【!】ネタバレ含みます。未読の方はご注意ください。
多少遠回りしながらも正しく生き、妻子に恵まれ、平凡ながらも幸せな家庭を築いてきた男。
そんな男のもとにある日、彼のことを「人殺し」だという一人の少女があらわれます。
男は心当たりなどないながらも、どうして自分が人殺しなどと呼ばれるのか、知人も交えて思考を巡らせて――
というヒキのある設定と展開の先に待ち受けるのは、彼が確かに「人殺し」であったという事実。
そしてそれは、ある意味ではあらゆる人に起こりうる、決して他人事ではない結末であると言えます。
人は誰しも、何かを選択しながら生きている。
そして何かを選択するということは、何かを選択しなかったということ。
物語を読むだけの第三者だったはずが、気づけば当事者にさせられている。巧みなミステリでした。
短く綺麗にまとまっていることはもちろん、やわらかで丁寧な筆致にも一気読みを誘われました。
リーダビリティの高さにも感服です。
平凡なサラリーマンである田代健二。
マイホームがあり、優しい妻と可愛い息子に囲まれて幸せに暮らしていた。
そんな彼に突然、少女が言葉をぶつける。
人殺し。
身に覚えのない田代は聞き流すが、その日から眠れぬ夜を過ごすようになり──
***
読み始めたら止まりません。
先が気になって気になって気になって。
そこかしこに配置された布石に気付けるのであれば、もしかしから、この『優しい』結末に気付けるのかもしれないが……
私には無理だった。
でも、私の予想が裏切られて本当に良かった。
そう思える結末でした。
『人殺し』の答えを、是非あなたも確認してください。
そして──
自分も『人殺し』である可能性に……涙してください。