これが、ファンタジーを読むということ

 ファンタジーと魔法を切り離して考えられなくなっていたのは、一体いつからだろう——。

 確かに、ファンタジーには魔法的要素がつきものだ。
 現実とは異なる法則が存在するというのは、それだけで心躍るものがある。
 だから、(ある意味ではその気安さ、手軽さに、)気を抜くと魔法が大きく幅を利かせる作品に傾倒するようになり、いつしかそれがファンタジーの本流であると考えるようになっている。

 けれど。
 幼い頃に心躍らせたあの物語は、果たしてそれほど魔法がちだっただろうか?
 外が白み始めるまで読みふけったあの物語は?
 胸にこみ上げる展開に涙したあの物語は——?

 そうだ。私の決して多くない読書体験の中にも確かに、魔法がなくても魅力的な"ファンタジー"は存在した。
 多様な定義があると思うが、少なくとも私の愛するファンタジーとは、魔法の気配の強弱にかかわらず、現実では決して有り得ない幻想的な空気に、或いは手に汗握る展開に、或いは一つずつ積み上げていくその"生きている"という感覚に、心が踊り、震え、気付けば何かが込み上げる——まさしく本作のような物語のことだったのだ。

 ページを閉じた後、あなたもきっと幸せのため息と共にこう思うだろう。

 これが、ファンタジーを読むということだ——、と。

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