中世イタリアのサスペンス劇場(決定版)

まず、作者橋本圭以様がイタリア在住である事を明記しておかなければなりません。

更に歴史マニアという才能を十二分に活かした物語でもあるので面白くない訳がないのです。

舞台は中世イタリア、フィレンツェ。
金細工師(親方)の中年男性が主人公です。

風体はカッコイイとはお世辞にも言えないのですが、彼の言動や行動はカッコイイの一言に尽きます。一見、面倒くさがりでスケベな上に仕事もろくにしない。大抵は弟子に任せっきりの駄目中年にみえて……ってな感じなのですが、粋な台詞にキレまくる頭脳、人間味溢れる性格が読み手を惹き付けます。

注目すべき点は主人公だけではありません。
登場キャラクターすべてに活き活きとした人物象があり物語を色鮮やかに仕上げています。

例としてトニーノという作品に登場するキャラクターを紹介しましょう。
このキャラは単なる役人で小間使い的なキャラなのですが、彼の心情が僅かな登場シーンで読み取れるのです。他にも沢山のフェレンツェ市民が出て来ます。

医者や召使い、酒場の主人や憲兵に聖職者。それぞれに魂がこもった人物描写。私達が知らない中世の臨場感が作品の完成度を格段に高め、本格的なミステリーテイストが読み手を満足させてくれます。

海外の日常。それも中世です。
この現代人の私達には想像する事は難しい雰囲気が、この作者さまの手にかかると面白いほど伝わってきました。

街並みの描写から人々の人間関係、暮らしを描く文章は流麗で想像力を掻き立てます。読みやすい文章は、複雑な物語展開をすんなり理解させ、ストレスのない読み応えです。登場人物の活き活きとした表現は映画を見ているような感覚に陥るでしょう。

読めばお気に入りのキャラが出来ると思います。
主人公である金細工師(中年男性)は刑事コロンボとも、名探偵ポワロとも違う素晴らしい魅力のおっさんなんです。

キレ者の人物像はちょっと風変わりな性格だったりしますが、この作品の主人公は普通のおっさん。

いえ、元宮廷お抱えの金細工師なので普通ではないのですが、親しみのある人格は身近にいそうな感じさえありました。そして、彼の中にある道徳感や信念が物語の魅力に直結していると思います。

しかし、この物語は主人公だけの視点で楽しむのではなく、もう一人の若い警吏が進行をより面白く導くのです。

二つの軸から進展をみせる構成で、細かい伏線が交錯していく様は、まさにミステリー小説の醍醐味が詰まっていました。謎であった部分がスッキリと解消される爽快感。臨場感いっぱいの緊迫する場面。これぞ推理サスペンスって感じの傑作でした。

22万字がアッという間に読めてしまう作品です。

どうぞ、ご覧下さいませ。一読必見です!

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