗代子姉さんは口を閉じた。


 そういう意味じゃなかったんだけど……。わたしはちょっと考える。


 きっとこれから先、1000億とかの数字の人なんて、出てこないだろうし。


 紗代子姉さんがずっとわたしのことを大切にしてくれて、思ってくれるなら……。


 うん。


「おねーさんが、わたしがオトナになってもわたしのことを好きでいてくれたら、そのとき考えます」

「!!!」






 それから先。


 紗代子姉さんは小学校帰りのわたしを捕まえて、ことあるごとにカフェに連れてってくれるようになったんだけど……。


 好感度を稼ぐってそーゆーことじゃないんだけどなあ……と思いつつ、わたしはきょうも美味しいケーキを堪能するのだった。


「紗代子姉さん」

「なあに?」


 向かいの席に座ってニコニコと微笑む紗代子姉さん。その頭の上の数字を見て、わたしはいたずらの虫が騒ぐのを感じた。


 紗代子姉さんに顔を近づけて、口元を手で覆いながら、にっこりと告げる。


「大好き」


 こうして紗代子姉さんの数字を弄ぶのが、わたしにとって今、一番楽しい遊びなのだった。





 おしまい。


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