鈍感な中3のお姉ちゃんが丁寧語の小5の従妹に「なにうじうじしているんですか」とか「いくじなし」とか言われる系の短編
紗綾は叔母さんの子どもだ。
つまり、わたしにとっての従妹である。
わたしが中1で、
紗綾もわたしのことを「
ああかわいいなあ、このまま連れ去りたいなあ、えへへ。
そんな風なよからぬ考えが浮かぶぐらい、紗綾はかわいかった。
絹のような長い黒髪は母親譲り。
くりくりとした大きな瞳はまるで宝石のよう。
唇も小さくて、整えてもいないのに眉毛は女優のようにきれいだった。
こいつぁ、将来は美人になるぞー。
毎日そう思っていたし、実のところ紗綾はそう遠くない未来にすでに美人になってしまっていた。
紗綾が小4にあがってジュニアアイドルとして目立つようになってから、少しずつ怪しい雲行きだったのを覚えている。
紗綾が小5になってなんとわたしの身長(152センチ)が抜かれてしまうと、完全に立場は逆転していた。
「遅いんですけど」
事務所の前につくと、紗綾はソファーにふんぞり返りながらスマホをいじっていた。
じろりと睨まれる。ひい。
わたしは目が合った事務さんに頭を下げると、紗綾に手を伸ばす。
「ごめんごめん。さ、帰ろっか。外もう暗くなっちゃっているよ」
「……」
紗綾はわたしを無視して、外に出てゆく。
こ、こいつめ……。誰がわざわざ毎回迎えにきてやっていると……。
生意気盛りの小学五年生なのである。
わたしは紗綾のあとに事務所を出た。
四月も半ばを過ぎると、徐々に日も長くなってゆくとはいえ、七時はさすがに暗いなー。
帰り道をてくてく歩く。
ここからおうちまで十五分ぐらい。ふたりきりの帰り道だ。
「きょうのお仕事はどうだった?」
わたしがにこやかに尋ねると、紗綾はスマホを鞄にしまいながら仏頂面でつぶやく。
「余裕です。いつもどおり大人の人たちにめっちゃえっちな目で見られてました」
「うわあ」
紗綾のやっている仕事はそうきわどい系ではない。
いわゆるケンゼンなお仕事、ってやつだ。
だけど紗綾は小学五年生なのにもう身長は155センチを超えているし、実際体つきもわたしより女らしい(かもしれない)。
それにこんな美少女だ。そういう目で見られるのも無理はないかもしれない。
といっても、紗綾はまだ小学五年生である。
こんな年で男性への不信感を抱いてしまうのは、あまりにもかわいそうだろう。
わたしはお姉さんぶって人差し指を一本立てる。
「まあまあ、かわいい女の子を見ると男の人は自然とそんな感じになっちゃうもんなんだよ。それを許してあげるのも、女の甲斐性ってやつだよ」
えっへんと言うと、冷酷な一言を返された。
「亜希奈、頭大丈夫ですか」
「ひどい」
あんまりだ。
わたしは紗綾を元気づけてあげようと思っただけで。
しょんぼりと肩を落とすわたしを見て、紗綾は咳ばらいをした。
「……まあ、亜希奈の天然は今に始まったことじゃないですけど」
「紗綾がそんな風になっちゃったのは、
「今に始まったことじゃないですけど」
改めて否定された。
しかし、街灯に照らされた紗綾を眺めると、本当にこの子はすごい子に育ったもんだなあ、という気持ちがわいてくる。
小3の頃は「余裕だよ!」と言うからお化け屋敷の入場料を払ったのに、入る前になっていきなりおじけづいてワンワン泣き叫んでいた子と同一人物とは思えない。
ベースが黒髪清楚な美少女なのはいいとして、着ているパーカーもミニスカートもどこかのブランドものだし、バッグだってすっごいキュートな感じだし。
普段も忙しそうにしているから、ゆっくりおしゃべりできるのは、こうして送り迎えをするときぐらいだ。
わたしがじっと見つめていると、紗綾はまたも怒ったような仏頂面を向けてくる。
「……どうかしたんですか」
「え? ううん」
「言いたいことがあるならハッキリと言ってほしいんですけど」
「いやあ、紗綾はかわいくなったなあ、って」
「どこがかわいくなったのか、もっとハッキリと言ってほしいんですけど!」
「ええっ!?」
じとーっとした視線で睨まれる。
うう、なんだろう。またなんか変なこと言っちゃったかな。
わたしは思い出しながらつらつらと語る。
紗綾を褒める言葉は、意識しなくても自然とよどみなく言えた。
「紗綾は大人っぽいし、髪もきれいだし、肌もすべすべだし、スタイルもいいし、頭もいいし、ちゃんと敬語も上手だし、あ、スタッフの人もね、いつも紗綾ちゃんみたいないいこはいないって褒めてくれるんだよ。わたしにはこんなに愛想ないのに……、でも、よそではしっかりしているんだよね。それってすごいことだなあって思うんだよ。わたしだったら紗綾みたいにそんなできないもん絶対」
「だーりゃあー!」
「!?!?」
なに!? 話している途中におなかにパンチされたんだけど!
ぜんぜん痛くなかったけど、なんで!?
「ふーっ、ふーっ、ふーっ……!」
紗綾はなぜか顔を真っ赤にしながら、こちらをすっごい目で睨んでいる。
そこで野良猫2、3匹ぶっ殺してきました、という感じの目だ。
「別に、そこまで言えとは言っていないんですけど!」
「う、うん。ごめんね?」
なんか釈然としない気持ちで、わたしは小さく頭を下げた。
でも紗綾がこんな風にわけのわからない行動をとるのは、どうもわたしの前だけらしい。
叔母さんが前に言ってたっけ。紗綾は学校でもお仕事でも家でもしっかりしちゃうマジメな子だから、ほどよく天然で鈍感な亜希奈ちゃんの前だけ自分を出せるのかもねー、って。
わたしが天然で鈍感ってところは間違っていますけどね。
そんなことを考えていると、紗綾はハンカチで額の汗(そんなに暑くないのに)を拭きながら、さらに問いかけてきた。
「じゃあ亜希奈はもし自分が男だったらあたしと付き合いたいって思うのかどうかちょっと答えてほしいんですけど」
「へ? 付き合う、って……、お買い物とかならいつも付き合っているよ?」
「バカ! バカ! ****狂いの***女!」
「ちょっと今、よく意味がわからないくらいひどい発言を受けた気がするんだけど!」
「絶対にテレビで言っちゃいけないNGワードっていうのを教わったので、早速使ってみただけですけど」
「なんで今!?」
澄まし顔で言う紗綾に、わたしは頭を抱える。
ごめんなさい叔母さま、あなたの娘は放送禁止用語を夜道で叫ぶ小学五年生になってしまいました……。
悲しむわたしに紗綾はこともなく。
「彼氏彼女として、っていう意味なんですけど」
「え? ああ、そ、そういうこと?」
「本当に天然だったっていうのが割とマジで驚きなんですけど……」
紗綾がドン引きした目でわたしを見ている。
それは割と慣れっこなので、わたしは穏やかに答えた。
「紗綾とわたしじゃ年の差が離れすぎてない?」
「小5と中3は、11才と15才ですよ」
「うん」
「つまり21才と26才みたいなものですよ。普通じゃないですか」
「うん。……うん?」
よくわからない理屈だけど、たぶん賢い紗綾が言っているんだからそうなんだろう。
わたしはうーんとうなった。
「でも紗綾はほら、妹みたいなものだから」
「今もですか?」
「うん、そりゃあ」
そうだよー、と言おうとして。
わたしの目をじっと見つめる紗綾の瞳の色の深さに、思わずどきっとしてしまった。
まるで瞳の奥に銀河が広がっているようだ。じーっと見つめられると、心がぜんぶ吸い込まれちゃいそうになる。
わたしは紗綾の視線を両手で遮る。
「だ、だめだよ紗綾。そんなにお姉ちゃんを見つめないで」
「?」
ふう、どっきりした。
すごい、昔から一緒にいるわたしまでドキドキさせるなんて、紗綾の美少女力もここまで極まっていたとは。
アイドルの握手会とかにいく人は、みんなこんな気分を味わうんだろうか。
ジュニアアイドル、マジはんぱないです。
「で、どうなんですか? 聞いているんですけど」
「うーん、やっぱり付き合いたいって思っちゃうかも」
「!」
あっ、なんか紗綾がピーンとした。
「じゃ、じゃあ! あっ、これはお友達の話なんですけど!」
「う、うん」
「友達は好きな人がいるみたいなんですけど! その相手って年上のお姉さんなんですよ!」
「へえー」
さすが紗綾のお友達……、進んでいるなあ……。
「その人はすごい鈍感でのんきでおっとりしていて基本的にバカでのろまで頭の回転が速いのはツッコミのときだけで、そこそこルックスはいいんですけどなんでこんなやつ好きになっちゃったんだろうってぐらいのレベルの人で!」
「う、うん」
なんだろう、この胸がチクチクと痛む感じ……。
まるでわたしのことを言われているみたいだ。
「でも、これが本当に好きって気持ちなのかどうかよくわからなくて、しかも同性相手にそんな気持ちになっちゃうなんて自分ってヘンなんじゃないかって思って……、だって周りの人とかはみんな流行りのアイドルとか、ちょっと年上のかっこいい人とかに夢中だから……、それで……」
どんどんと紗綾の語気がしぼんでゆく。
「……それで、わけわかんなくなっちゃって……、でもいつもその人の顔が頭に思い浮かぶからどうしていいかわからなくて……、それで……、それで……」
「そっかあ」
わたしはポンポンと紗綾の頭を撫でた。
「でもいいと思うよ」
「えっ……?」
こちらを見つめる紗綾の瞳は、先ほどとはまったく違って。
普通のどこにでもいる小学五年生の顔をしていた。
わたしはそんな紗綾ににっこりと微笑む。
「だってみんな違うんだもん。みんなと同じじゃなくってもいいじゃん。将来の夢だって、好きな食べ物だって、好きな色だって、好きなテレビだって、一番好きなものはみんなちょっとずつ違うじゃない」
「……うん」
よしよしと紗綾の頭を撫でながら、わたしはなるべく優しい声を出す。
「それなのに、好きなタイプはみんなと一緒じゃなきゃいけないなんてことはないよ。カッコいい人が好き、ちょっとカッコ悪い人が好き、頭のいい人が好き、女の子が好き……。ね、亜希奈お姉ちゃんはいろんな人がいてもいいって思うよ」
わたしを見つめる紗綾の目は、心細さに揺れていた。
「……そう、なのかな?」
「うん、そうだよ絶対」
ぎゅっと拳を握って、強く言い聞かせる。
「そのお友達はすごいよ。誰かに言ったらからかわれるかもしれないのに、紗綾を信じて相談してくれたんだよね。それってすごく勇気あることだと思うし!」
その瞬間、紗綾の瞳にうるっと涙があふれた。
お、おお……?
友情の尊さを、感じ入ったのかな?
やばい、おねえちゃんちょっとびっくりしちゃったよ。うん。
「違うの」
「え?」
紗綾はふるふると首を振った。
それからわたしを見つめて、言った。
「そのお友達って、あたしのことなの」
「え?」
わたしは二度同じ『え?』を繰り返して、目をぱちくりさせた。
「あたし、亜希奈お姉ちゃんのことが好きなの」
え。
三度目は言葉も出なかった。
えーと。
えーと……。
もう、おうちまであと三分ぐらいでつく。
けれど、わたしたちは暗い夜道に立ち止まっていた。
紗綾はわたしをひたむきに見つめている。
少し昔を思い出した。
去年、紗綾が小学四年生になったばかりの頃。京都に旅行にいった際に、わたしと紗綾だけが人ごみにはぐれちゃったんだ。
運の悪いことに、わたしのケータイは電池切れで(ってそれはわたしが間抜けだっただけなんだけど!)、紗綾が持たされていたキッズケータイは慌てて操作したから落として割ってしまったのだ。
紗綾はすごく心細そうな顔をして、今にも泣き出しそうだった。
わたしは紗綾の手を引いて、ずっと大丈夫だよ、大丈夫だよ、って彼女に言い聞かせていた。
結局、人に尋ねて近所の交番を案内してもらって、そこで無事みんなと合流することができたんだけど。
今の紗綾はあのときと同じように、じっとわたしのことを見つめている。
わたしに捨てられたら、もうどこにも行く場所がなくなってしまうみたいに。
「え、えっとね」
「うん」
わたしは頭の後ろに手を当てる。
それはちょっとした気の迷いじゃないかな、とか。
たまたま近くにいる年上の人がわたしだったから、そう思っちゃっただけなんだよー、とか。
わたしを好きだと思っているのは今だけで、すぐにいい男の人が現れるよー、とか。
なぜだか、断る言葉ばっかり浮かんでくる。
だめだ!
こんなんじゃだめだ!
わたしは猛省した。
「とりあえず、わたしをぶって!」
「え!?」
「お願い! さっきみたいに一発!」
「え、えっと……」
紗綾がめちゃめちゃ戸惑っている。
「だ、だーりゃあー!」
「ふぐっ!」
あっ、戸惑って力加減がうまくいっていないから、普通にいたい!
わたしはおなかをおさえてうずくまる。紗綾はおろおろしていた。
「だ、大丈夫、ありがとう……、目が覚めたよ……」
「亜希奈がこういう趣味をもっているんだったら、あたしのほうが大丈夫じゃないかも…………」
「そ、そんなことはないよ。ちょっと喝を入れてほしかっただけ」
わたしは改めて紗綾に言う。
「わかった紗綾、わたしも女だ」
「だからめちゃくちゃ悩んでたんですけど……」
「うん」
わたしは深呼吸した。
紗綾が気持ちを伝えてくれたんだ。
ずっとずっと悩んで、泣いちゃうぐらいに思い悩んで。
わたしだって、言わないと。
真剣に、だ。
「あのね、紗綾」
「う、うん」
わたしは紗綾の肩に手を置いて、紗綾を見上げる。(わたしより普通に身長が高いので)
頬を赤らめた紗綾は、目をぱちぱちさせながらわたしを見つめている。
生まれて初めて告白をした少女に、わたしは今返事をしようとしているのだ。
紗綾の胸の鼓動が、わたしにまで伝わりそうだ。
星降る夜の下、月に照らされた紗綾はまるで妖精みたいに綺麗で……。
……あ、だめだ。
これやばい。めっちゃかわいい。
わたし言えないや。
「えっ、ちょっ、亜希奈なんでこの期に及んで顔を背けるんですか!?」
「いやぁ、なんといいますかぁ……」
「嘘ですよね!? ここでなんでウジウジしているんですか!?」
「紗綾ってやっぱりかわいいよねえ~……」
「ちょっと!? 中3が小5に告白されて照れすぎじゃないですか!?」
えへへ、えへへ、と曖昧な笑みでごまかしてみようとする。
だめだ。わたしの試みは据わった目による眼光で破壊された。
紗綾がぽつりとつぶやく。
「……いくじなし」
「え!?」
「小5に告白されて、返事を保留にする中3とか、最低なんですけど」
「だってそっちはずっと悩む時間があったわけじゃん! わたしは今いきなり言われたんじゃん!」
紗綾がちょっとだけ「うっ」とうめきながら引き下がった。
わたしの苦し紛れの発言は、思ったより紗綾にダメージを与えられたらしい。
「……わかりました、返事は少し待ちます」
「ほっ」
「じゅーぅー、きゅーぅー、はーちぃー……」
「嘘でしょ!?」
カウントダウンを始めた紗綾の頬をムギュッとつまむ。
「それ焦らせているのと変わらないからね! おんなじだからね!」
「亜希奈」
「なにさ!」
紗綾はわたしの手首を掴んで、そっと自分のほうへと引き寄せた。
わたしたちの距離がぐっと近づく。
え、ちょっと、えっ……。
「あたしこれからもジュニアアイドルは続けたい。チヤホヤされるのも、かわいいって言われるのも好きだから」
「う、うん」
いい性格をしておる……と思ったが、紗綾に至近距離で見つめられると、とてもじゃないけれどそんなことは言えなかった。
「亜希奈が迎えに来てくれるのも、好き」
「……うん」
紗綾の手首を掴んでいないほうの手が、わたしの腰に伸びる。
わたしはさらにグッと引き寄せられた。
もはや力でも、わたしは紗綾に勝てないんだ、ってそのときわたしは気づいてしまった。
「もしかしたら、あたしの気持ちなんて、いつのまにかなくなっちゃうかもしれないけど」
紗綾の瞳に囚われたわたしは、彼女をじっと見つめる以外にできることはない。
「でもそれじゃやだから、だから、お願い。今だけでも、いいから」
「ん……」
力の抜けたわたしの体を、紗綾が支える。
もう抵抗なんてできなかった。
そっと、紗綾の顔が近づく。
わたしは目を瞑った。
柔らかな感触が唇に触れる。
わたしの初めてのキスの相手は、小学五年生の従妹だった。
すっ……と離れた紗綾は微笑んで、今度はわたしの額にキスをした。
「あたしいくつになっても、ファーストキスは亜希奈お姉ちゃんでよかったって、きっと思うよ」
「……うん」
わたしは紗綾に抱かれながら、その匂いにうずもれていた。
もう完全に頭がとろーんとしていました。
近頃の小学五年生って、本当にすすんでいますよね……!
ということを、いきなり紗綾がこないだいきなり思い出して語ったので、昔話に花が咲いてしまったというわけで。
「小学五年生だったのに、よくそんな鮮明に覚えているよねえ」
「忘れるとかありえないんですけど?」
「わ、わたしだって忘れていたわけじゃないって! ただ細部の整合性がじゃっかん怪しかっただけで!」
「****狂いの***女……」
「それ結局どういう意味なのかいまだにわかんないんだけど!」
キングサイズのベッドの上で叫ぶわたし。
紗綾はワイングラスを手にして楽しそうに笑う。
「ね、『亜希奈お姉ちゃん』」
「……なんですか?」
妖艶に笑う紗綾の顔はゾッとするぐらいに綺麗で、思わず身構えてしまう……!
「実はあのときの答え、まだ聞かせてもらっていないんですけど」
「えっ!? そ、そうだった!?」
わたしは思わず焦りながら後ずさりをする。が、すぐにベッド後ろの壁にぶつかってしまった。
紗綾は空になったワイングラスをテーブルの上に置くと、獲物を狙う豹のように四つん這いになってこちらへと向かってくる。
ちろりと唇を舐める仕草に、思わず心臓が高鳴ってしまった。もうだめだわたし。
「今度こそ、聞かせてくださいね。いくじなしさん」
「え、ええっとー!」
紗綾がわたしをたやすく組み伏せる。十センチの身長さは覆せるようなものではなかった。
わたしの耳を甘く噛み、なぞるように舐めながら、紗綾は吐息を吹きかけてくる。
そうして、ささやくように。
「じゅーぅー……、きゅーぅー……、はーちぃー……」
「ひいいいいいいああああああああああああ!」
わたしが中1で、
紗綾が小4にあがってジュニアアイドルとして目立つようになってから、少しずつ怪しい雲行きだったのを覚えている。
紗綾が小5になってなんとわたしの身長(152センチ)が抜かれてしまうと、完全に立場は逆転していた。
それからの日々に苦労はたくさんあったけれど、わたしは毎分毎秒ごとに美しく気高く成長してゆく紗綾のことを、もっとずっと好きになり続けている。
そして今。
わたしが二十六才になり、紗綾が二十一才になって、わたしたちは一緒に暮らしている。
マンションは、今や完全に一流女優となった紗綾の所有物だ。彼女のマネージャーを務めるわたしはプライベートでも仕事でも、もうずっと紗綾には頭が上がらない。
この立場が逆転することは、きっと金輪際ないだろう。
幸せだけれど……お姉ちゃんは複雑だなあー!!!
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