第八項 思い入れを排除しよう

 今回は、大企業にお勤めの管理職の皆様には当てはまらないケースが多いかと思いますので、そのつもりでお読みいただけると助かります。

 どちらかと言うと、中小企業向けとなるでしょう。


 中小零細企業と一口に言っても色々とありますが、創業から十年前後、またはそれ以下の企業にありがちな拙いマネジメントをご紹介します。



 例えば、創業者。

 そしてその創業者と一緒に企業の立ち上げに尽力した創業メンバー。


 彼らのモチベーションには、己が「創業メンバーである」というよく分からないエネルギーが大きく関与しています。それは当然の事であり、言い方を変えれば「やり甲斐」であったり「責任感」だったりもします。


 ところが、創業からしばらくして安定期、もしくは拡大期に入ると、そこから採用された人員にはそういった種類のエネルギーが期待できません。これは当然の事だと思われます。

 無論、新たな部門の立ち上げであったり、新規事業参入のタイミングであればその限りではないでしょうが、多くの場合が既存の事業に途中から放り込まれるわけで、創業メンバーが保有している「思い入れ」など持っていませんし、今後もそれを抱く可能性は極めて低いと思った方がいい。


 そうであるにも関わらず、事業の安定化、拡大化と共にマネジメントラインを担う事になってく創業メンバーの方々は、それを理解できないでいる。


 理解できないだけならばまだしも、会社に思い入れを持てない社員に向けて「責任感が無い」だとか「やる気が感じられない」だとか言い出すわけですから、それはもうマネジメントの失敗が確約されていると思った方がよろしいでしょう。


 会社に思い入れを抱いてもらおうと思ったら、それはもう大変です。

 福利厚生の充実やあの手この手で従業員の定着率を上げ、それこそ五年、十年、十五年と働いてもらってようやく抱いてもらえるものだと思った方がいい。


 では、そういった社員のマネジメントをどうするべきなのか。

 それは、自分たちが抱いている「思い入れ」を理解する所から始めなければいけません。


 失敗するかもしれないのに、それでも起業を選択した創業者。

 そういったリスクがある事を承知で、創業者と運命を共にする事を選んだ創業メンバー。

 失敗すれば、露頭に迷う事になる。

 けれど、失敗するつもりはない。絶対に上手くいくと信じて、突き進む。


 そんな凄い連中だったという現実を、もう一度振り返ってみて下さい。

 そして今、この瞬間、もう一度そういったチャンスに巡り合えたとしたら、貴方はそこに飛び込むでしょうか。給与は下がり、安定は崩壊し、高いリスクを背負って冒険できるでしょうか。


 今現在が既にある程度の形を作り上げ、安定化が図れた企業となっているのであれば、そこに入社を希望する人間はそういった冒険を選択しなかった人間です。

 どちらが良い悪いではありません。

 ここから先は、無難な選択をする人間を上手くマネジメントしながら、組織として成熟を目指す時期に入っているのではないでしょうか。


 ご自身のモチベーションから、やり甲斐という心の栄養を取り除いてみて下さい。

 ご自身のモチベーションから、責任感という重圧を排除してみて下さい。

 ご自身のモチベーションから、会社に対する思い入れを消してみて下さい。


 どんな人材になりますか?

 どんなポテンシャルで仕事に挑めますか?

 どんな評価を受けると思いますか?


 つまり、新人というのはそういう存在だという事です。

 そうであるにも関わらず、同じ物を求めてしまう。

 だから、人が定着しないのです。


 勿論、給与や福利厚生で大企業に負けるという不利はあるでしょう。ですが、それだけに人が定着しない理由を求めるのは、思考の停止です。かなり危険です。


 思い入れを持てる段階ではない時期に入社したメンバーに対して、どういったマネジメントを行うのか。そしてそのマネジメントから、創業メンバー特有の思い入れを排除できるかどうか。勝手な思い入れを押し付けるような形になっていないかどうか。

 一度、考えてみる価値はあると思います。

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