第七話 スリットの向こうの新世界
どうする? どうすればいい?
半ばパニック状態に陥りながらも、僕は必死で考える。
こいつについていく? あり得ない!
じゃあ、こいつを倒すのか? どうやって? 僕の超能力で!?
あの公園でPSの
それでも、やるっきゃない!!
「その、NX-1701ってのは何だ?」
僕は、少しでも油断させようと、なるべく冷静な口調になるように心がけながら問い返していた。でも、言葉の端が震えてたかもしれない。
「君のコードナンバーだよ。君は今まで確認されていない類型の超能力の持ち主だ。ゆえに未確認コードのNXが付番される。そして未確認類型としては十七番目になり、その第一号だから1701となる」
そう言いながら近づいてくる怪人。そいつが、あと一歩で僕の手の届くところまで近づいてきたとき、僕は自分の力を解き放った!
「そんな風に、人を番号で呼ぶような組織なんて、僕はご免だよっ!!」
そう叫びながら、秘かに掌に集めていた電撃を怪人に向かって撃ち出す!!
「愚かなり」
だが、その電撃は怪人に当たっても何事も起こさなかった。
「……え?」
呆然とする僕に、怪人は勝ち誇ったように言う。
「君の……いや、お前の能力が電撃に関係あることは、工作員1305号が気絶する前に放ったテレパシーで把握していた。ゆえに絶縁素材のスーツを着用していたのだ。お前の能力は通じぬ」
「がはっ!」
思わず変な声が口から漏れていた。首が絞められてる! 目の前の怪人は、僕に直接触れる距離には居ないのに!!
……
「旧人類に与する愚か者め。残念だが、気絶させてから回収しよう。その後は実験体にするか、洗脳するか、いずれにせよ我らの役に立ってもらおう」
「か……は……」
息が……できない……このままじゃ、気絶して……
そのとき、薄れゆく意識の中で、僕は視界の端にひらめくものを見た。
十五センチくらいの長さのスリットが入った短めのタイトスカート。
その下には、ガーダーベルトに吊られたストッキングのほかに、太股に巻いた鞘に短剣が隠されていたのを、僕の目は捉えていた。
その短剣が引き抜かれる瞬間、ひらめいたスカートのスリットの向こうに、僕は新しい世界を見た。
次の瞬間、その短剣は怪人の背中に突き立っていた。
「グアッ、おのれ!?」
だが、最後の瞬間に
「今よ、これを狙って!!」
叫ぶ椚さん。彼女に対して振り向こうとした怪人の隙を、僕は見逃さなかった。残された最後の力を振り絞って、僕は短剣目がけて電撃を放つ!
「ウガァァァァァァァッ!!」
悲鳴を上げて倒れ伏す怪人。絶縁体のスーツを金属の短剣が貫いてしまったのだから、そこに電撃を流せば感電させることができる。
怪人が昏倒すると同時に、僕の首を絞めていた
そんな僕に、椚さんが声をかけてきた。
「助かったわ、杉崎君。ありがとう。でも、守るべきあなたを危険な目に合わせて、しかも戦わせてしまうなんて、護衛失格ね」
そんな彼女を見ながら、僕はついさっき生まれたばかりの自分の気持ちを自覚していた。そして、今はまだ言えなくても、いつかそのことを言うための第一歩として、こう答えた。
「いいんですよ、百合さん。僕は、もう守られるつもりは無いですから」
「え?」
「僕も戦います。こいつら、PSと。PI機関の一員として」
「……いいの? 実際に戦うとなると、今回どころじゃない危険もあるわよ」
心配そうに言う百合さんに、僕は笑って答えた。
「覚悟の上です。もう決めました。ただ守られるだけの情けない男なんて、やめたいんです。それに、今までみたいに将来のことを何も決められずグダグダと無駄な時間を過ごしたくないんですよ。欲しい未来が見えたから」
「杉崎君……」
「冬也って呼んでくださいよ。もう、仲間なんですから」
そう、これは第一歩なんだ。百合さんの隣に立って戦うための。そして、いつか百合さんに男として認めてもらうための。
僕は絶対に掴んでみせる、百合さんの心を! そして、手に入れるんだ、あのとき
スリットの向こうに見えた縞模様、絶対に僕だけのものにしてやるさ!!
二重スリットの向こうの世界 結城藍人 @aito-yu-ki
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