なんでも全部受け入れてくれて、通報もせずに愛してくれる都合のいいロリを前にお姉さんはもう
「えっ!? なにをしても全部受け入れてくれて、通報もせずに愛してくれるロリなんて、おねロリにただただ都合のいい存在が、本当にいるんですか!?」
私が一息に言い放つと、正面に座っていたおねロリ友達が鷹揚にうなずいた。
彼女と私は月一でこうしてバーにやってきて、最近読んだおねロリ漫画の素晴らしさや、ロリについての愛を語る会を開いている。会社の人に見られたりすると社会的に死ぬので、密やかにだ。ただ、今だけは少しテンションがあがって、大声になってしまった。いっけね。
「それが、あるのよ」
「まままままマジですか」
震える手でソルティードッグを飲む。テーブルに少しこぼれてしまったのをハンカチで拭く。拭く、拭く……だめだ! 拭けない!
「詳しく、詳しく聞かせて」
「ちょっとは落ち着きなさいよ」
深呼吸した。外ではデキる意識高い系キャリアウーマンで通っている私だが、今の私は小さな女の子に憧れるただひとりの恋する乙女だった。乙女て。
「カスタムアンドロイドなんだけど」
カスタムアンドロイド。それは要するに人間型のロボットだ。ここ数年で急速に普及しているものの、20才以下モデルは製造されていない。法律上いろいろと難しいらしい。
「その、ロリモデルってやつが、特別なルートで流通していて」
「………………」
あ、そう……。
私は背もたれに背中を預けて、横を向きながらけだるげなため息を付いた。
「はあ、さいですか」
「なんで急速に興味を失ってるの」
「だってそれ、カスタムアンドロイドなんでしょ」
アンドロイドは生身の人間とは違う。作られた存在だ。人間のために生まれた、都合のいい存在だ。
「いくらおねロリだからって言っても、違法なロリのアンドロイド買うのは、さすがに……ちょっとねぇ……?」
「なんで軽蔑するような顔になってんの」
「はぁ~~~……」
大きく首を振る。こいつならわかってくれると思っていたのに。
「アンドロイドに性別はありませんよ。いくら女性型に作られていても、それは外見だけであって、中身はアンドロイド。AI。性自認、無。そんなの、果たしておねロリと言えますかね? わかりますぅ?」
「出た、こじらせた百合厨」
一般意見です。
「そもそも私は小さな女の子が好きなんだよ。成長過程に輝く一輪のつぼみ。これから大人になっていって、少しずつ羽化しつつあるさなぎの放つ光。これがロリの醍醐味なわけでしょ? それがぁ? アンドロイドぉ? ただ小さな女の子っぽいボディをしただけの機械を愛でて、どうなるんですかねえ? 虚しくなるだけでは?」
都合のいいロリなんて、うまい話があるはずないんだよなあ。私は落胆して酒を煽る。
「百合ってさ、そういうものじゃないじゃん……。女同士の感情ってさ、ただ見た目が女なんじゃなくて、中身が女で、女の社会で生きていて、その女と女が恋をするから尊いっていうかさ、それをアンドロイドで代用するんじゃ、おしまいだよ、もう……なにもかも、おしまいだよ……。外見が女の子だけでいいって言うんだったら、TSだって男の娘だって百合じゃん……。アンドロイドに性別なんてないんだからさ……。なにがおねロリだよ……おねロイドだよ……」
「ちょ、ちょっとあんた、泣いてるの……!?」
うぐっ、うぐっ、と嗚咽を漏らす。友達はドン引きしていた。
「だって、期待させるから……! ちゃんとしたロリが、ついに私のことを愛してくれるのかって思わされるから……! それがアンドロイドなんて、あんまりだよ、あんまりだよ……っ!」
28才になって人前でしゃくりあげる女を、友達は同情の眼差しで見つめていた。
「あんたがそこまでこじらせているとは、思わなかったわ……。ごめんね……」
「えぐっ、えぐっ……」
ティッシュを渡されて目元を拭う。
「ロリに頭を撫でられて、慰められたい……貯金ならあるんだ……金なら、金ならあるから……」
酒を煽っていたところで、頭にさわさわとした感触があった。誰かに頭を撫でられているらしい。
私は綺麗なお姉さんもまあまあ好きだが、でも友達相手に恋愛感情を抱くことはできない。ちょっとやめてよと手で払おうとしたところで、目が合った。すぐ近くに、小学五年生ぐらいの女の子が立っていた。ぱっちりと瞳が、わたしを見つめていた。
え!?!?!?!?
ときめきに心臓が止まるかと思った。ただ、友達が慌てたように口を開く。
「えっ、タバサ、どうしてここに」
え……?
「はい。お姉さんの帰りが遅かったので、心配になりまして」
「だめでしょ、家で待ってないと……。他の人にバレたら、どうするの」
小声でたしなめる友達。私は呆然とする。
「ごめん、杏(あん)。ちょっと先に帰るね」
「えと、あの、その……、そ、その子は……?」
震える指先で差す。
バーに立つ、可愛らしい格好をした可愛らしい女の子を。
「……ひょっとして、買ったの?」
目を逸らされた。
「な、な、な、なんてやつだ……」
友達は小声でぼそりとつぶやく。
「…………いいじゃない、外見がロリなら」
頭がカッとなる。私は酒を飲み干した。かこんっとテーブルにコップを叩きつけ、怒鳴る。
「目を覚ましなさいよ! そういうんじゃないでしょ! 私たちのロリへの愛は! そんな代替品を愛でることで済まされてしまうようなものだったの!? 見損なったわ! 甘いミルクの体臭を一日中かぎたいだとか、初めてのブラジャー選びに付き合いたいとか、小さな足の指の爪を切って磨いてあげたいとか、うっとりと夢を語っていたあなたの気持ちは嘘だったの!?」
「だって手を出したら捕まるもの!」
「それはそうだけど! だからって! 見損なったわ! 私は絶対にアンドロイドを買ったりしないんだから!」
友達は小さなアンドロイドと幸せそうに手をつないで、帰っていった。
翌日、私はアンドロイドを購入した。
***
二週間後、我が家にアンドロイドが届けられた。
丁寧に梱包された怪しいダンボールが届く。私は狭いマンションの廊下で、親指を噛んでいた。
「……そうね、これはテストよ、テスト」
遠藤杏、28才。
ロリに憧れられるように大人のお姉さんとしての振る舞いは、完璧に仕上げた。おかげで自他ともに認める美人OLの称号を手に入れた。けど、本当にほしいものは手に入らなかった。私のロリへの愛は一途なものだ。
昔からずっとロリが好きだった。いつだって遠くから眺めているだけだったけど、でも、好きだったのだ。
その気持ちを試すために、私はあえて非合法なロリアンドロイドを購入した。友達に絶対零度の眼差しで見つめられながらも、アドレスを教えてもらった。
「私のロリへの一途な愛は、外見が似てるだけのアンドロイドなんかに負けたりはしないってね」
そのために貯金の半分を使ったけれど、後悔はしていない。
そう、いわばこれは踏み絵。私がロリに抱く真実の愛を証明するための通過儀礼。
ここで私はアンドロイドの誘惑をはねのける。思いっきり徳を高め、現世においてロリとの大往生を迎えるのだ。
「じゃあ、ええと……開封しますか」
ダンボールを開けて、梱包材をかきわけて、お目当ての物体を持ち上げる。
「うっわ」
白いスクール水着みたいなのを着せられているそのアンドロイドは、紛れもなくロリだった。
肉体年齢は小学五年生。指も耳も体もちっちゃくて、どこも真っ白。シミひとつない。アンドロイドだから当たり前だけど。
外見は詳しくカスタムができたので、金髪のセミロングにしてもらった。胸は平たくて、背は140センチ。その割に股下が長く、細くてスラッとしている。
正直、外見情報を入力しているときは軽く死にたくなったけれど、実物を見るとあのとき手を抜かなくてよかったな、とつくづく思う。
完璧な美少女がそこにいた。私の理想の外見を体現した存在が。
うっわ……可愛すぎ……。やばいでしょ、ヨダレ出てくる……。
思わず15分ほど見惚れてしまってから、ハッと我に返る。
「いかん、いかん……、見知らぬロリを部屋に連れ込んだみたいな気分になってしまった……」
目を閉じていて、呼吸もしていないので、ここを誰かに見られたら一発アウトだろう。やばい、ドキドキしてきた。
いや、違う。違うんです。これはそう、新しい電化製品が届いたりすると、嬉しくなっちゃうでしょう? そういうこと。はい証明完了、完璧。
「えっと、USBケーブルに付属のタブレットを繋いで、そこから基本データを入力、と……」
USB差込口は、彼女の肩のところにあった。
入力していくデータは、主にアンドロイドの設定についてだ。名前や言語、アプリケーションのインストール等々。ようするに、パソコンを買ったときにするようなやつだ。
名前はサーリャにした。せっかく金髪の美少女を注文したので、ハーフという設定だ。海外からホームステイでうちに来ていて、私のことが大好きになっちゃったから、うちから小学校に通う、という……。
基本設定を詰めているときはだいぶ死にたくなったけど、でもここで妥協しても仕方ない。だってこの子は、私が本当にロリが好きかどうかを確かめるために遣わされた悪魔の手先なのだから。そこも全力でやらないと、意味がない。
入力が終わった。いよいよ、起動だ。
タブレットをタッチする。五秒ほど経って、彼女はぱちりと目を開いた。
ターコイズブルーの大きな瞳が、私を見る。心臓が早鐘を打つ。
「えと、あの」
彼女が姿勢を正す。床に正座し、頭を下げた。
「おはようございます、マスター」
「うっ!」
私は胸を押さえた。声が、声がちっちゃい女の子のそれそのものだ。まるで小川のせせらぎのように清らかな音色を奏でている……。
いやいや、こんなのただの有名声優のサンプリングボイスだから。技術があがっているから、不自然に聞こえるものはなにひとつないけど、だからっていちいちうろたえていたら、身が持たない。
「ここからは質疑応答での設定入力になりますが、よろしいですか?」
「え、ええ、いいわよ」
事務的な言葉遣いに、少しだけ脈拍が落ち着く。
「マスターの呼称は、いかがいたしますか?」
来た。
お姉さん、お姉ちゃん、おねーちゃん、色々あるけれど、ここは基本に忠実にいくことにした。
「お姉さん、で」
「了解いたしました」
その後もいくつかの質問に応えると、いよいよサーリャは本格的に起動した。
立ち上がった彼女は手を前に揃えて、恭しく私に一礼した。顔を上げて、ニッコリと微笑む。
「きょうからよろしくです、杏お姉さん♥」
「ああーうーんー! あー! うあー! やばいなー! これめっちゃやばいなー!負けそうだー! はー! よろしくねー!」
こうして、私の一人暮らしにはアンドロイドが加わった。
***
「えっと……きょうから、ここを自分の家だと思って、遠慮せずに過ごしてね」
「はい、ありがとうございます、お姉さん。お世話になりますね」
ぺこりと頭を下げる。いいこすぎでしょ、この子……。親御さんに蝶よ花よと育てられたのね……。
いやいや、違う違う。この子はアンドロイドだった。
あらかじめ用意しておいたロリータな服を着せたサーリャの見た目は、そりゃもう可愛くてロリロリな完璧な美少女だった。視界の端に映るだけで、悶えて床を転げ回りながら「かわいいいーーーーー」と叫びたくなるぐらいの破壊力がある。拳を握って耐える。
「あの、お姉さん。わたしはなにをすればいいですか?」
「あー」
そうか、一応は家事手伝い用のアンドロイドだから、そういうのは進んで聞いてくるわけなんだ。
「そうだね、じゃあまずはお部屋の掃除をお願いしようかな。やり方を教えるね」
「はいっ」
満面の笑みで微笑んでくれた。浄化されそう。
隣に並んで掃除の仕方を教える。本当はすべて1からマスターしているモードもあったのだけど、今回は私は全部を学習型にした。その方がロリと一緒に暮らしている気分になるからだ。
金髪の髪を揺らしながら、お部屋に掃除機をかけてゆくサーリャ。渡したスカート、短すぎたかな……? 動くたびに裾がひらひらして、落ち着かない。違う。サーリャの足が長すぎるんだ。目に毒過ぎる。
隣に立っていると、甘いミルクの香りが漂ってくる。匂いもちっちゃな女の子そのものだ。やばい。なにがやばいって、ここでサーリャを押し倒しても、法的になんの問題もないってことだ。サーリャは『そのための機能』もちゃんと内蔵されているらしいから。やばすぎでは。
「終わりました、お姉さん」
「うん、おつかれさま。ちょっと座って休憩しようか」
「はぁい」
丁寧語のロリがソファーで私の隣に座る。軽くしなだれかかってくる彼女の体温は高くて、それも小さな女の子って感じだ。
ちらりと窺うと、私を見上げてニコニコしている。
「ど、どうかした?」
「いえ。お姉さんと一緒にいられて、幸せだなぁって」
私のことが好きで好きでたまらないという微笑みに、私の心臓は撃ち抜かれる。なんだこの子、可愛すぎか。
「そ、そう……」
いやいや、そう、じゃないよ! 気圧されすぎだろ! 相手がロリの姿かたちをしているからって!
私はご主人様なんだ。もっと毅然とした態度をだね!
心の声は強気に叫ぶけれど、それが表には出てきてくれない。だってサーリャ可愛すぎるし! 可愛さのオーラがすごいから!
「……あのね、サーリャ」
「はい? どうしたんです、お姉さん」
私は、自分の、自分自身の理性を──。
ここで、試す!
「キス、しましょう」
サーリャの瞳を上から覗き込みながら、そう告げた。その場で防犯ブザーを抜かれて、ブタ箱に打ち込まれ、前科一犯になってもおかしくないようなその言葉を受けたサーリャは。
とても小学五年生がしちゃいけないような艶やかな微笑みを浮かべ、わずかに頬を赤くしながら。
「はい、喜んで♥」
そう言って、身を乗り出してきた。
思わず、腰を引く。すると、そのままサーリャに覆いかぶさられた。
「お姉さん、いっぱいきもちいいこと、しましょうね♥」
「えっ!? あっ、はい!」
はいじゃない。いや、合ってる。でもするのはサーリャからじゃない。私からだ。
サーリャの頬に手を当てて、顔を突き出した。その小さな唇に、唇に……。
静かに目を閉じるサーリャ。それはどこからどう見ても小学五年生の金髪美少女で、今私がやろうとしていることは、完全に犯罪で……。
平然を装っているつもりが、ドキドキが止まらない。耳の後ろがジンジンする。いいの? 本当に、いいの? 視界が狭まって、キス待ちの彼女の顔だけがいっぱいになって……。
「……んっ……」
キスをした。
あっやばい、これやばい。倒れ込んでくる彼女の体の軽さが、その細さが、その熱さが、その柔らかさが私の理性をドッカンドッカンと叩き壊してゆく。
確かめるように、もう一度キスをする。うん、ああ、うん、なるほど、なるほどなるほどー……。
さらにもう一度。ロマンスがあふれる。決して性欲ではない。そう、これはその、あれだ。試しているだけだから。お試しだから。
だいたい、AIとキスしてドキドキするとか、そんなのありえない。一流のおねロリ愛好家なら、そんな感情を抱いたりはしないはずだ。そして私は一流なのだ。
「んっ……ふぅ……あはぁ……♥」
キスをして、しなだれかかってくるサーリャの吐息が、私の耳をくすぐる。あっ、あっあっ、これやば……。
「お姉さん、好き……、好きです、好き……♥」
あっ、あっあっ。
耳の中をその小さな舌でかき回される。じゅっ、じゅっ、といやらしい音が脳髄を揺さぶる。さらに小さなサーリャのおててが私の頭を抱きかかえて、なでなでしてて。
「好き、好き好き……好き、好きぃ……♥」
負ける、負けるぅー……負けちゃうー……。
うう、でも、でも、でもぉ~~~~!
「ちっ、違う、でしょ……」
「なにが、です?」
「あなたは、ただのAIで、だから、その感情は好きとかじゃなくて……」
こじらせた百合厨である私は、最後の抵抗を試みた。私がこじらせていなければ、たやすく絡め取られてしまっていただろう。こじらせた百合厨でよかった。よくないよ。こじらせてなければ幸せになれたのに! 幸せになれたのに!!
身を起こしたサーリャが改めて私の唇にキスをする。ぺろりと唇の端を舐めてくる。やばい、やばい。唾液が甘い感じする。
「そんなの、大切なことですか……?」
「えっ……? いや、まあ」
「わたしは誰かの役に立つために生まれて、そうして、お姉さんがわたしを選んでくれたんですよ……。そんなお姉さんのために、わたしがご奉仕することが、おかしなことですか……?」
いや、それはおかしくない。それ自体はアンドロイドの本懐だ。わかっている。でも私は百合厨だから!
「女の子が! 私は、女の子が好きなの!」
サーリャを押し返す。金髪美少女アンドロイドの軽い体は、ほとんど無抵抗だった。
「だから、その、サーリャには悪いんだけど、やっぱり私は……私は……」
なにをグズグズしているのか、私は。こんなにかわいらしいミルクの匂いがする美少女がいつでも手が届くところにいるのに、あえて突き飛ばして。
ここでサーリャが『はあ、わかりました。ではもう二度と身体的な接触はしません』とか言い出したらどうするのか。私は一生後悔するのではないだろうか。
なにが試すだよ! 嘘つくなよお前! 私は自分の心に怒鳴る。
女子小学生とセックスしたくて買ったんだろ! サーリャを! セックスさ! キスとか、お風呂一緒に入って洗いっことか! あとセックスとか! ええそうですよ! 私はセックスしたいですよ! 外見が女の子ならなんにも問題ありませんよ! いや大問題だけど! でもサーリャすごいかわいいし!!!!
建前と本音とプライドに挟まれて、私は身動きができない。うう、どうすればいいんだ。なんで私はこんなにこじらせてしまったんだ。こじらせてなければ、幸せなのに。うう、好きでこじらせたわけじゃないんだよぉ……。サーリャとなにも考えずに幸せになりたいよぉ……。
やばい、涙出てきそうだ。このまま意識がなくなって死ねたら楽なんだろう……。でも、その前にやっぱりサーリャと少しでも……。
「あの、お姉さん」
私の腰の上に馬乗りになっていたサーリャが、私を見下ろしながら言う。
「わたしはアンドロイドですが……でも、女の子ですよ」
「っ!」
私の手を取ったサーリャが、その手を自分の胸に当てた。柔らかい──!
9割方はもうなんでもよくなってきたし、このままサーリャを押し倒せばいいじゃんって思ったけど、でも残り1割の私が必死に抵抗しやがった。
「女の子って、それ、そう設定されてるってだけでしょ……。そんな、できたてホヤホヤのAIに、心の機微とか……」
「……それは、そうですけど……」
悲しそうにうつむくサーリャ。あっ、胸が痛い……。小学生の女の子を悲しませてしまうなんて……。いや、違う。彼女はAIなんだ。もう頭がこんがらがってきた。
「だったら、これからがんばって、女の子になっていきますし、心の機微も覚えていきますから」
「それは」
私の手に両手を添えるサーリャは、主人に見放されまいと必死だった。それはAIに備え付けられている機能なのだろう。
けれどその瞬間、私の中に稲光が輝いた気がした。
「これから、女の子に……?」
「え? あの」
彼女は学習型のAIだ。
「……」
私は考え込む。
人が生まれた時点の性自認は無だ。環境が人を男子に、女子にと分化させてゆく。それは学習の結果だ。誰もが最初から男女として生まれてくるわけじゃないのだ。女の子は女の子として過ごす十年の後、私好みのロリっ子へと育つ。
では、AIの性自認は?
サーリャはまだ生まれたての赤子みたいな存在だ。自分を女の子だと思っているらしいけど、そこに女の子としての恥じらいやフェチい部分とかはあるんだろうか? いや、たぶんまだないと思う。
だとしたら、だ。これから私が、サーリャを女の子として育てていけば、彼女もまた、『女の子になってゆく』のではないだろうか。
その垣根がどこにあるのかわからない。どの時点でアンドロイドの性自認が女の子になるのかはわからない。でも、それが可能なら、本当にお姉さんにとっての完璧な都合のいいロリが誕生するのではないだろうか。
私好みの、最強のロリっ子が……!
「あの、サーリャさ」
「……はい?」
不安げな、涙さえ浮かべそうなサーリャを下から見上げつつ。
「とりあえず、三年。三年間は、こういうこと、しないようにしよう」
「えっ……?」
私は鋼の覚悟をもって言い切った。驚くサーリャに、真剣な眼差しを向ける。
「お試しなんかじゃなくて……サーリャを、私好みの最強のロリっ子に、育ててみせるから。そのときに、その、また」
サーリャの肩を掴んで、告げた。
「セックスしよう!」
***
それから、私はサーリャをごく普通の小さな子どものように扱った。
海外からホームステイしてきた金髪美少女だ。一般常識を教え込み、普通の人間として当然の知識を教えてゆくことにした。
それはきっとものすごく迂遠な道のりなんだろうけど、私はこれが正解だと疑わない。
AIに情緒や感情なんかが生まれるかどうかはわからないけど、女の子としての振る舞いは十分に芽生えるだろう。その結果、私の理想の百合セックスができるかどうか。やってみる価値はあると思った。どうせ、現実の女の子には手が届かないんだ。現実の女の子を遥かに凌駕する、最高のサーリャに育て上げよう。
私は私のこじらせた部分に聞く。これでいいんですか? こじらせた私は答える。うーん、ま、いいんじゃない? なにがだ。ぶっ飛ばすぞお前。お前のせいで大変な目に遭ってるんだからな。
こじらせた私も私の一部だから、これから一生付き合っていくしかないんだけど、さ!
「それではおやすみなさい、お姉さん」
夜。一緒のベッドで眠るパジャマ姿のサーリャが、布団に潜り込む。明日の仕事も早いから、早めに寝ることにしよう。明日からはサーリャが起こしてくれるんだと思うと、毎日寝るのが楽しみになりそうだ。
私のそばで丸くなって目を閉じるサーリャ。その整った鼻梁や、形の良い顎や、細い手足や、すごく無防備な寝顔を前にして。
「ふふ、おやすみ、サーリャ」
ムラッ……。
いやいや。
え、なに、今の。
気づけば、サーリャも熱っぽくこちらを見上げている。
目が合う。鼓動が跳ねる。
「あの……寝る前に、『します』か?♥」
いやいや、三年はしないって言ったじゃない。
違うんだよ。
私の中の小さな女の子は、そんな風に自分から誘ったりしないから。
だから、ダメなんだよ。
もうちょっと恥じらいとかね、機微とかを覚えてからじゃないと、それは私の理想のおねロリにならないから。ただの、アンドロイドを使った自慰行為になっちゃうから。
でも、まあ。
まあ……。
「あの、その…………」
「ふふふ、いいんですよ、お姉さん♥」
「………………」
よし。
三年間しないのは、明日からにしよう。
「す、好きって、いっぱい言いながらしてくれると、嬉しい……。あと、最初はできれば優しく……。キス多めで……」
「はぁい、お姉さん♥」
なんで要望まで出しているの!!! 私!!!
理想の百合セックスって感じじゃなかったけど。
でも! ま! これはこれでいいか!!! 前借り前借り!!!
おしまい。
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