上司になる才能

上司特有の自己陶酔に注意すべし

第七項 『言いたくない』なら言うな

 部下の指導を行う場合、その多くは『言葉』で行います。

 そしてその指導の中身が本当にどうしようもない、下らない、出来ればそんな指導はしたくないと思うような内容であったとしても、それを改善させるのが仕事である以上は、言わねばなりません。


 そういった場面でよく口にしてしまいがちなのが、指導内容の前後に付帯される「本当はこんな事、言いたくないんだ」という台詞。


 これ、即刻やめましょう。

 理由は大きく分けて二つです。


 先ず一つ目。

 指導される側に余計な情報を与え、素直さを奪うのをやめて下さい。


 人間弱い生き物ですから、何かを言われれば言い訳したくなります。誰かの所為にしたくなります。自分を守ろうとします。

 そんな精神状態の人に、言い訳の口実を与えないで下さい。


「は? 言いたくないなら言わなきゃいいじゃないか」


 指導される側がそう思ってしまうよう誘導しているのが、あなたの「こんな事、言いたくない」という実に余計な一言なのです。



 二つ目。

 あなたの仕事は「言う」ことではなく、改善させる事です。

 ただ「言いたいだけ」のダメ上司になっていませんか?


 指導の場面でよく見られるのが、指導している側の自己陶酔です。

 これが所謂「駄目な上司」になる入り口だったりします。ご自身に下記のような感情が生まれる傾向があるのならば、今すぐにでも習慣を変えましょう。


・言ってやった。

・どやしつけてやった。

・言いたくないけど、敢えて言ってやってる俺えらい。

・誰も言わないから、俺が言ってやった。


 こんな感じでしょうか。


 馬鹿ですか?

 あなたの仕事は言う事ではなく、改善させる事です。

 言葉は伝達手段であって目的ではありません。結果として改善が見られなければ、言ってないのと同じです。むしろ悪化させるような物言いをしていませんでしょうか。



 かく言う著者も若い頃――20代前半――は、指導される側の人間の気持ちなど一切考えない駄目な上司でした。

 よく上司から「言い方を考えた方がいい」とか言われてましたけど、それに対しても「正しい事を言って何が悪い」くらいに思っていました。


 本当に駄目な下級管理職だったと思います。

 正しく、言っている事にたいしての自己陶酔と、言われて不貞腐れるようなやつは辞めた方がいいくらいに思っていたブラック上司。会社の採用コストや教育コストの事を一切考えていない、ダメ社員。

 仮にも役職を付帯されているわけですから、そういった事まで考えて部下の指導にあたるべきであったと、痛烈に思います。当時の部下の方々にお会いする機会があったとすれば、真摯に謝罪したいくらいです。



 さて、ここまでくると「言わない方がいいのか」という疑問も沸いてきますが、そうではない。


 改善させる事が目的なのであれば、その対象となる人物に対してより効果的に刺さる指導を考え、それを言葉にして発するべきなのです。


 指導する側の人間が言いたいか言いたくないか、など、一切関係がありません。

 全て、指導される側の人間を中心に言葉を選んでください。


 それには、その対象をよく知る必要があります。

 初めの方でも紹介しましたが、彼を知り己を知らばナントヤラです。


 どんな性格なのか。

 社内の誰と仲が良いのか。

 どんな食べ物を好むのか。

 趣味は何なのか。


 そうして指導対象をよく知る事から始めましょう。


『士は己を知る者の為に死す』


 こんな言葉まであるくらいですから、自分をよく理解してくれている上司の言う言葉には、指導対象者もよく耳を傾けてくれるようになります。


 最後に一つ、とある企業さんの面白い指導をご紹介します。

 これは新入社員や後輩に指導する先輩や上司という立場の人に対し、会社としてその「心構え」を説いたものです。

 ご参考までに。


『教育とは共育と書く。教え育てるのではなく、共に育つのである』

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