ショートストーリー形式で紡がれる、失われた連鎖

街を襲う連続殺人事件、それはまさしく「現代の切り裂きジャック」。

実在したイギリスの凶悪犯「切り裂きジャック」からインスパイアを受けた推理小説は、枚挙にいとまがありません。
そんな「メジャーなタイトル」にあえて挑戦した筆者の志をまず讃えたいです。そして、単なる猟奇殺人事件にとどまらない、巧緻な人間ドラマの数々にも没入しましょう。

章ごとに物語を区切った、連作短編のような構成が素敵なのです。
猟奇モノ・連続殺人モノは大抵、どうしても犯人像の追求を第一優先にしてしまいがちです。被害者が多すぎるので、一人一人にはスポットが当たりにくいのです。
……が。
本作は何よりも、被害者たちの「人生」を切り取ることに腐心しています。
彼氏と彼女。
上司と部下。
患者と医者。
彼らの私生活を事細かく描写し、ともすれば純文学めいたメロドラマや社会風刺を綴っています。

犯人像を追うサスペンスよりも、被害者の奪われた人生に主眼を置いている点が、面白いなと感じました。

その中から、徐々に浮かび上がって来る点と線。ミッシングリンク。

被害者たちの人間ドラマから、あぶり出した文字のようにジワジワと切り裂きジャックへ迫るヒントがにじみ出て来る……ああ、こういうアプローチの仕方もあるんだな。
いや、え、なんでこの人、こんな所でアマチュアやってるんですか!?
そこら辺のプロ推理作家より面白いんですけど!?

筆者は別作品で「カクヨム公式ピックアップ」された筆力の持ち主です。
ジャンル的には『社会派ミステリー』でしょう。リアルな人間たちの猟奇世界を堪能してみませんか!

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