ドーナツの穴から見えるのは
- ★★★ Excellent!!!
偶然にも、幼馴染が殺害される瞬間を目撃してしまった女子高生、聡美。
それ以降、聡美を中心に物騒な事件が多発。幾度となく命の危機にも瀕します。
これはやっぱり、犯人による口封じ……!?
――とまあ、誤解を恐れず言うなら、ここまでは割とありがちな展開です。
しかし、本作の見所はここから。
普通ならこの時点で、恐怖に苛まれて家から出られなくなったり、事件のことは警察に全て任せよう、となりそうなものですが……聡美は一味違います。
彼女はなんと、命を狙われている身であるにも関わらず、自ら積極果敢に情報収集!
担当刑事をして「犯人もとんでもない人に目撃されちゃったもんだ」と言わしめるほどのバイタリティを以って、彼女は多少強引ながらも殺人事件における探偵としての役割を全うし、担当刑事とドーナツを食べながら、まるでその穴をゆっくりと覗き込むように、真実に少しずつ迫っていくのです。
そしてその結果、様々な人物の意図と思惑が交錯し合って――
と、そんなふうに、ラブコメ界では比較的王道寄りではあるものの、ミステリ界にはありそうでなかなか無かった聡美のキャラクター性によって、(これまた誤解を恐れず言うなら)いかにも習作風の出だしから見事に、オンリーワンの快作へと一気に飛躍を遂げます。
学生が探偵役を務めるミステリーにおける事件には、学生の領分を越えた事件を取り扱いづらいという性質上、ある種の制約が課せられているものなのですが、本作はその制約を(優秀な刑事二人の手厚いバックアップがあるとはいえ)、聡美のそのキャラクター性と、それを軽妙な筆致で紡ぐ筆者の技量によって自然に乗り越えることに成功している、類まれな作品であると感じました。
……そしてなんといっても、どんがらがっしゃーんと椅子から転げ落ちたくなるような(もちろんいい意味でです)ラスト。
「予想不可能、驚天動地の結末!」とかそういう感じじゃなくて、こう、椅子から転げ落ちたあとに、「ああ、よかった……」ってなるような……笑
個人的に「ラブコメ×ミステリ」の親和性は高いと常々感じているのですが、本作はなんというか、これまでにない角度からその親和性を立証されたような気分です。
……さて、ラブコメ×ミステリ党の皆さん。
ドーナツの穴を通して見るミステリの世界は、果たしてどんな結末へと向かっていくのか。
あたなもこの作品で、新たな扉を……いや、新たな穴を、開けてみませんか――?